様子がおかしい
ナシはアパートの廊下部分で白目を向いて倒れているが、やがて傷が修復し、黒目に戻った。しばらくして、何か悪寒が走ったようにナシは自分の両腕をさすった。
烏丸は目を瞑って一気に自分の手に刺さった包丁を抜く。
「ナシ、大丈夫か」
「は、はい」
「すまない。俺が弱いばっかりにナシにばっかり負担がいっちまって」
「いえ…大丈夫です」
ナシは返答はいつもより元気がなかった。一人で呟くようなそんな返事だった。
「えーん、ナシ君も烏丸君も超かっこよかったよー。私、男子に守られて超うれピー。ってか、あーしの活躍も超半端なかったしょ」
女はナシと烏丸二人に抱きついた。
「お、おい女、触れるなよ」
烏丸は露骨に嫌がる。ナシは反応がなかった。
海老名がナシと烏丸の元へ来た。
「お前ら本当に助かった。蹴り一発で済んだのはかなり軽症な方だぜ」
烏丸は包丁が貫通した手を押さえながら言った。
「では、報酬は千万きっちりいただきますからね」
「ああ、好きに使っていい」
海老名の肩に猫が一匹飛び乗ってきてにゃーと呑気に鳴いた。
二人は車に戻った。
「イテェ、思いっきり包丁が手にブッ刺さったよ」
烏丸は手に包帯を巻きながらそう言う。包帯を巻いてもすぐに血が滲んで赤く染まっている。
「Dさん」
烏丸はBluetoothのマイク付きイヤホンでDへ連絡を取った。
「やぴー。げんきー?」
いつも通り呑気な声が返ってくる。
「元気なわけないじゃないですか! こっちは手に包丁がブッ刺さったんですよ!」
「やば! 超大変じゃん。で、依頼の方はどうなったの?」
「なんとか成功しましたよ。まあ、ほとんどはナシが頑張ってくれたおかげもありますけどね」
「……」
無言だった。マイクの向こう側からは拍手している音が聞こえてくる。
「イエーイ! これで千万ゲット! やったね烏丸君」
「あー、はい。そうなんですけど」
「ん?」
「ナシの様子がちょっとおかしくてこれから小鳥遊さんの病院に連れて行こうと思います。餓鬼魔との戦いで相当ボコボコにされててそれが影響あるかもしれません」
「そっか、ナシ君頑張ってくれたんだね。何か元気の出るものを用意して待ってるよ」
「ありがとうございます」
二人は車で小鳥遊が勤務する大学病院へ行った。
「ナシ、着いたぞ」
「…はい」
二人は車を降りて、大学病院の受付に向かった。
「特殊生体研究科の小鳥遊先生をお願いします」
「わかりました。こちらへどうぞ」
「並ばないんですね。こっちは結構待っている人が多いみたいですけど」
受付に場所を案内されているとき特殊生体研究科の待合室では何十名か並んでいる人たちがいたが、ナシと烏丸の二人はそのまま直接小鳥遊の診察室へ通されることになった。
診察室には小鳥遊がいた。スーツを着ておりネクタイをしっかりと閉めて、白髪混じりの頭はオールバックにまとめられており、白衣を着ている。
「やあ、烏丸さんナシさん」
小鳥遊は二人と握手を交わした。
「前来た時とは服装が変わってスーツになったのですね」
「ええ、弊社の制服はスーツに変わったんです」と烏丸が説明した。
小鳥遊はほうっと息を吐く。
「今日は一体どのようなご用件で?」
「…」
「ナシのことについてです」
烏丸は餓鬼魔という男と戦闘があったこと。その戦闘があった後にナシの元気がないことを小鳥遊に伝えた。
小鳥遊はまずナシの頬などを触れて体を確認した。
「見たところ何か外傷があるわけでもなさそうですね。精神分析をした方がよさそうですね」
「精神分析ですか?」
「はい。精神分析ではとてもデリケートな内容になります。ナシさんお一人にしていただけませんか?」
「わかりました。俺は待合室で待ってます」
「ではナシさん。まずは血液検査と細胞を一部取らせていただきます。それから精神分析を行なっていきましょう」
「はい」
小鳥遊はまずゴム手袋をはめて、慣れた手つきで採血用の注射と血を入れる小さい試験管のようなものを取り出した。
そして、ナシは腕を出した。
「少し痛いですよ」
ナシは針が入るところは視線を逸らして露骨に嫌がる。
「採血は終了しました。次に、ナシさんの細胞を取らせてください」
「また、痛いんですか?」
恐る恐る聞くナシに、
「いいえ、綿棒で頬の内側を軽く擦るだけですよ」
「それならよかったです」
ナシは口を開けると小鳥遊は少し大き目の綿棒でナシの頬の内側を軽く擦った。そして、それを看護師に渡した。
「あの機械にこの細胞を投入してくれ」
「わかりました」
そう言うと看護師は診察室の裏手に下がっていった。
小鳥遊はゴム手袋を取った。それから言った。
「ではまず、精神分析を行なっていこうか。ナシさん」




