天音ひまり
「よーし! じゃあ日本刀は事務所に置いておくから今日はこの辺で解散!」
今度は三人が返事をする。そして、事務所の片付けを行う。
「ナシ、帰ろうぜ」
「Dさんはこれからどうするんですか?」
ナシが聞いた。時刻は夜の十一時を回ったところだった。
「僕は僕でこれから夜を楽しむよ」
「またナイトクラブですか! Dさん! よくこんな時間からいけますね」
Dは当然のこととして言っていた。
「え? そうだけど。この時間からが盛り上がるんじゃん。僕はこれから朝までダンシングナイトするよ。翼君も来る?」
「いいです。帰って寝ます。もう疲れたんで」
烏丸はゴミ袋にゴミを入れてまとめて事務所の隅に置いた。
「ナシ、帰ろうぜって…」
烏丸はふと思った。
「ナシってどこに帰るの?」
「ナシ君には社員寮を提供しているよ」
「そっか。よかったな帰るところがあって」
「はい。Dさんには感謝しています」
四人がそれぞれ解散した。
烏丸はいつも通り株式会社Dが貸し出している社員寮に到着していた。社員寮は株式会社Dから徒歩で行ける範囲に位置しており、入り口にはオートロックがあり、鉄筋コンクリート作りの間取りは一Kのマンションだった。烏丸は玄関前で鍵を開けて中に入った。すると、
「ナシ!」
部屋の隅で体育座りしているナシがいたのだった。
烏丸は手を握って顎に置き、何か考えを巡らせる。
「ちょっと待て、まさかDさんナシに社員寮を貸したっていうのは俺と同じ部屋ってことか!」
「またよろしくお願いします」
にっこりと晴れ上がるような笑みを浮かべるナシであった。
「このDさんめ! 相部屋なんて聞いてねえぞ!」
この頃、東京都渋谷区のとあるナイトクラブでは。
「イエーイ! みんな盛り上がってる? 今日はダンシングトゥナイト! フー!」
ナイトクラブで真夜中のパーティーを楽しんでいた。
次の日、夕方。
株式会社Dの事務所のドアを開いた。そして、呑気な声で入ってくる人物がいる。
「おっすー。みんな元気? 僕はたくさん寝たから元気もりもりだよー」
「Dさん! 社員の出社は朝の九時です! 今何時ですか?」
時刻は夕方の七時、烏丸は強い口調でDへそう言った。
「まあまあ、そう怒りなさんな。僕は僕で昨日はオールで夜を楽しんだ…それで十分なことだと思わぬかね? 翼君」
Dは事務所にある冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してキャップを開けて口をつけて飲む。
「ふー、今日も二日酔いだ。でも、昨日は楽しかったから悔いは無し!」
Dはどっかりとソファに腰掛けた。向かい側のソファにはナシと烏丸が座る。そして、Dはガラス台の上に置いてあるテレビのリモコンを手に取り、テレビのスイッチをつけた。
DはCMにドラマ、バラエティ番組などテレビをザッピングし始めた。
「うーむ、この子よく出てるねぇなんて子だっけ? ほら、アイドルグループの…」
「え? 誰ですか?」
「テレビ見ないからわからないです」
「Twinkle Beatsの天音ひまりちゃんです」
佐藤さんが事務所奥のデスクから早口でつぶやいた。
「あーそうそう。Twinkle Beatsだ。そんで天音ひまりちゃんだったね。最近テレビで引っ張りだこ、忙しそうだねぇ」
佐藤さんのパソコンのキーボードをカタカタする音が消えた。そして、メガネをかちゃりと持ち上げる。
「忙しいなんてもんじゃありません! ひまりちゃんは今年だけでドラマ二本、映画一本、CM七社、バラエティーのレギュラーまで始まったんですよ! しかも歌もダンスも完璧で、ファンサも神なんです! ライブでは最後の列までちゃんと見て手を振ってくれるんですよ! SNSの更新も毎日欠かさないし、あんなに売れてるのにファン一人一人を大切にしてくれるし、しかも! しかも! あの国宝級美女にも選出されたほどで…」
「あ、あーわかったよ、佐藤さん。詳しくはまた今度聞こうね」
また、Dは飲み終えたミネラルウォーターのペットボトルをバスケットボールのシュートを打つみたいに狙いを定めてゴミ箱へ投げた。ペットボトルは見事ゴミ箱にゴールインする。
「あ〜あ、僕もそんな人生があったのかなぁ」
ソファにどっかりと座り天を見上げるD。ちょっとニヤリと笑みを浮かべる烏丸。
「翼君、今笑ったね?」
「いや、笑ってないっす」
「嘘だ、今、フフって笑ったのを僕は聞いたよ」
「あの…」
「翼君、減給待ったなし」
「はあ! なんでですか!」
「あのう…」
「だって、僕のこと馬鹿にするようなことするんだもん」
「してないじゃないですか。証拠も何もないし!」
「あの!!!」
二人とも沈黙する。見てみると、事務所の入り口に一人の女性が立っていた。
女性は艶のある黒髪は胸元まで真っ直ぐに流れ、綺麗で吸い込まれそうな大きな瞳をしている。透き通るような白い肌に綺麗な桃色の唇…をしているが、着ている服装は上下グレーのスウェットだった。あとは片手にサングラスを持っている。
「あー、はいはい。どちら様かな?」
「天音ひまりって言います」
ぺこりと頭を下げた。
「天音…ひまり…さん。あれ?」
Dはテレビに出ているTwinkle Beatsの天音ひまりと今、目の前で天音ひまりと名乗る人物を見比べていた。
「モノホン? ってか、アイドルの私服ってスウェットなんだ」
「身バレしないように変装してきたんです!」
その女性は吐き捨てるようにしてそう言った。




