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磐守姫と銀色の神獣 〜自然を守るために、祓師、神獣、妖と共に悪妖を祓う〜  作者: ハルモニア


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24話 謎の男の襲撃

 土曜日の早朝、依芙姫(いぶき)は磐守神社裏山の巨石群のそばで正座していた。灰色の雲が空を覆い、遠くの山並みは霞んでいる。湿った風が頬をなで、露草がかすかに揺れていた。

 依芙姫は膝の上に十種神宝(とくさのかんだから)生玉(いくたま)を乗せていた。

 

「神からのメッセージは、瞑想をしている時に受け取りやすい。お前は瞑想初心者だ。まずは、目を閉じ、呼吸法をやってみなさい」と依芙姫は康晴に言われたアドバイスを思い出していた。

 目を閉じ鼻から息を吸ったり吐いたりする呼吸を10分程、繰り返していると、突然、依芙姫の頭の中に女性の声が響いた。



 晴真は雷獣の妖であるゴウとジンと共に神楽市街地の北にある交差点に来ていた。関東祓師協会から祓いの依頼を解決するためである。


「なんか空気が重たいですね」とジンが言った。


「ああ」


 先日、この交差点では、市街地にも関わらず時速130kmもの猛スピードで走行した乗用車が母親と子供2人、祖父先日、この交差点では暴走車が母子や夫婦らをはねる痛ましい事故が起きた。

 悲しみや恨みが残る事故現場には穢れや邪気が漂い、人にも悪影響を及ぼすため、早急に祓う必要がある。

 現場には、犠牲者を悼む花束が数多く供えられていた。


 晴真はポケットから鈴を取り出した。シャンシャンと鈴の音を鳴らしながら、「ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおゑにさりへて のます あせえほれけ」とひふみ祓詞を唱えた。


 ジメジメとした肌にまとわりついた空気が一瞬にして清々しい空気に変わった。


「空気が軽くなりましたね」


「さすが晴真さん! 」


 2匹の雷獣は晴真を褒めた。

「たいしたことはない」と晴真はぼそっと言った。今回の任務は、新米の祓師でもできるレベルだからだ。


 祓いの依頼を解決すると、報奨金がもらえる。晴真がこの祓いの依頼を受けたのは祓師用の銃をもう一本買いたいと思ったからだ。


「さて帰るか」


「はい」


 晴真は事故現場を2匹の雷獣とともに後にした。晴真達は真新しい住宅街を抜け、古民家が多く並ぶ神楽市の歴史景観地区へ入った。その中心地には、晴真の実家・福竹家と、重要文化財の福竹神社が佇んでいる。


 ゴウとジンは耳を左右に動かした。


「晴真さん、何者かが我々の後をつけています」


「……そうか」


 晴真は自分が後をつけられることに心当たりがなかった。 しかし、実家を特定されたくないので、実家の福竹家ではなく人がいない空き地へ歩いていった。

 程なくして黒いスーツ姿でサングラスにオールバック−−異様な男が空き地にやってきた。年は30代から40代くらいのようだ。


 晴真は腕を組みながら、「俺に何の用だ? 」と男に尋ねた。


「気配は消したはずなのに、よく気づいたな。珍しいペット達のお陰かな? 」と男はゴウとジンの方へ視線を向けた。


「悪いが、消えてもらう」


 男はスーツから黒い札を取り出し、右手を掲げた。


「カラス天狗よ現れたまえ! 」


 「ガァァァッ」と鳴きながらカラス天狗が出現した。目が赤黒く光っているので、 悪妖に堕ちている。


 2匹の雷獣はカラス天狗の出現でブルブルと体を震わせ怯えていた。散々、カラス天狗のつむじ風に痛めつけられ、仲間達も殺されたのだから無理もなかった。


 ズボンのポケットから銃を取り出し、晴真は雷獣達に「お前達は下がっていろ」と言った。


「晴真さん、すみません」


「かしこみかしこみ申す。瀬織津姫(せおりつひめ)速開都姫(はやあきつひめ)氣吹戸主神(いぶきどぬしのかみ)速佐須良姫(はやさすらひめ)祓戸の大神(はらえどのおおかみ)、カラス天狗の悪妖を祓い給え清め給え」と晴真は大祓詞を唱え、青白い神氣が銃を包み込んだ。


「カラス天狗よ。あいつらを殺せ! 」


 男が命じると、カラス天狗は「ガァァッガァァッ」と叫び、晴真達に向けてつむじ風を放った。


 晴真は左方向へ跳躍し、つむじ風を避け、カラス天狗に向かって銃を連射した。パン、パン、パンと銃声が鳴り響いた。青白い神氣に包まれた三発の道返玉の銃弾はカラス天狗に命中した。カラス天狗は黒い塵となって崩れ落ち、地面に黒い砂山を築いた。


 男は腕を組みながら、晴真とカラス天狗の戦いの様子を観察していた。


「フーン、それ程、神氣の量は多くないようだな。人違いだったかな。神楽市に祓師の少年は他にいるのか? 」


『神楽市の少年の祓師? 俺しかいない』と心の中で呟きながら、晴真は「さぁな」と言った。


「お前から祓師協会に報告されても面倒だな。まあいい。お前を殺す」


 男はブツブツとおぞましい呪文を唱え、男の両手が黒い靄に覆われた。


『なんだあれは? 邪気か!? 』


 男はあっという間に晴真との間合いを詰め、黒い拳が一直線に晴真の胸元へ突いた。晴真はとっさに両腕で胸をガードした。


「ドン!! 」という鈍い衝撃が晴真の全身を伝わった。


「ぐはっ!! 」


 衝撃の強さで、晴真は体ごと後ろへ押し出された。間髪入れずに、男は回し蹴りをしてきた。晴真は後ろに下がったことで、蹴りをギリギリでかわした。


 しかし、間をおかず、男は黒い拳を突き出し晴真の右頬を殴った。更に、男は左頬を殴り、腹に正拳突きが当たった。晴真は膝から力が抜け、数歩よろめき、地面に崩れ落ちた。


「トドメだ! 」


 男は黒い右拳を振り上げかけたが、動作が止まった。ゴウとジンが男の足に抱きつき、二股の尻尾から電撃を浴びせたからだ。「バチバチバチ」と電撃の音が空き地一帯に響いた。


「クッ」と男は顔を歪めながら、右拳を覆っている黒い気を収束させ小さな黒い玉を作り出した。男はジンにめがけて黒い玉を投げつけた。


「ギャン! 」とジンは地面に倒れた。男は反対の左手で小さな黒い玉を作り、ゴウに投げつけた。ゴウも地面に倒れた。


 男は再びおぞましい呪文を呟き、両手を黒い靄で覆った。黒い手を振り上げ、晴真にトドメを刺そうと近づいた。


「待ちなさい」と少女の声がし、男は振り返った。


 晴真は身に覚えがある声に反応し、声の主を見た。水色のパーカーにキロット姿の依芙姫の姿だった。依芙姫の隣には白い小袖に浅葱色の袴を着た碧威もいた。


 碧威が「僕が相手だ」と鋭い琥珀色の目で男を睨みつけた。男は碧威の得体の知れない強さを感じたのか、全身をブルっと震わせた。


 碧威が地面を蹴り、男に鋭い爪で切り掛かった。男はギリギリのところで避けた。男は碧威に向かって回し蹴りをしたが、難なく避けられる。碧威が振り上げた左手を男に振り下ろした。鋭い爪が男の左肩に食いこんだ。


「かかったな。喰らえっ!! 」


男の右手が黒い邪気を収束させた丸い球を碧威の顔面に投げつけた。間一髪、碧威は右手で黒い球を払った。


「うぐっ」と碧威は左手で右手を押さえながら、ふらついた。そして、男は碧威の足先の地面めがけて白い球を投げつけた。

 

 灰色の煙がモクモクと湧き上がった。碧威は鼻に煙を吸い込んでしまい、くしゃみを連発した。


「今回はひとまず退却する。祓師の少年達よ、再び我々の邪魔をするなら今度こそ殺す」と言って男は空き地から去っていった。

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