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磐守姫と銀色の神獣 〜自然を守るために、祓師、神獣、妖と共に悪妖を祓う〜  作者: ハルモニア


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28話 海の靈脈を守る人魚


 どれだけ時間が経ったのだろうか。

 依芙姫の瞼の裏に白い光がぼんやりと入ってきた。次第に意識が浮かび上がり、ザザーザザーと激しい波の音が聞こえてきた。体が重く感じたが、手を動かすと手の平にザラリとした感触を感じた。


「砂だ」と思い、依芙姫はゆっくり目を開けた。


 依芙姫の視界に映ったのは、眩しい太陽の光と青空、波に濡れた白茶の砂浜、砂浜の奥には密になっている照葉樹の濃い緑、足先には狼の耳と尻尾を生やした碧威が横たわっていた。意識を失って元の神獣の姿に戻ったのだろう。


「気が付いたか? 」


 依芙姫は声の方向に顔を向けると、依芙姫の右横に上半身が裸の人間で下半身が魚の男がいた。男はウェーブかかった長い黒い髪、太い眉、彫りが深い顔立ちをしていた。


 右手には三叉の槍を握っている。


「あなたは? 」と依芙姫が男に聞いた。


「私は潮音(しおん)。海の靈脈(れいみゃく)を守る人魚だ」


「人魚! 」と思わず、依芙姫は大きな声を上げた。


「でかい声を急に出すな」と潮音が耳を抑えた。


「すみません……」

 

 つい大きな声を出してしまったことに、依芙姫は恥ずかしさを覚えた。気を取り直し、依芙姫は潮音に尋ねた。


「私は依芙姫です。私達は荒れ狂う海の中に投げ出された筈ですが、あなたが助けてくれたのですか? 」


「そうだ、クラーケンに向かっている人間に興味があってね」


 依芙姫はお辞儀をしながら、

「助けてくれて、ありがとうございます。クラーケンが悪妖だったら祓おうと思って船で向かっていました」


「君がクラーケンを祓うのか? 」


「いえ、私の父と仲間が……」


「へえ〜」と潮音は顎を親指と人差し指で挟みながら、興味津々に依芙姫を見た。


「でも、荒波でクラーケンに近づけず……引き返そうとしたら……」


「海に投げ出されたわけか」


「はい」


「ところで、歌を歌っていたのは潮音さん達ですか? 」


「俺達の歌声が聞こえたのか? 」と潮音は大きく目を見開いた。


「いえ、そこで横になっている碧威君が聞こえたんです。彼は狼の神獣なんですけど……」と依芙姫は碧威に視線を向けた。


 すると、潮音は三叉の槍の柄で碧威を突ついた。碧威はピクッと体を揺らし体を起こした。潮音の気配を感じ、碧威は右横にいる潮音を琥珀色の瞳でギロリと睨んだ。


「碧威君、この人は海の靈脈を守る人魚の潮音さん。敵じゃないよ。私達を助けてくれたんだよ」


 碧威は依芙姫の声に冷静さを取り戻した。


「ここはどこなの? 」


火水(かみ)島だ」


「カミ島……はじめて聞きました」


「人が踏み入れられない小さな島だからな……」


 依芙姫は思わず息を飲んだ。


「そんな島があるんですね。そうだ! 碧威君、海で歌を歌っていたのは人魚なんだって! 」


「どうして歌を歌っていたの? 」


「クラーケンの動きを止めるために……。でも、奴には効かなかった……」


「タコやイカは耳がないみたいです。だから、海の上では歌声は聞こえないのかもしれません……」


 潮音はうなだれながら、「打つ手はないのか」と弱々しい声で言った。


「でも、タコやイカは海中の中では音や振動を聞き取ることができるみたいです。テレビで実験を紹介している番組を見たことがあります」


「あのクラーケンもイカやタコの延長なら、水中で歌えばいいということ? 」


 潮音は腕を組みながら、

「フム。試してみる価値はありそうだな。しかし、我ら人魚といえど、水中で歌うと威力が半減してしまう」


「神氣をいくらか増やせたら、威力は半減せずに済みますか? 」と依芙姫はアイディアを述べた。


「そんなことができるのか? 」と潮音は思わず大きな声を上げた。

 

 潮音の大きな声に碧威はギョッとし、

「依芙姫ちゃん、海の中でこいつの背中に張り付くの? 危険だよ」と言った。


「そんなことはしないよ」


 依芙姫は両手を自分のお腹の前に出し両手で丸い形を形づくった。


「あれっ? 依芙姫ちゃんの手の内側に丸い神氣の塊ができている! 」


「これを人魚の皆さんに与えて、クラーケンの前で歌を歌ってもらえれば、動きを止められなませんか? 」


「完全に止められなくても、動きを鈍くさせることはできそうだな」と潮音が言った。


 依芙姫は頷きながら、

「クラーケンの動きが止まったら、動きが鈍くなったところを、お父さん達に祓ってもらう」


「うまくいきそうだな。俺は協力してもいいが、俺の仲間達が人間の協力をしてくれるかはわからん」


「そんな……」


「ひょっとして、人魚は人間をよく思っていないのか? 」と碧威は紫音に尋ねた。


 依芙姫はハッとし、『狼の神獣と同様に、人魚も人間をよく思っていない可能性は十分にあるんだ』と思った。


「そうだ。人間はゴミや汚い水を流し海を汚しているからだ」


 工場の排水、 日本や海外からの漂着ゴミ、世界中の人間が海を汚しているのは事実だ。


「ただ、今回のクラーケンと人間の問題は切り離して考えるべきだと思う」と碧威は言った。


「僕も森を破壊する人間が憎い。でも、森を破壊する人間がいる一方で、最近森の再生を願い植林活動をする人間もいることを知っている」


 先日、碧威とともにSNSのB(バード)の動画を見た。大学教授が考案したメソッドを活用して、その土地本来の森を取り戻すために植樹活動をしている人々の動画を見たばかりだった。


「人魚は海の靈脈を守る守護者なんだろ? なぜ、クラーケンが海の中で暴れているんだ? 海の靈脈を破壊しようとしているんじゃないのか? 」と淡々と碧威は言った。


 潮音はハッとし、「急にクラーケンが現れたのはそういうことか……」


「あの、私、日本の靈脈を破壊するために森林を伐採している存在がいると、イワナガヒメ様から聞きました」


 潮音の左眉が上がった。


「何? 君は神と話せるのか? 」と依芙姫に詰め寄った。


 潮音に詰め寄られ動揺しながら依芙姫は「ええと、少しイワナガヒメ様とお話ししたことがあるだけです。ご本人は自分達は神ではないと言っていましたが……」と伝えた。


 潮音は依芙姫を羨望の眼差しで見つめだした。


「潮音さん、靈脈を守るために、私達と協力してクラーケンを祓えるようお仲間を説得してもらえませんか? 」


 潮音は鼻から深く息を吸い込み、「わかった。やってみよう。君達はここで待っていろ」と言った。


「どこに行くんですか? 」


深海(しんかい)(神界)だ」と言って、潮音は海に潜り、深海へと泳いで行った。

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