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磐守姫と銀色の神獣 〜祓師、神獣、妖と紡ぐ和風ファンタジー〜  作者: ハルモニア
第6章 願いが紡ぐ未来

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44話 絶体絶命からの援軍

 風祭とサングラスの男は少しずつ間合いをつめながら向かい合っていた。


「貴様は天狗か? なぜ、天狗が人間の味方をする? 」


「あいつらは俺の生徒だ。守るのは教師として当然だ」


「天狗が教師だと!? 」


「それに、俺はこの日本の地が穢されるのは許せねぇ。日本の土地を守りたいのは人間だけじゃねぇ。妖も同じなんだよ。覚悟しな!! 」


 風祭は地面を踏み込み、サングラスの男の腹部めがけて、拳を真っすぐに突き出した。サングラスの男は肘で風祭の正拳突きを受けた。


「お得意の邪気は出させないぜ」


 風祭はサングラスの男の脛を蹴り上げ、ぐらついたところに、腹部に鋭い突きを放った。


「ぐはっ」


 サングラスの男は吹き飛び、地面に尻餅をついた。


「うわっ……痛そう」と依芙姫は呟いた。


 風祭の丸太のような腕で殴られたら、普通の人間ではひとたまりもないだろう。サングラスの男はダメージが深かったのか、立ち上がれないでいる。


 風祭はサングラスの男に近寄り、木に縛りつけた。


「殺すなら殺せ! 」


「殺さん」


 風祭は、晴真の方を向いた。


「福竹、こいつを祓ってくれ」


「えっ!? 」


「いいから。こいつに聞きたいことがある」


 晴真は懐から鈴を取り出し、シャンシャンと振りながら、


「ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおゑにさりへて のます あせえほれけ」とひふみ祓詞を唱えた。


 サングラスの男の体から、黒い靄が徐々に立ち上っていった。


「これって、邪気? 」


「あぁ」


 数分後、サングラスの男から邪気が立ち上らなくなった。風祭はサングラスの男に尋ねた。


「なぜ、お前は日本の土地を穢したり、神社仏閣を破壊する手伝いをする? 」


「……妻が交通事故で亡くなった。私は妻を甦らせる方法を探すために、様々な文献を漁った。ある日、『協力したら、亡き妻を甦らせてやる』と我が主人に言われたからだ」


「奥さんは日本の土地が穢れ、文化、建築物が破壊された世界で生きたいと思うか? 」


 サングラスの男は深く溜め息をついた。


「妻を深く愛していたんだ。当時は妻に会えるなら、邪神や悪魔に魂を売っても構わないと思ったのだ」


「蘇らせるといっても、クラーケンやヤマタノオロチのように複製だろ。本物の奥さんじゃない」


「あぁ」


「お前さんの主人に会うにはどこに行けばいい? 」


 サングラスの男は首を左右に振った。


「あの男は危険だ。神に等しい」


「仮に神に等しくても、日本の自然を守るために会う必要があるんです」


「……普段はグローバルクリーンエネルギー、ジャパン支社のビルの最上階にいる」


「風力発電、メガソーラー関連の会社じゃねえか! そんなところにおいそれと行くのは難しいだろ。なんとかならないのか? 」と風祭は声を荒げた。


「……今は磐守神社の裏山の巨石に向かっている頃だ」


「何!? 」


 依芙姫の脳裏に女性の声が響いた。


『依芙姫、すぐに巨石に来るのじゃ! そなたとこれまで関わった妖も呼んで参れ』


『イワナガヒメ様、どういうことですか? 』


『……奴が来るのじゃ』


 依芙姫はイワナガヒメに言われたことを碧威達に伝えた。


「とりあえず、俺は雨太を連れてくるから、お前らは先に行け! 」


 依芙姫、碧威、晴真は磐守神社へ走り出した。


 

 空はいつの間にか藍色に染まっていた。逢魔時(おうまがどき)の東の空に満月が浮かび、淡い瑠璃色を帯びた銀の光が磐守神社の裏山を包んでいる。

 依芙姫は夜空を見上げた。


『今夜はあの夜と同じ天満月(あまみつき)だ……』と依芙姫は嫌な予感を感じながら、碧威を追って磐守神社の裏山を駆け上がっていた。


 突如、ドゴォォン、ドゴォォンと何かの破壊音が聞こえてきた。


「えっ、何の音? 」


 碧威が鼻と耳をピクピクと動かした。


「さっき戦った鬼熊と同じ臭いがする。この音は巨石を砕こうとしているのかも……」


「えっ!? お父さんは? 」


「康晴さんの気配は感じないけど……」


「お義父さんは不在か……。とにかく急ぐぞ」


 ドゴォォン、ドゴォォンと破壊音が鳴り響く中、依芙姫達は裏山を駆け登った。


 依芙姫達が裏山辿りに着くと、身なりの良い中年の男と巨石を前足の爪で叩いている10匹の鬼熊がいた。


「やめて! 」と依芙姫は甲高い声で叫んだ。


「子供が何のようだ? 」と男は腕を組みながら、ふてぶてしく言った。


「巨石群は神楽市が指定する天然記念物で、破壊は犯罪だぞ! 」と晴真は冷汗をかきながら言った。


「破壊しているのは私ではない。ご覧の通り、熊が勝手にやっているだけだ」


「ここは結界が張られている。鬼熊は磐守神社の敷地に入れないはずなのに、なぜ、お前らは結界内にいる? 」


「私自ら山を登り、鬼熊を召喚したのだ。私の膨大な邪気をもってすれば、結界の影響はさほど受けぬものだ」


 突如、冷たい風が吹き、満月が灰色の雲に覆われ始めた。ピカッと光ったかと思うと、1匹の鬼熊に雷が落下した。鬼熊は黒焦げになって地面に倒れ伏した。手足が微かに動いているところを見ると、まだかろうじて生きているようだ。


「今すぐ破壊はやめろ! 」と鋭い目つきで、碧威が男を睨みつけた。


「やめないと言ったら? 」


「こうするまでだ」


 上空が再びピカッと光り、2匹目の鬼熊に雷が落下した。1匹目の鬼熊と同様に、黒焦げになり虫の息の状態だ。


「大嶽丸の力を取り込んだのか? 巨石を壊すのは後回しだ。鬼熊よ、あいつらを殺れ!! 」と男は鬼熊達に命じた。


 8匹の鬼熊が一斉に依芙姫達に襲いかかった。碧威が再び雷を落とし、3匹目の鬼熊を戦闘不能状態にした。しかし、4匹の鬼熊が一斉に碧威を攻撃し、雷を落とす隙を与えない。


「ちっ……」


 碧威が鬼熊の攻撃を避けているうちに、満月を覆っていた灰色の雲は消えていった。


 一方、3匹の鬼熊が依芙姫と晴真に襲いかかった。依芙姫は硬質化した神氣で全身を覆い、庇うような形でに晴真の前に出た。しかし、鬼熊が前足を横薙ぎし、依芙姫は吹き飛び近くの岩に激突した。


 鬼熊が晴真に攻撃対象を絞った。晴真は祓師の銃を打つ暇もなく、鬼熊の前足が晴真の右肩に振り下ろされた。


「ガハッ……」


 鬼熊の鋭い爪で、晴真の右肩から腹部が深く抉られ、血が飛び散った。晴真は地面にうつ伏せ状態に倒れた。


「晴真!! 」


 依芙姫は晴真に駆け寄り、膝をついた。これ以上、傷つけられないように、晴真に覆いかぶさりながら、依芙姫は鬼熊の猛攻を受け続けた。


 ふと周囲が冷たい空気が漂い出した。依芙姫は鬼熊の攻撃が止まったように感じた。


 依芙姫が上半身を起こすと、3匹の鬼熊の下半身が凍りついていた。


「依芙姫ちゃん、大丈夫? 」


 雪女の雪乃が依芙姫に駆け寄った。


「雪乃さん。何故、ここに? 」


 雪乃は空を指差した。上空には宵の空にカラス天狗が飛んでいた。


「カラス天狗が教えてくれましたの」


 すると、バチバチという音とともに、鬼熊に電撃が迸った。


「ゴウ君! ジン君! バン君! 」


 3匹の雷獣が凍った3匹の氷に触れ電撃を放っていた。やがて鬼熊は凍ったまま意識を失った。


「フーッ。こちらは何とかなりましたね」


「晴真さんが心配です」


「かすかに息はしてるの。お父さんが帰ってきたら、治してもらえるんだけど……。でも、その前にあの男を何とかしないと……」


 3匹の雷獣達はお互いを見つめ、無言で頷いた。


「わかりました。我々は狼に加勢してきます」


 雷獣達の耳と鼻がピクピクと動いた。


「新たな加勢も来そうです。ジン、バン、行くぞ! 」


 3匹の雷獣達は碧威の方へ駆け出した。


 雪乃は溜め息をつき、「依芙姫ちゃんの大切な方が死んでしまうのはいけませんわね。私もワンちゃんに加勢しますわ」と言って、雷獣達の跡を追った。


「ゴウ君。ジン君。バン君。雪乃さん。ありがとう」


【読者の皆様へ】

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