8話 妖狐襲来、狼の求愛
碧威の話を聞いた翌日の早朝、磐守神社の裏山の頂上にある巨石群で、依芙姫は6年前に交わした碧威との約束について悩んでいた。 依芙姫は当時の碧威が言ったことを思い出してみた。
『依芙姫ちゃんといると、僕、元氣になれるんだ』
『だからずっと一緒にいたい。 僕の番になってくれる? 』
依芙姫は、『私が碧威の番になってずっと一緒にいたい』というのは、碧威が元氣になれるからで私のことを好きというわけではないと考えた。
『依芙姫ちゃんはキラキラしてきれいだよ』
『これも外見ではなく、絶え間なくある神氣が碧威にとってキラキラ見えただけなのでは? 』と 依芙姫は推測していた。
依芙姫は晴真が許嫁であることを碧威に伝えなければいけないことに気づいた。
『気が重いけれど、買い物帰りに6年前の約束を碧威君と話すしかないか……』 と依芙姫がボソッと呟くと、巨石群が仄かにキラキラ光り輝いた。まるで、頑張りなさいと言われている気がすると依芙姫は感じた。
碧威の下着やパジャマを買いに、依芙姫と碧威は神楽市街地のショッピングセンターに来ていた。碧威は依芙姫の紺色のパーカーとズボンを履いている。美しい碧威は目立ち、すれ違う買い物客や店員から視線を集めた。
買い物を済ませた依芙姫達は神楽市街地を出て、林道を歩いていると、「おいっ」と3人の少年達が声をかけてきた。
金髪の天然パーマ、肩まで伸ばした白髪、長い黒髪で太い眉が印象的な少年達だ。
「この前の妖狐! 」と依芙姫は叫んだ。
「何のようだ? 」
「この前の礼をさせてもらう。あと、そこの女の命もな! 」
碧威はため息をつきながら、「依芙姫ちゃん、下がっていて」と言った。
少年達に、それぞれ金、黒、白の狐の耳と尻尾が生え、掌くらいの狐火を作り出した。
「死ねっ!! 」
碧威に向かって、少年達は狐火を投げつけた。
碧威は跳躍し、狐火を避けた。碧威は白い妖狐に向かって踏み込み、鋭い爪を振り下ろした。空気を引き裂き、鋭い斬撃が地面を少し抉った。
白い妖狐はかろうじて避けたが、碧威の左拳が腹部に当たった。
「ガハッ」と血が混じった唾を吐き、白い妖狐は地面に倒れた。
「白玖! 」
「よくも……」
金と黒の妖狐が碧威を挟むように、同時に突きや蹴りといった攻撃を仕掛けた。碧威は難なくかわし、右手の爪を振り下ろした。
金の妖狐は避けたが、衝撃波を喰らい、「ゴフッ」と地面に崩れ落ちた。
碧威は踏み込み、黒の妖狐の左肩にガブリついた。
「グァァァァッ。……俺の妖気が……す……吸われる」
碧威は右腕で口についた血を拭い、
「これに懲りたら、僕や依芙姫ちゃんを襲うな。真面目に善孤を目指して修行をしろ」と冷たい声で言った。
黒の妖狐は左肩を押さえながら、碧威を睨みつけた。
「碧威君」と心配そうに駆けつける依芙姫。
「大丈夫だよ。帰ろうか」と碧威は優しく微笑んだ。
依芙姫が碧威に襲われた時は、人間の小娘だと思って、手加減をしていたのだと思った。
『碧威君は人間とは違う。……キレたら、どうしよう。でも、言わなきゃ』
依芙姫は立ち止まり、「碧威君、話があるの」と言った。
碧威は振り返り、「どうしたの? 深刻そうな顔をして」
「歩きながら話そう。えーと、6年前の約束を覚えてる? 」
碧威は依芙姫の歩くスピードに合わせながら、「もちろん覚えてるよ」と言った。
碧威が覚えていると聞いて、依芙姫は思はずゴクッと唾を飲み込む。
「あの約束、なかったことにできるかな? 」
「え? なんで? 」
碧威は疑問の表情を浮かべた。
「碧威君がいなくなってから、私と晴真は許婚になったんだ」
「えっ? 依芙姫ちゃんは晴真のこと好きなの? 」
「人として好意は持っているよ。私は長女だし、磐守神社を守るには仕方がないんだ」
碧威は悲しそうな表情を浮かべながら、
「神社を守るために晴真のお嫁さんになるの? 依芙姫ちゃんは僕のことを好きではないの? 」
「今はわからない。6年前はきれいと言われて嬉しくて舞い上がっていたのかもしれないし……」
「そんな……」
「それに、碧威君は、私のことを異性として好きというよりは、自分を元氣にする栄養供給源として私と一緒にいたいと勘違いしたんだと思うよ。よく考えずに頷いてごめんね。それに、今の戦いを見て、私と碧威君は種族が違うということがよくわかった。碧威君には同じ種族である狼の神獣の女の子があっていると思う。この石も返すね」
依芙姫は虹色に輝く石を鞄から取り出し、碧威へ差し出した。
「え……」
「太陽光パネルや風力発電で調べたいことがあったら声かけてね。検索の仕方とか教えるから……」
いつの間にか、依芙姫達は磐守神社に着いていた。依芙姫は伝えたいことを伝え、磐守家の玄関の戸を開け、自室に入っていった。
依芙姫から6年前に交わした約束の話をされた直後、碧威はショックと混乱のあまり自分の言いたいことが言えなかった。
避けられているのか、依芙姫と二人っきりになるチャンスがなく、月曜日の朝を迎えた。依芙姫は迎えに来た晴真と共に高校へ行ってしまった。碧威は磐守家の掃除をしながら依芙姫に言われたことを思い出して分析した。
『晴真と依芙姫ちゃんは許婚だけど、依芙姫ちゃんは晴真のことを異性として好きではない』
『依芙姫ちゃんは僕が依芙姫ちゃんのことを好きではなく、元氣になる栄養供給減だと思っている』
『依芙姫ちゃんは人間と神獣は種族が違うことも気にしていた』
『ここまでは真実。確かに僕が元氣になったのは、依芙姫ちゃんの神氣のお陰だけど、優しく手を差し伸べ、時には僕を励まし、自信を持たせてくれたのも大きかった』と碧威は依芙姫との出会いから、山登りなどの優しくも鮮やかな光景を思い出していた。
『とにかく誤解を解いて、種族は違うけど、僕が依芙姫ちゃんを好きだという気持ちを伝えに行こう』と碧威は思った。
帰りのホームルームが終わり、晴真以外親しい友人がいない依芙姫は帰り支度を済ませ、生徒玄関の下駄箱で靴に履き替えた。校内辺りが、妙にザワザワしている。
晴真は祓師の仕事で一緒に帰れないため、気まずいが、今日は碧威が迎えに来ることになっている。
生徒玄関のドアを開けると、女子生徒の黄色い声が聞こえてきた。
「きれいな男の子だね」
「銀髪だから芸能人かな? 」
「誰か待ってるのかな? 」
『銀髪のきれいな男の子? まさか、碧威君!? 』と思いながら、依芙姫は校門に向かった。
長い銀髪の美しい少年、碧威が校門の傍に立っていた。碧威は依芙姫に気付くと、依芙姫の手をつかみ、「待っていたよ。さあ、行こう」と言った。
「行くって、どこに? 」
「裏山」
碧威は依芙姫をお姫様抱っこして走り出した。遠くからキャーキャーと女子生徒の叫び声が聞こえてくる。
顔を真っ赤にしながら、「恥ずかしいから降ろして! 」と手足をバタつかせて依芙姫が叫んだ。
「大人しくしていて」と碧威は依芙姫を抱えて磐守神社の裏山へ向かって走り出した。 依芙姫を抱えているのに、車で街中を走っているような速度で碧威が走っていることに依芙姫はびっくりした。10分もしないうちに、磐守神社の裏山の頂上に着いてしまった。あんなに弱々しかった碧威が依芙姫を抱っこして走り、あっという間に低い山を登ってしまった。
「依芙姫ちゃん」と真剣に見つめてくる碧威。
「何……? 」
「元氣になるための日々の餌として、一緒にいたいわけじゃないよ。僕は依芙姫ちゃんが好きだから、番として一緒にいてほしいんだよ」
「えっ……でも、種族も違うし、そもそも森を破壊しようとする人間と神獣が一緒になるのはご両親が反対されるんじゃ……」
「父も母も反対すると思うけど、僕は依芙姫ちゃんが好きなんだよ。晴真と一緒にいてほしくない」と碧威は依芙姫の肩をつかみ、自分の鼻を依芙姫の鼻にくっつけた。
「ちょ……離れて」と顔を真っ赤にしながら、依芙姫は碧威を突き放そうと試みながら、「私は今は碧威君のこと、異性として好きかわからないんだってば……」
「わかってるよ。 だから、好きになってもらうよう努力するよ」
「そもそも、私は磐守神社を守らないといけないし、許嫁の晴真がいるし……」
「わかった。依芙姫ちゃんが僕のことを好きになってくれたら、僕が磐守神社を継ぐよ」
「ええっ」
「……覚悟してね」
獲物を狙い定めた狼の目を見て、『そんなことになったら、どうしよう……』と心臓がバクバクしてしまう依芙姫だった。
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