作戦会議
「ああああああ、天音ひまりさんだ!」
佐藤さんは興奮気味にそう言った。顔を赤らめて今にも倒れてしまいそうな勢いだった。
「佐藤さんが言うってことはモノホンで間違いないネ」
天音ひまりはDにソファに座るように催促されてDの隣に座った。向かい側にはナシと烏丸が座る。
Dと天音ひまりが隣同士で座るとDのアフロ頭も相待って天音の顔がかなり小さく見える。逆にDの顔がかなり巨大に見える。
「ここって、困り事ならなんでも救ってくれるっていう会社なんですよね?」
何かを期待するように瞳を輝かせて天音はそう言った。そして、悠然とDはワイングラスにワインを注いで、顔の前にワイングラスを掲げる。
「いかにも! うちの会社はお客様の困り事ならなんでも解決し、そして、断らないのがモットーでね」
天音は急に席を立ち上がり、事務所の入り口やソファの後ろなどを手で何かを探るような動作をしてから、安堵してまた席についた。
「今、ストーカー被害に遭ってるんです!」
「ほう、ストーカー」
「はい、犯人がどんな奴かはもう突き止めてるんです」
「して、どんな犯人なんだい?」
天音は口をへの字にして腕を組んでから言った。
「透明人間の有能力者です」
天音は続けて言った。
「透明人間になってうちに入り込んでるんです。だから、いつも何処かで見られていと思うともう怖くて怖くて…。警察にも被害届を出したんですけど、厳重注意だけで結局何も動いてくれなくて、だから最後に頼れるのはここにしようって思って来ました」
Dは指をパチンと鳴らす。
「お嬢さん、それはナイスな判断ですよ。しかも、うちの従業員は超優秀ですからネ」
「能力を使ってストーカーするとか陰湿でどうしようもない奴ですね」
烏丸は苛立ちの表情を浮かべる。すると、ナシは頭に疑問符が浮かぶ。
「ストーカーってなんですか?」
「一方的に好意を持った女をつけ回したり嫌がらせをしたりする奴のことだ」
烏丸から説明を聞くとナシも表情が険しくなる。
「それは良くないことです! 天音さんのためにも捕まえましょう」
そして、しばらくナシは考え込む。それから口を開いた。
「でも、どうして透明人間だってわかるんですか?」
ナシは少年のような瞳で素朴な疑問を天音に投げかけた。
「お風呂入ってる時とか寝てる時とか触ってくるんです。も〜キモくてキモくて、最近は近くのホテルを借りて生活してるんですよ」
「でも透明人間ってどうやって捜索したらいいんですかね?」
烏丸はDに言うと、
「とりあえず天音さんちに行けば出会えるんじゃないのかな?」
「でも、ずっと家にいるわけでもなくないですか?」
「その透明人間は今どこにいるかとかわかりますか?」
今度はナシが天音に聞いた。
「わからないです。家も鍵閉めて出てったまんまだし、もし中にいるんだったら鍵を開けて出てったかもしれません」
Dはニヤリと口角を上げてサングラスを指で持ち上げた。
「天音さん、囮になっていただけますか?」
「え? 囮ですか。ちょっと、怖いです」
「大丈夫、天音さんにはこの小型無線機を装着していただいて相手から何か接触があったら僕らに連絡を入れる。そしたら…」
Dは前方の二人を指差した。
「この二人が命を賭けて天音さんをお守りし、痴漢ヤローを捕まえて見せます」
「Dさんは!?」
烏丸が言う。そして、Dが答える。
「僕は二人のバックアップをするよ。もちろん全力でね」
「ナシ、また二人だけの作戦になりそうだな」
「僕はどんな時でもDさんのために頑張りますよ! 住む家もスマホもDさんからもらったので恩返しをします」
「うんうん、実にいい子だ。そうやって僕に利益をもたらしてくれたまえ」
そして、Dは小型のマイクとGPSが搭載されたイヤホンを用意した。そして、所々慣れない手つきで触ってみる。そして、少し沈黙したあと。
「これどうやって設定とかすんだろう? 誰かわかる人、挙手!」
ナシと烏丸は無反応。そして、佐藤さんが事務作業用のデスクからこちらへ寄って来て。イヤホンを受け取る。そして、パソコンで何やら操作をしてからまたこちらへ戻って来た。
「これでパソコンとイヤホンの同期が取れました。位置情報も音声もこちらのパソコンで拾えます」
「グッジョブ佐藤さん! やはり持つべきものは有能な社員だね」
「Dさんって一人じゃ何もできないじゃないですか!」
烏丸が呆れ果ててDに言い放った。
「あー、社長命令、社長命令。今の発言を取り消しなさい。さもなければ給料の減給を行う。身のためだ直ちに取り消しなさい」
「嫌です! 真実を言ったまでですから! そのくらいの自由が社員にもあっていいはずですよ! なー、ナシ。これから俺らも反発していこうぜ!」
「僕はDさんがやれと言ったことをやります。Dさんには住む場所も仕事も与えてもらっているからです」
「聞いたかい? 翼君、これが一般的な意見なのだよ」
「完全に洗脳されてる! 俺の目標はナシのこの洗脳を解くことです」
会話のラリーを目で追っていた天音はクススと笑い始めた。
「ウケる。いつもこんな感じなんですか?」
Dはワイングラスを掲げてから言う。
「まあね、社長っていうのは実に大変な仕事ですよ」
天音は少し前のめりになって興味深そうにして聞く。そして、大きな瞳で二人を交互に見た。
「二人は有能力者なんですか?」
「い、いや、俺は無能力者っす。そ、そんでこいつが有能力者で大学の先生曰く、不老不死の能力を持ってます」
「すごいだろ? お嬢さん。肉体労働ならなんでも来いだ! 僕には人を見る目があるんだ、当然! 社長だからネ」
Dはまるで自分のことのように得意げにそう言った。
「すごいですね。そんな能力があったなんて驚きです」
「まあ、安心してください。天音さんこのイヤホンをつけていればいつでもどこでも飛んで駆けつけますから」
烏丸がふうと一息ついてから改めて言った。
「で、具体的にどんな作戦にしますか?」
ナシが口を開く。




