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磐守姫と銀色の神獣 〜祓師、神獣、妖と紡ぐ和風ファンタジー〜  作者: ハルモニア
第6章 願いが紡ぐ未来

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43話 鬼熊襲来

 磐守神社本殿の火災から2日後の朝。

 依芙姫は晴真と共に高校へ向かって歩いていた。


「……大変だったな」


「まさか、うちの本殿が燃えるなんて……」


「お義父さんは大変そうか? 」


 依芙姫は昨晩の康晴の様子を思い出した。

 昨晩、依芙姫達が居間で夕食を食べていると、康晴が疲れた様子で居間に入ってきた。


「お父さん、大丈夫? 」と依芙姫は康晴に尋ねた。


「……ありがとう。さすがに疲れた」と康晴は溜め息をついた。


 祓師の仕事の合間に、康晴は消防署と警察署の職員から何度も事情聴取を受けていたのだ。 康晴は目の下にクマができ、頬も少しこけ、憔悴しているようだった。


「出火の原因はわかったの? 」


「出火の原因となるような家電製品はない燃え方から、放火の線で捜査されることになったよ」


「やっぱり、放火なんだ」


「犯人は捕まるのかな? 」


「……難しいかもしれぬ。今年に入ってからウチ以外にも神社仏閣の火災は9件ある。だが、犯人は一人も捕まっておらんのだ」


「本殿の修繕はどうするの? 」


「幸いなことだが、小規模な修繕で済む。しかし、修繕費用は数百万から数千万はかかるだろう。火災保険だけではカバーしきれない……」と康晴は頭をかきむしった。


「クラウドファンディングとかはどうなの? 」


「うちは有名でないから集まるかどうか……」


 依芙姫は昨晩の青ざめた康晴の顔を思い出しながら、溜め息をついた。


「疲れている感じだった。修繕の費用のこととかも堪えているみたい」


「そうだよな」


「そういえば、火事のせいですっかり忘れていたけど、1人であんな遠くまで行くなよな。言ってくれれば、俺も一緒に行ったのに……」


「学校を休ませることになるし……」


「授業なんて別に……」


「それに、碧威君を見つけられるか分からなかったし……」


 2人が会話のやりとりをしている内に、いつの間にか高校の正門にたどり着いた。


「よう」と低い声が聞こえてきた。声の主は、依芙姫達の副担任の風祭だった。


「おはようございます。風祭先生、先日はありがとうございました」と言いながら、依芙姫は風祭にお辞儀をした。


 風祭は「……ちょっと来い」と言って人気のない花壇の方に依芙姫達を連れていった。


「神社の修繕はなんとかなりそうか? 」


「思ったより修繕費用がかかるみたいで……」


「……そうだろうな」と風祭は言い、依芙姫にパンフレットを差し出した。


 依芙姫は手に取ったパンフレットを見た。


「風祭建設……? 」


「俺達一族の会社だ」


「天狗がウチの本殿を修繕してくれるんですか!? 」


「我が一族に任せれば早いぜ」


「天狗が神通力で寺院の建設を一晩で手伝ったという伝説もウソではないんですね」と晴真。


「ありがたいんですが、修繕費全額をお支払いできるお金が……」


「金は保険金で降りる分だけでいい。狼君が大半の風車を機能停止にしてくれたしな。東北に暮らすカラス天狗も楽になったようだ」


「……そうですか」


「とりあえず、康晴さんに伝えておいてくれ」


「はい」


「おっと、もうすぐ、ホームルームが始まる。お前達、早く教室に行け。またな」と風祭は職員室に向かった。



 授業中、依芙姫は窓の外の景色をぼりやりと眺めていた。数匹のトンボが飛んでいるのが見えた。


 本殿の修繕、風力発電を止める方法、磐守神社に隣接している山の焼けた木々といった問題が依芙姫の脳裏をグルグルと再生していた。


『私がすぐにできることは、お父さんに風祭建設のパンフレットを渡すこと、焼けた山の土地に神氣を流すことかな……。帰りにウチの神社の隣の山に寄ろう』


 授業をそっちのけで、依芙姫は居間すぐに自分ができることを整理した。


 ホームルームが終わり、晴真が依芙姫の席にやってきた。


「帰るぞ! 」


「晴真、寄りたいところがあるんだけど……」


「まあ、いいけど……」


 依芙姫と晴真が教室を出ようとしたところ、後ろから低い声の主が呼びかけた。


「磐守! 福竹! ちょっと待て! 」


 依芙姫達は後ろを振り返った。声の主は風祭だった。


「風祭先生、何か? 」


「何だか嫌な予感がする」


 カーカー。

 廊下の窓からひと回り大きなカラスが1羽飛んでいるのが見えた。カラス天狗だ。黒い目をしているので、悪妖には堕ちていないようだ。


 風祭は窓の外に浮かぶカラス天狗を指差しながら、

「念のために、こいつを連れていけ。何かあったら駆けつける」と言った。


「色々と気を遣って頂き、ありがとうございます」


「お前らは俺の大事な生徒だしな」とニカッと風祭は笑った。


 

 依芙姫と晴真は雷獣のゴウとジンと共に、磐守神社に隣接する山の裾野に来ていた。


「……ひどいな」

 

 焼かれた山裾の痕跡がひどく生々しい。


「神氣を流すね」と言い、依芙姫は地面に膝をつき、手を地面に触れた。


 依芙姫の手から少しずつ神氣が流れ出した。晴真と2匹の雷獣は依芙姫の様子を見守っている。


 ゴウとジンの鼻と耳がピクッと動いた。


「何者かが近づいてきています」


 ゴウとジンの全身の毛が逆立ち、全身がブルブルと震え出した。


「こ……この臭いは……」


 すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「また、お前達か……」


 晴真は後ろを振り返ると、オールバックにサングラスをかけた男がこちらに向かって歩いてきた。


 晴真は冷汗をかきながら、「何しに来た? 」と聞いた。


「散歩だ」


「見えすいた嘘をつくな。山や磐守神社に火をつけたのはお前なのか? 」


「私ではない。ただ、古くから山岳信仰を集めている神社と聖地があると情報提供をしただけだ」


 依芙姫はギリっと下唇を噛み、神氣を流すのを止めた。ゴウとジン、上空に浮かぶカラス天狗に目配せをした。依芙姫の意図を察したゴウとジン、カラス天狗はこの場から離れた。


「……雑魚は逃げたか。まあ、賢明な判断だ」


『ウチの本殿を焼いた原因を作ったのは許せないけど、私と晴真ではこの男を倒せない。なんとか時間を稼がないと……』


 依芙姫はサングラスの男をキッと睨みつけた。


「森や神社を焼くように指示したのは靈脈を破壊するためなんだろうけど、あなたは靈脈を破壊して何がしたいの? 」と依芙姫はサングラスの男に聞いた。


「我が主の大いなる野望を実現するためだ」


「大いなる野望って!? 」


「私には知る由もないがな。さて、話はここまでだ。私にはこれからやるべきことがある」


「やるべきこと? 」


「お前達に教える義務はない」


 サングラスの男は懐から黒い札を取り出し、右手を掲げた。


「鬼熊よ! 現われたまえ! 」


「ブオォォーッ」と獣の唸り声が響いた。巨大な影が一つ、また一つ姿を出現した。


「熊!? 」


「で……でかい」


 3匹の巨大な熊がサングラスの男の横に並んでいた。通常の熊よりひと回り大きいようだ。黒の毛皮に覆われ目が赤黒く光っている。口から黒い靄を吐き出している。


「熊の悪妖!? 」


「俺が知っている鬼熊とは違う……」


「空腹の熊に膨大な邪気を浴びせたのだ。絵本百物語に登場する鬼熊より強いかもな」と不敵な笑みを浮かべながらサングラスの男は言った。


 江戸時代に書かれた絵本百物語に登場する鬼熊は年を経て熊が妖化したものである。


「鬼熊よ。さぁ、殺れ!! 」


「グオォォッッン」と鬼熊が低い咆哮を上げ、依芙姫達に向かってきた。


『何とか私に注意を引きつけないと……』


 依芙姫は硬質化した神氣を全身に覆った。そして、依芙姫はポケットからリップ、ボールペン、そしてカバンを3匹の鬼熊に投げつけ、晴真の傍から離れた。


 鬼熊達は依芙姫に向かっていった。最初の1匹が依芙姫の頭に前足を振り下ろした。


 ガキン。鬼熊の爪が割れ、破片が飛び散った。鬼熊は動揺し、その隙をついて、依芙姫は鬼熊の頭めがけて頭突きを喰らわした。


「グガァッ」と鬼熊が叫んだ。鬼熊は頭を押さえながら、ふらついた。2匹目の鬼熊が最初の鬼熊を押しのけ、大きな口を開き、依芙姫の肩に噛みついた。


 3匹目の鬼熊は依芙姫の背中に前足で切りつけた。制服に穴が開き破れたが、依芙姫の体に傷はつけられなかった。


「ほうっ。膨大な量の神氣を硬質化できるのか。だが、防戦一方では埒が明かないぞ」


 晴真は祓師の銃を構え、「かしこみかしこみ申す。瀬織津姫(せおりつひめ)速開都姫(はやあきつひめ)氣吹戸主神(いぶきどぬしのかみ)速佐須良姫(はやさすらひめ)祓戸の大神(はらえどのおおかみ)、鬼熊達を祓い給え清め給え」と大祓詞を唱えた。青白い神氣が銃を包み込んだ。


 依芙姫の頭突きを食らった鬼熊の頭に向かって、晴真は銃を連射した。

 パン、パン、パン、パン、パン、パンと銃声が鳴り響いた。青白い神氣に包まれた6発の銃弾は鬼熊に命中した。鬼熊の体が次第に黒い塵となり、地面に黒い砂山を築いた。


 晴真は制服から別の銃を取り出し、依芙姫に噛みついている鬼熊に銃の照準を合わせた。


 サングラスの男は晴真を指さしながら、「鬼熊よ。先に祓師から殺せ! 」と叫んだ。


 依芙姫に噛みついてない鬼熊が晴真に向かってきた。晴真は突進してくる鬼熊に照準を合わせ直した。思ったより鬼熊の動きが速い。晴真は銃を連射した。鬼熊の脇腹と前足に銃弾が掠めたが、鬼熊は構わず晴真に向かってきた。


 ドゴォォッ。火球が鬼熊に命中した。鬼熊の顔が燃えている。


「グギャァァッ」と鬼熊は叫んだ。鬼熊は炎を消そうと、地面に顔をこすりつける。


「晴真、今だ! 」


 晴真は声の方向を見ると、銀色の尻尾と耳をはやした碧威が立っていた。晴真は地面にのたうち回る鬼熊に向けて、4発の青白い神氣を帯びた銃弾を放った。銃弾は鬼熊の眉間に命中し、鬼熊は黒い塵となって崩れ落ちた。


「碧威! 依芙姫を助けてくれ」


「わかってる」と碧威が鬼熊に噛みつかれている依芙姫を見た。


 キィィィン。黒い邪気を帯びた球が碧威に向けて飛んできた。碧威は難なく避けたが、球は近くの樹木に当たり、樹木が漆黒に染まった。


「させぬっ! 」とサングラスの男が碧威に襲いかかろうと構えた。


 突如ビューッと突風がサングラスの男に向かって吹き荒れた。サングラスの男は両腕で顔ガードした。


「お前の相手は俺だ」


 無数の黒い羽でできた団扇を持った風祭が車道に立っていた。


「風祭先生! 」と晴真が叫んだ。


 風祭は団扇をひとあおぎした。再び、突風がサングラスの男を襲った。風祭は徐々にサングラスの男の間合いを詰めていった。


 碧威は依芙姫に噛みついたままの鬼熊に鋭い爪で切りかかった。「ギャッ」と鬼熊が振り返り、噛みついていた依芙姫を放した。


「碧威君!! 」と依芙姫は嬉しそうに声を上げた。


 鬼熊が振り上げた前足を碧威目掛けて振り下ろした。碧威は避けたが、鬼熊の攻撃の風圧で地面がえぐれた。


 晴真は銃を構え、攻撃の機会をうかがった。碧威と鬼熊のスピードは互角のようだ。中々、銃を撃つタイミングがつかめない。依芙姫は晴真に駆け寄り、晴真の肩に手を置いた。


「依芙姫」


 銃を覆っていた神氣の量が増大した。


 碧威が右手で火炎の玉を作り出し、鬼熊の顔面にぶち当てた。


「ギャァァッ」と鬼熊の顔面が燃え盛った。3発の銃声が鳴り響く。神氣を帯びた道返玉(ちかへしのたま)の銃弾を3発放った。銃弾は鬼熊に命中し、鬼熊は黒い塵となって地面に黒い小山を築いた。

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