日本刀
「そう! もっと飲みな! 酒は飲めば飲むほどいいんだから」
「あーあ、あんた社長失格ですよ。なんかの監査が入ったら絶対うちの会社終わりですよ」
烏丸は呆れながら吐き捨てるようにしてそう言った。
「んんもう! 烏丸君は真面目だなぁ! いいじゃんかぁ千万入ったんだから」
「ヤクザの金でしょ? どうするんですか? うちの会社ヤクザと関係を持ってることになっちゃいましたよ」
ナシはもう一杯自分のショットグラスにテキーラを並々注いで、そして一気に口に流し込んだ。
「一回だけならまだセーフかと」
佐藤さんはメガネをかちゃり上げてボソリとそう言った。佐藤さんの趣味は推し活である。現在、イケメンの烏丸と新入りのナシを推している。
「でも、僕らが助けに入らなかったら女の人は死んでたんだよ、一人の命を救うことは全ての組織の垣根を超えて大変重要なことだとは思わぬかね? 翼君」
「千万もらったから調子乗ってるだけでしょ! あと、僕らじゃなくて俺とナシですよ!」
ナシはもう一杯自分のショットグラスにテキーラを並々注いで、そして一気に口に流し込んだ。
「ほら、これ見てくださいよ! 思いっきり包丁刺さってんですよここに!」
烏丸はDに餓鬼魔に包丁を刺された手の甲を見せた。そして、Dは両手を前に出して手のひらを烏丸に向ける。
「あー、わかったよ。そんなキレることないだろ? ふーっと息を吐いて。そう、冷静になろう」
「いつも血を流すのは現場なんですよ」
「翼君も無能力者の割には頑丈じゃないか、その程度で怪我が済んで不幸中の幸いだよ」
ナシはその間にまたテキーラを飲む。
「ところでナシ君いい飲みっぷりだねぇ。ねぇ佐藤さん」
「は、はい。ナシ君行ける口なんですか?」
ナシは少し顔を赤らめている。ネクタイの結びを軽く解いて、今度はワイシャツの第一ボタンと第二ボタンを開ける。
「佐藤さん…」
「ナ、ナシ君??」
ゆらりと佐藤さんの方へ近づくナシ。呼吸の音がすぐそこまで伝わってくる。
そして、壁に手をつく。佐藤さんは顔の横にあるナシの腕からナシの顔へと視線を移した。佐藤さんはナシの謎の行動にどぎまぎする。
「佐藤さん…」
次の瞬間だった。
「そ、そういうのはまだ早いと思います!!!」
佐藤さんは一気にしゃがんでナシの腕の下を掻い潜った。佐藤さんの趣味は推し活である。今はイケメンの烏丸とナシを陰ながら推している。推す方には慣れているが押される方に慣れていない佐藤さんは事務所の隅まで移動し、呼吸を整えていた。
「すーはー! すーはー! 今のは勘違い! 今のは勘違い!」
ナシは佐藤さんの方へ視線を向けた。
「佐藤さん、お酒っていいですねって言いたかったんですけど…」
「もっと普通にやれ!」
烏丸からツッコミが入る。
「でも、お酒を飲むと嫌なことが忘れられます」
「飲みすぎるなよ」
(嫌なこと…か。あんまり悩み事とか抱えてなさそうなナシだけど餓鬼魔との対戦、相当嫌なことがあったんだろうな。ナシってまだまだ性格とか何考えてるかとかわかんないことだらけだからな)
酔った勢いでナシはDに言った。
「Dさん!」
「なんだい?」
「僕、もっと強くなりたいです」
「よくぞ言った。君は漢だ!」
Dはグラスをガラス台のテーブルに置いて、事務所の奥、つまり、佐藤さんがいつも事務作業しているデスクのさらに奥の書類やダンボールが積み重なった場所の中からモゾモゾと何かを取り出した。
それは二つあり二つとも縦長の木箱に入っている。長さは男性の地面から腰あたりの長さである。それを担いでナシと烏丸の元へ地面に散らかる書類を大股で避けながら、厚底ブーツが重みでドスドスと薄い床に音を立ててDはやってきた。
Dはソファの上にその木箱二つを置いた。そして、二つの木箱の蓋を取った。その中には、
「日本刀だよ」
Dは片方の木箱から日本刀を取り出して、鞘から刀を抜く。刀は綺麗に磨かれておりDの顔を反射している。
「流石に有能力者相手に素手で戦うのは無理があると思ってね、とある人物からいただいたんだ」
「マジ、謎の人脈…」と烏丸は呟く。
Dは日本刀を構える。今度は事務所の照明を反射して綺麗に輝いている。
「見てくれよ。これ! モノホンよ!」
Dは日本刀を鞘にしまって、もう片方をナシにさらに片方を烏丸に渡した。
「でもこれって銃刀法違反になりません? ってか、今更だけど銃も使っちゃったし」
Dは人差し指を顔の前で左右に振る。
「ちっちっち、有能力者との戦闘では使用していいんだよ。これはうちのルールじゃなくて国のルールネ」
「俺それ知らなかったす」
「翼君は一般常識がかけてるところあるからネ」
「……」
言い返せずにむくれる烏丸。
「武器があればだいぶ変わるっしょ。ちょうど海老名氏が置いてったチャカもあるし」
「ヤクザの武器を使っていいんですか?」と烏丸は聞く。
「まあ、落とし物だし。いいんじゃね?」
「本当に大丈夫か? うちの会社。絶対何かの監査が来たら潰れますよ」
「その時はのらりくらりと交わして行くだけさ。まるで、空に浮かぶバルーンのようにネ」
Dはいきなり背を伸ばして挙手した。
「ただーし! 無能力者には絶対に使わないこと。いいね?」
「はい」「はい」




