自殺志願者
Dはサングラスを装着し、両手でアフロを整えた。そして、指をパチンと鳴らす。
「いかにも、うちはお客様の悩み事ならなんでも解決するというなんでも屋の株式会社Dですよ。しかも!」
「しかも?」
女性が不思議そうに聞き返す。
「受けた依頼は絶対に断らないと言うのがモットーでね! 評判がいいんですよ。なんせ、うちの従業員は超優秀ですからネ」
「そ、それはよかった。では、早速依頼したいことがあるんです」
「ほう、聞こう。まずは座ってください奥様」
女性はソファに座ると全員の顔を一度見てから、胸に手を当ててそして、改めて言った。
「うちの息子が自殺しようとしているんです。どうにか説得して助けて欲しいのです」
Dは人差し指でサングラスを押し上げてる。
「うーむ、自殺と来たか。ちなみに息子さんは無能力者ですか?」
「はい、そうです。もうずっと家に引きこもって学校にも行かないんです」
Dは烏丸とナシに視線を向けてから言った。
「シンプルに説得して息子さんを外の世界に連れ出してあげた方がいいね。して、奥様?」
「はい?」
「なぜ自殺しようとしているとわかるのですか? 息子さんは何か自殺未遂などの行動を起こしていると?」
女性は声を震わせながら言った。
「そうなんです。なんかの薬を一気に大量に飲んだり、自分で自分の腕をカッターナイフで傷つけたり自傷行為をよくやるんです。この前なんて、自室のドアノブにロープを引っ掛けて首を釣ろうとしたんです。途中で私が異変に気づいて止めに入ったので命に別状はありませんでした」
女性はDに差し出された紙に住所や今回の依頼の目的、現状の悩みなど必要事項を記入していた。書き終えた女性はそれをDに渡し、Dはそれを人差し指と親指でつまむようにして持ち上げてチェックする。
「ケーオツ(オッケー)です。奥様。では、明日奥様の自宅に向かい…」
Dは人差し指と小指を突き出して前方の二人を指差した。
「この優秀な二人が息子さんの今いる闇から光へと導き出して見せましょう」
「それは助かります。どうか、どうかよろしくお願いします」
烏丸は頭を下げる。ナシも横目でそれを見て真似して頭を下げた。女性は立ち上がり、事務所を後にした。Dは女性が事務所を出るのを見送って、再びソファにどっかりと座った。
「さて、作戦会議だ」
Dは前屈みになりガラス台の机の上に両肘をついて、そして手を組む。その上に二つに割れた顎を乗せた。
「少年をどう自殺未遂から救うのか? 論じようではないか」
Dが言ってからすぐにナシが手を上げた。
「はい、ナシ君! 発言を許可する」
ナシは澄んだ瞳で、それはまるで少年のようだった。
「なぜ死ぬことを止める必要があるんですか?」
三人の中で沈黙が流れた。佐藤さんの事務所ではBGMのように毎秒ごとに奏でられるキーボードを叩く音がこの時は止んだ。
「おい! ナ…」
烏丸が言いかけたところをDは手で制して止めた。そして、再び手を顔の前で組み割れた顎を乗せて、じっとナシを見据える。
「そうだね。僕は社長である前に社員の教育者でもある。わからないことはどんどん教えていく義務があるよね」
ナシは不思議そうに首を傾げる。
「まずはナシ君の意見を聞いていこう」
Dは顔の前で組む手を解いてナシに手を差し伸べた。ナシは「はい」と答えて意見を述べ始めた。
「死にたいなら。死ぬべきだと思ってます。それがその人の根源的な願望だからです。お金が欲しいのと一緒です。お金が欲しければたくさん働いてお金を稼ぐことです。死にたいなら、欲のままにそうすべきです」
ナシの瞳は澄んでいた。嘘も何もついてないまごうことなき澄んだ瞳で、意見を言って述べた。しかし、沈黙はまだ続いていた。Dは、ナシの言うことを体全体で噛み締めるように目を瞑り何かを感じている様子で聞いていた。
Dは何かに語りかけるようにゆっくりとゆっくりと言葉を選びながら言った。
「ナシ君にとって楽しいことって何かな?」
ナシは首を横に振る。Dは口元を緩ませて今度は腕を組んだ。
「そっかー、ナシ君が発見されたのはつい最近。まだ生まれたばかりの子供のようだもんね。楽しいものはまだないのかもしれない。でも、これから生まれる可能性もある」
ナシは軽く頷く。そして、Dは続ける。
「僕は一度言ったよ。社員を家族のように愛してるって。ナシ君も当然その一人だ。しかし、どうだろう? もしナシ君が死ねるとしよう。そして、ナシ君は自分の力で死んだとする。僕の感情はどうなると思う?」
ナシは数秒考えて口を開いた。
「悲しいですか?」
Dは首を横に振る。
「怒りだ。僕はもし、ナシ君が自分の手で死を選択したらクソやろー! って怒りが湧いてくる。なんで、死にたいくらい辛いなら言ってくれねぇんだよって、腑が煮え繰り返るレベルだ」
Dは両手で拳を作ってナシに向けた。何度かパンチするそぶりを見せた。




