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磐守姫と銀色の神獣 〜自然を守るために、祓師、神獣、妖と共に悪妖を祓う〜  作者: ハルモニア


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9話 火を放つ大蛇

 神楽(かぐら)高校のとある1年の教室の窓際後方の席で、依芙姫(いぶき)は授業を聞かずに窓の外を眺めながら、昨日のことを思い出していた。


 碧威(あおい)に餌ではなく好きだと告白されただけでなく、お互いの鼻が触れ合ったことを思い出し、依芙姫(いぶき)は恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまい、机に突っ伏した。


 気まずさを感じる依芙姫(いぶき)をよそに、磐守(いわもり)家で何事もなかったように過ごしている碧威(あおい)に少し腹が立った。


『いやいや、許嫁の晴真がいるし、今度はハッキリ断らないと……』と顔をブンブン振り回しながら依芙姫(いぶき)は決意を固めた。


『それにしても、昨日の放課後、碧威(あおい)君に抱き抱えられたことを聞かれたり、話題にするクラスメイトがいなくて良かった。晴真に聞かれたら大変だったかも……』と依芙姫(いぶき)は思った。


 磐守(いわもり)家は長年この神楽(かぐら)市で悪妖(あくよう)等を退治してきたため、あちこちにコネがあり、康晴が学校側に根回しをした結果、依芙姫(いぶき)と晴真は同じクラスなのである。


『クラスメイトに目撃されなかったからなのか、目撃したとしても私に聞けなかっただけかも……。怖がられているのかな……』と依芙姫(いぶき)は悶々とした。


 午後の授業が終わり一日が平和に過ぎるかと思ったが、突然、ウーウー、カンカンカンと消防車のサイレンがけたたましく鳴り響いてきた。 依芙姫(いぶき)は窓を開けて外を見ると、遠くでモクモクとのぼる灰色の煙と赤い火の手が見えた。


 ガラっと教室の戸が開き、中肉中背の男教師が教室に入って来た。


「ホームルームを始める。君達も気付いたかもしれないが、木畑(きはた)市で火事が起きた。木畑市の人は気をつけて帰るように」


 日直が「起立、礼」と言い、「さようなら」と生徒一同が男教師に挨拶をした。帰り支度を終えた晴真が依芙姫(いぶき)に声をかける。


「おい、帰るぞ」


「うん」


 依芙姫(いぶき)は晴真と共に靴を履き替え校門に向かっていると、昨日と同様に女子生徒の黄色い声が聞こえてきた。


「綺麗な男の子がいるよ」


「昨日もいなかった? 」


「声かけてみようかな? 」


「背が高い誰か抱えてなかった? 」


『えっ! 今日も碧威(あおい)君が迎えに来てるの!? 』と依芙姫(いぶき)は思いながら、女子生徒と晴真からの鋭い視線を感じた。


「お前、碧威(あおい)に抱えられたのか? 」


「話をしたいと言われて……、急に抱えられたんだよ」


 晴真は何やらショックを受けているようである。

 2人が校門まで行くと、碧威(あおい)が「依芙姫(いぶき)ちゃん」と駆け寄って抱きつこうとしてきたことに気付いた晴真は、依芙姫(いぶき)碧威(あおい)の間に素早く割って入り阻止した。


「何でお前が迎えに来ているんだ? 」


「高校の近くで火の手が見えたから、依芙姫(いぶき)ちゃんが心配で迎えに来た。でも、ここまで来てみると、火の手の方から微かに(あやかし)の臭いが漂ってきたんだ」


 (あやかし)という言葉に敏感に反応した晴真は「ちょっと待て! 人目がないところに移動するぞ」と言った。3人は人目がない路地裏に移動した。


「この火事は(あやかし)の仕業なのか? 」と晴真は碧威(あおい)に尋ねた。


「多分……。でも、危ないから依芙姫(いぶき)ちゃんは神社に送るよ。晴真と僕で(あやかし)を見つける」


「待って、私も一緒に行く。私を神社に送ってから再び探すのは更に被害が拡大するかもしれない。この蜂比礼(はちのひれ)の布で二人の邪魔にならないように隠れているから」


 十種神宝(とくさのかんだから)蜂比礼(はちのひれ)は、悪妖(あくよう)や邪霊を封じるだけでなく、人が被ることで身を隠すことができる布なのだ。


「わかった。ところで、碧威(あおい)、狼の姿になった方が鼻は利くのか? 」


「利くけど。なんで? 」


「狼型になったらこの蜂比礼(はちのひれ)の布を被ってもらう」


「ああ、なるほど」と碧威(あおい)は人間から狼の耳に、銀色のしっぽが生え、体中の皮膚に銀色の毛が覆われ、2m近くの大きな狼に変化した。これまで碧威(あおい)が着ていた服はビリビリに破れてしまった。


挿絵(By みてみん)


「わぁ、すごい」と犬好きの依芙姫(いぶき)は狼姿の碧威(あおい)を見て目をキラキラさせた。


「二人とも僕の背中に乗って」


 晴真と依芙姫(いぶき)蜂比礼(はちのひれ)の布をマントのように被り、晴真は碧威(あおい)の背に蜂比礼(はちのひれ)の布を被せ、「ひふみよ、いむなやこと、我々の姿を消したまえ」と唱えると、二人と一匹の姿がスッと消えた。 依芙姫(いぶき)の後ろに晴真という形で、碧威(あおい)の背にまたがった。


「しっかり掴っていてね」と碧威(あおい)


 碧威(あおい)は鼻でクンクンと臭いを嗅ぎ、依芙姫(いぶき)と晴真を背に乗せているにもかかわらず、ものすごい速さで走り出した。10分ほど走ると、畑や里山がハッキリと燃えているのが見える。


 晴真は「あの山は岩焼寺(がんしょうじ)がある山だ。まさか……」


岩焼寺(がんしょうじ)には何かあるの? 」


「平安の世に大蛇を封印した岩がある」


「大蛇って悪妖(あくよう)なの? 」


「あぁ言い伝えでは、火を吐いて農作物や人々を襲っていた大蛇がいたそうだ。力のある法師に封印されたと言われている」


「じゃあ、この火事は封印から解かれた大蛇が起こしたものなの? 」


「その可能性が高い」


「今燃えている火は、消防車の水で消せるけど、これ以上新たな火災を起こさせないよう、早く大蛇を見つけないといけないね」


(あやかし)の臭いが近い」と碧威(あおい)が鼻をクンクンさせながら、言った。

1分も経たずに辿り着いたのは、岩焼寺(がんしょうじ)の近くの林に面した車道だった。


 うねうねとした車道の坂道を這う、全長10m程の長さで一般成人よりも太い胴体の蛇を見つけた。あの蛇が問題の大蛇だと2人と一匹は悟った。林の方を向いて大蛇は大きく息を吸い込んだ。


「林に火を放つつもりか」と晴真と依芙姫(いぶき)碧威(あおい)の背から降りた。


 晴真は自分と碧威(あおい)蜂比礼(はちのひれ)の布を取り姿を現した。


「おい大蛇、これ以上、火を放つのはやめろ」

 晴真の呼びかけに大蛇は振り返った。


「ほう。(われ)が見える人間がいるのか。しかし、火を放つのは止めんぞ。千三百年も封じ込められた我が積年の恨みを晴らすため、全てを焼き尽くすのだ。まずはお前からだ」と大蛇は言い放った。

 

 再び息を大きく吸い込み喉を膨らませた後、晴真に向かって巨大な赤黒い火球を放った。

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