時代鑑定
都内の小鳥遊が勤務する大学病院の個別診察室にて。
以前来た時のように小鳥遊は診察用のデスクにある椅子に座り、その正面にはナシが座る。看護師がいる裏方と診察室はカーテンで仕切られ、ナシの後方にはドアを閉めて仕切られている。
「ナシさん、今日は一人なんですね。公共交通機関の利用方法はもう慣れましたか?」
ナシは軽く頷く。両手を膝の上に置いて軽く握る。
「烏丸さんやDさんに迷惑かけたくないので、病院は一人で来ることにしました」
「そうですか。ナシさん、無理しなくていいのですよ。体の痛みの方はどうですか?」
「無理はしてないから大丈夫です。痛みはまだあります。恐怖心もまだ消えません。まだ、気分が晴れないというか、なんか刺されたところの痛みもまだ残るし…」
「刺されたのですか?」
ナシは頷く。そして、小鳥遊は驚いた表情を浮かべる。
「ナシさん、君は少し体を張りすぎているのかもしれない。仕事を少し休むというのはどうでしょうか?」
ナシは一瞬目を見開いて驚いた様子だった、それから何度も首を横に振った。
「それは嫌です。会社の皆さんには迷惑をかけたくないからです」
「しかし、これでは身も心も壊れてしまう」
「体は大丈夫です。心も…なんとかなります。そうだ!」
「どうしました?」
「薬を! 薬をもっと増やせば大丈夫になるはずです」
ナシは少し興奮気味に前のめりになって小鳥遊に話すが、小鳥遊は至って冷静に首を横に振った。
「薬を増やしても根源的な原因を取り除かなければ今の体も、心の痛みもなくすことはできません」
ナシは立ち上がる。それで小鳥遊に対して少し口調を強めて言った。
「休むことは絶対にできません。まだ、仕事を始めたばかりですし、僕にしかできないことだらけだからです」
「ナシさんが経験していることは普通の人間が何度も死を経験するのと同じことです。体は持っても心が…」
「お願いします! お願いします! 僕は会社しか居場所がないし、僕にはこれしかできないんです!」
小鳥遊はほうとため息をついて肩を落とす。
「もう無理しないと約束できますか?」
「はい、します!」
小鳥遊はナシの目をじっと見る。それから視線をデスクの上にパソコンのキーボードに落とした。そして、キーボードを操作する。
「分かりました。薬の量を増やして様子を見てみましょう。今回は痛み止めを追加します」
「あ、ありがとうございます!」
「あまり無理をしないでくださいよ」
「はい」
小鳥遊はキーボードをカタカタと何か入力作業をしてから、またナシの方へ向き直った。
「Dさんからナシさんが発見当時来ていた衣服、それから入っていた棺に付着している物質や棺自体の材質から何年前に作られたものか特定するように依頼を受けていました」
「は、はい」
ナシは何か安堵したのか気の抜けたような返事を返した。
「いいですか? ナシさん」
「はい」
「ナシさんが着ていた服や棺ですが、縄文時代に作られたものであることが分かりました。縄文時代とはご存知ですか?」
「いえ、知らないです。ジョウモンジダイ?」
小鳥遊は腕を組んでナシのことを見据える。
「縄文時代です。何があったか知らないですか?」
ナシは呆然と口を開けたまま。しばらくして閉じてから言った。
「いえ、知らないです」
「ナシさんは本当は博物館に行ってもいいレベルですよ。というか、特殊生命体の歴史を追えるチャンスかもしれない大発見です。特殊生命体、つまり有能力者はまだ解明されていない点が多くありますが、ナシさんの記憶が戻る、またはなんらかの手がかりがあれば論文を出せるレベルの話になってきますよ」
小鳥遊は興奮を抑えている様子だったが、目を見開いてナシに身振り手振りで説明するがナシはいまいちピンときてない様子でただ黙って話を聞いていた。
「…」
小鳥遊が話し終えた後には、ナシの頭の上には疑問符が何個かつきそうだった。小鳥遊はナシの様子をみてからキーボードで何かまた打ち込み、パソコンのディスプレイをナシに向けて話した。
「縄文時代とはこういうことをやっていた時代ですよ」
パソコンの画面には縄文時代を象徴するような画像が表示されていた。それは土偶や弓矢や槍を使った狩猟の映像、麻で作られた服の映像や生活様式など。
「一説によると、縄文時代では有能力者を神の使いと崇め、奉っていたという言い伝えがあます。他にはですね…」
小鳥遊が会話を続けていた時だった。
「はぁ、はぁ」
ナシは大粒の汗をかいて頭を抱えていた。顔色は真っ青になり血の気が引いているようだった。
「な、ナシさん大丈夫ですか!」
小鳥遊は立ち上がり、ナシの背中に手を添えた。
「頭が…頭が割れそうに痛いです」
「発作が起きているようですね。少しベッドで横になってください」




