4話 今日は千客万来!?
依芙姫は自宅の一階部分を美容院として経営している康晴の姉に髪を整えてもらった。
艶やかな黒髪の美しさを活かしつつ可愛さを感じられる耳掛けのショートヘアに切ってもらった。依芙姫は立ち上って自分の姿を鏡を見た。ますます少年っぽい姿に落胆した。
「髪を早く伸ばすには、肉・魚・納豆・卵といったたんぱく質をきちんと摂りなさい。亜鉛やビタミンEを含むアーモンドやカシューナッツも食べなさい。これ以上大きくなりたくないからといってダイエットはご法度よ」
「うん……」
「それと、十分な睡眠を取って運動、頭皮マッサージを欠かさないこと! 髪は神に通じるんだから大事に扱いなさいね」
「わかった。おばさん、ありがとう」
晴真の迎えがまだ来ない内に、次のお客さんが来てしまった。店内に居づらくなったので、依芙姫は美容院の近くのコンビニで晴真を待つことにした。
依芙姫がコンビニの店内に入ろうとしたら、天然パーマ気味の金髪の少年に突然声をかけられた。
「ちょっとお茶しない? 」
「結構です」
「なら、お話でもしようよ」
『この人、なんか気味が悪い感じ……』と依芙姫は思った。
依芙姫の手をつかみ、あまりにしつこく近寄ってくるので、依芙姫は金髪の少年の手を払いコンビニの入口から去った。
金髪の少年が「待って待って」と追いかけてくるので夢中で逃げていたら、人気がない路地裏に追い込まれてしまった。
「追いついた」とニヤリと笑いながら、次第に金髪の少年の耳が人間から金色の獣の耳に変化し、金色の尻尾が生え出した。そして少年の頭の横に火の玉が出現した。
「また、妖!? しかも、同じ系統!? 」
依芙姫は「自分がナンパされるなんておかしい」と思ってはいたが、妖だからこそ声をかけてきたのだと妙に納得してしまう自分が悲しかった。
何はともあれ金髪の少年が妖だとわかったので、依芙姫はシャンシャンと鉾先舞鈴を鳴らし妖を撃退しようとした。
しかし、金髪の妖は顔を曇らせつつ、
「下級の 悪妖には効果があるかもしれないけど、俺には煩わしい音というぐらいで効かないよ」と言い放った。
「俺、妖狐なんだけど、千狐になりたいんだ。でも、妖力を上げて千狐になるには善い行いを積み重ね辛い修行をしないといけないんだって。馬鹿らしい……。今の時代、そんなのいちいちやってられないでしょ」
「何を言っているの? 」
「で、一気に妖力を上げる方法を思いついたんだ」
「まさか……」
「俺達妖は君みたいな 神氣が高い人間を食べることで、妖力を上げられたり神通力を得られるんだ。だから、俺が千狐になるために、君の心臓ちょうだい! 」と言って、火の玉を依芙姫に投げつけてきた。
とっさに、康晴から渡された 十種神宝の蜂比礼の布を広げて火の玉である狐火を弾いた。蜂比礼は振ることで悪妖や邪霊からの攻撃をはじいたり祓うことができる魔除けの布である。
狐火を弾いたはいいが、金髪の妖狐が依芙姫の間近に迫ってきていた。
依芙姫は顔を殴られると思い、とっさに顔を自分の腕でガードした。
ドゴッという音が響いた。依芙姫は殴られておらず、代わりに金髪の妖狐が地面にしゃがみこんでいた。妖狐の前には今朝、依芙姫を襲った銀髪の少年が立っていた。
銀髪の少年が「その子は僕の獲物だ。死にたくなければ、去れ」と言って、金髪の妖狐を威圧した。銀髪の少年の方が格上だと本能的に悟ったのか、金髪の妖狐は「ちっ」と言って、逃げ去った。
金髪の妖狐は去ったが、依芙姫の前に今朝の厄介な敵が現れた。
「なんであなたは私を殺そうとするの? 」と依芙姫は恐る恐る銀髪の少年に質問をした。
「おぞましい大量の黒い板や巨大な風車の設置で森の木々が伐採され、自然の精氣が減少している。風車などから発する得体のしれないエネルギーが妖を狂わせるだけでなく、僕達も弱体化させられている。板や風車を破壊するために、君の命が必要なんだ」と穏やかに言いながら、銀髪の少年の姿は人間の耳からイヌ科の耳に変化し、鋭い牙、爪と銀色の尻尾が生えるなど変化した。
『やばい! 殺される』と冷や汗が体の全身をつたった。
依芙姫は路地裏に追い込まれた自分が唯一逃げる方法を算段し、銀髪の少年より先に動いた。
右手で 碧威から貰った石を銀髪の少年の目に向かって投げつけた。ひるんだ隙に反対側の手套で少年の視界を塞ごう(目つぶし攻撃)とした矢先、鋭い牙で左腕を噛みつかれた。
腕から血が流れ強烈な痛みを覚えたが、依芙姫は右足で銀髪の少年の股間を思いっきり蹴り上げた。「うっ」と銀髪の少年が強烈な股間の痛みに悶絶しそうになっている様子を見て、人外であっても、人間の男性と急所は同じであることがわかった。
依芙姫は『逃げるチャンス』と銀髪の少年からサッと離れた。
突然、銀髪の少年は頭を抑え「うがぁ! 」と叫び、地面に倒れこみ意識を失った。依芙姫は 碧威からもらった石を拾った。石はいつもより光り輝いているように見えた。
このまま逃げてしまおうかと思ったが、依芙姫は銀髪の少年がから事情を聴こうと考え直し、晴真を呼ぶことにした。路地裏を離れ、晴真に早く迎えに来るようスマホで連絡した。
暫くしてから、晴真が「大丈夫か!? 」と慌てて駆けつけてきた。
晴真が来たことで緊張の糸が切れたのか、依芙姫は、「遅いよ」と言って地面にへたり込んでしまった。
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