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磐守姫と銀色の神獣 〜自然を守るために、祓師、神獣、妖と共に悪妖を祓う〜  作者: ハルモニア


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23話 雨降り小僧の救出

 依芙姫(いぶき)達が本殿の戸を開けると、磐守神社の境内の敷地や屋根は相変わらず激しい雨に打ち付けられ、無数の水飛沫が跳ねていた。


「ひふみよいむなやこと、我々の姿を消したまえ」と晴真が唱えると、二人と一匹の姿がスッと消えた。

 依芙姫と晴真は碧威の背にまたがった。


「碧威君よろしくね」


「二人ともしっかり捕まって! 」


 依芙姫は碧威の首元を、晴真は依芙姫の雨合羽を掴んだ。碧威は「あぉぉぉーん」と吠え、激しい雨の中を依芙姫達を乗せて駆け出した。

 激しい雨が二人と一匹を打ち付けたが、 碧威の銀色の毛は雨水を弾いた。時折、目に雨粒が入った時は辛そうだったが、 街灯の明かりがほとんどない暗い田舎の林道でも、碧威は難なく駆け抜けていった。


「狼ってすげぇなぁ」と晴真は感心した。


「私達は暗くてよく見えないよね」


 そんな会話をしている内に神楽市街地に着いた。


「碧威君、まっすぐ行って2つ目の角で左に曲がって」という感じで依芙姫は碧威を誘導し一行は進んで行った。そして、依芙姫達はスーパーマーケットのピジョンにたどり着いた。


 碧威はピジョンの駐車場入口を入り、屋上駐車場へ続く車道を駆け上がった。屋上にはピジョンのシンボルの鳩の看板があった。隣の建物には眩しく光る電光掲示板があり、何らかのアニメが流れていた。


 パチンコスロット・マールへ向かって依芙姫達は駐車場内を移動した。マールの屋上には四角い鉄格子に閉じ込められた雨降り小僧が微かに見えた。しかし、マールの屋上には フェンスが張られている。


「碧威、フェンスを越えて飛び超えられそうか? 」


「問題ないよ」と言って碧威は後ろに下がった。


 碧威は助走をつけてフェンスをものともせずにスーパーピジョンの屋上駐車場からパチンコスロット・マールの駐車場に飛び移った。

 

 依芙姫は鼻から空気を吸い込み、「あまりタバコの臭いがしないね。碧威君、大丈夫そう? 」と碧威を気遣った。

「うん。これくらいなら平気だよ」


「逆に、土砂降りの雨で良かったのかもな」と晴真は言った。


 雨粒がタバコの煙の微粒子を吸収し地面に落とすことで、 空中に浮遊している臭い成分が減少したのだろう。

 鉄の檻の上にカラス天狗が3羽停まっていた。暗闇の中で、電光掲示板と共にカラス天狗の目が赤黒く光っている。


「沖津鏡で見た通り、カラス天狗は3羽いるな」


「他に、見張りはいるのかな? 」


 碧威は耳を上下左右に動かし、「特に気配は感じないけど……」と言った。

 晴真は祓師の銃を取り出した。


「まずはカラス天狗を仕留めるぞ。依芙姫、頼む」


 依芙姫は頷き、両手を晴真の肩に乗せた。


「かしこみかしこみ申す。瀬織津姫(せおりつひめ)速開都姫(はやあきつひめ)氣吹戸主神(いぶきどぬしのかみ)速佐須良姫(はやさすらひめ)祓戸の大神(はらえどのおおかみ)、カラス天狗の悪妖達を祓い給え清め給え」と晴真は大祓詞を唱え、青白い神氣が銃を包み込んだ。


 晴真は3羽のカラス天狗に銃口を向け、赤黒く光る目を目掛けて神氣に包まれた銃の引金を次々に引いた。暗闇の中でパン、パン、パンと銃声が鳴り響いた。

 青白い神氣に包まれた道返玉の銃弾は3羽のカラス天狗に命中した。カラス天狗の体は塵のように徐々に脆くなり、激しい雨によって地面に流れた。


 依芙姫は碧威の背に乗り、首元にしがみついた。カラス天狗が完全に消滅したと同時に、碧威は鉄の牢屋の天井に跳躍した。碧威は鉄格子の上に設置してある監視カメラを前足で思いっきり地面に叩き落とした。


「えっ? なになに? 」


 突然の銃声と天井からの落下物の音に雨降り小僧は驚いていた。


「碧威君、大丈夫? 」


「うん。これくらいの臭いなら平気。だけど、邪気がすごいね」


 鉄格子の裏にマールの店内のタバコの臭いを排出するための巨大な排気ダクトがある。激しい雨が降っていなければ、強烈なタバコの臭いが漂っていただろう。

 碧威は鉄格子の上から飛び降り、地面に転がっている監視カメラを右の前足を振り上げ粉々に破壊した。


 そして1本の鉄格子を口に咥え、右方向へ引っ張った。ベコッと音がし、鉄格子がひしゃげた。


「えっ、壊れた! 」と驚きながら雨降り小僧が言った。


 依芙姫は蜂比礼(はちのひれ)の布を脱ぎ、姿を現した。

「助けに来たよ。ここから逃げよう」と雨降り小僧に声をかけた。


 突然、姿を現した依芙姫に驚いた雨降り小僧は驚きながらも「えっ、うん」と返事をした。        

 依芙姫は雨降り小僧を抱っこし、碧威の背に乗った。晴真も続いて碧威の背に乗った。


「碧威君、三人乗せて走れそう? 」


「大丈夫だよ」と言って、マールの屋上から、ピジョンの屋上へ飛び移った。ピジョンの屋上駐車場を降り、市街地を走り抜けた。


 神楽自然公園まで走り、屋根付きの休憩所で依芙姫、晴真、雨降り小僧は碧威の背から降りた。晴真も蜂比礼の布を外し、姿を現した。


 突然、姿を現した晴真に、「わわっ」と雨降り小僧は再び、驚いた。


 穢れや邪気が濃く漂う空間にいたためか、雨降り小僧の顔は蒼白だった。

 晴真が鈴を取り出し、シャンシャンと鈴の音を鳴らしながら、「ひふみ よいむなやこと もちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおゑにさりへて のます あせえほれけ」とひふみ祓詞を唱えた。


 次第に、雨降り小僧の頬に赤みが戻った。

「体が軽い」と雨降り小僧はぴょんぴょん飛び跳ねた。


「お兄さん達、助けてくれてありがとう。何をしてくれたんですか? 」


「体内に溜まった邪気を祓った」


「すごいですね! 」


「私は依芙姫。こっちは祓師の晴真。あなたは雨降り小僧だよね? 」


「はい、僕の名前は雨太(うた)です。雨降り小僧です」


 晴真は雨合羽からミニタオルを取り出し、雨で濡れた顔を拭きながら、

「なんで鉄格子の中に閉じ込められていたんだ? 」と雨太に尋ねた。


「わかりません。数日前にカラス天狗達に襲われて気絶しました。ひどい臭いに咳き込んで目が覚めたら牢獄の中でした。タバコの臭いと人間達の念で危うく悪妖になってしまうところでした」


 先程までは激しい雨が降り続いていたが、いつの間にか、しとしと雨に変化していた。雨降り小僧の情緒が安定してきたからだろう。


 依芙姫は公園内を見渡しながら、「雨が小降りになってきたね」

「雨を降らせすぎましたね」と両手で口を覆う雨太。

「雨太君のせいじゃないよ」と依芙姫は雨降り小僧の肩に触れた。


「温かい。何だか妖気が回復してきた気がします。これなら暫く雨を止められそうです」と言って雨太は両手を上げた。


 すると、地面に落ちる雨粒が減っていき静寂が訪れた。


「雨太君はこれからどうするの? 」


「橋の下に帰ろうかと思います」


「また狙われたりしないか? 」


「……」とカラス天狗達に襲われたことを思い出したのか、雨太は沈黙した。


 依芙姫は手をポンと叩き、「そうだ、いいこと思いついた」と言った。雨合羽のポケットからジップロックに入ったスマホを取り出し、依芙姫は電話をしだした。


 20分後、依芙姫と晴真の副担任の風祭が神楽自然公園にやってきた。


「風祭先生、夜遅くにすみません」と依芙姫は申し訳なさそうに言った。


 風祭は意味ありげに晴真を見ながら、

「磐守の頼みだからな。で、こいつを匿えばいいのか? 」と依芙姫に聞いた。


「はい。この子は雨降り小僧の雨太君です。電話で話したように、また何者かに狙われる可能性があります」


「まあ俺の家は余裕があるし……」


 晴真は言いにくそうに、「先生こいつを救出した時に3羽のカラス天狗を祓いました」と風祭に伝えた。


 風祭は少しの間、目を閉じ「そうか。あいつらを祓ってくれて、ありがとよ」と晴真に感謝を伝えた。


「雨太君、この人は風祭先生と言って、人間の姿に化けている大天狗だよ」と依芙姫は風祭の紹介をした。


「ひえっ」と大天狗と聞いて雨太は驚いた。


「僕は雨降り小僧の雨太です。よろしくお願いします」と雨太は風祭にお辞儀をした。


「風祭先生みたいに強い妖の傍にいたら襲われるリスクも減ると思うよ。暫く、先生のお家にいるといいよ」


「何から何までお気遣いありがとうございます」


「それはそうとこいつを匿うんだから、磐守、褒美をくれ」と風祭は依芙姫に手を差し出した。


「何をあげればいいですか? 」と依芙姫は風祭に尋ねた。


「そうだなぁ……」とニヤニヤしながら風祭は依芙姫の手を両手で包み込んだ。


「なっ!! 」と晴真と碧威が叫んだ。


 暫く、風祭は依芙姫の手を握っていた。

「神氣ごちそうさま」と風祭はニッコリ笑った。


 風祭の一連の行動を見ていた雨太は言い難そうにしながら、

「風祭さんは男性の方が好きなのですか? 」と雨太は風祭に尋ねた。


 男と間違われ、依芙姫はショックを受けた。依芙姫の性別を知らない雨太にとって、雨合羽を着た高身長の依芙姫は少年に見えたようだ。


「はっはっはっ! 俺は女が好きだぞ」と風祭は豪快に笑った。


「えっ!? 」


「雨太君、これでも私は女なんだ……」


「失礼しました。依芙姫さんがあまりにもかっこよかったもので……」


「……」


 依芙姫は思わず押し黙った。


 風祭は姿を隠している碧威を見ながら、「磐守には人間以外の騎士もいるんだな」と言った。押し黙ったまま、碧威は鋭い琥珀色の瞳で風祭を睨みつけた。


「じゃあ行くとするか。磐守、福竹。明日も学校があるからお前らも早めに帰るんだぞ」と風祭は教師らしく言い、雨太と共に去った。


 頭をかきながら、晴真は「雨も止んだことだし、俺達も帰るか。依芙姫、お義父さんによろしく伝えてくれ」


「うん。晴真、お疲れ様。気をつけて帰ってね」と依芙姫は晴真を見送った。


「碧威君、私達も帰ろうか」


「僕に乗らなくて大丈夫なの? 」


「私、姿が見えちゃっているし、今日はゆっくり歩こう」


「依芙姫ちゃんはかっこいいけど……可愛いよ」


「えっ! 」

 

 思わず、依芙姫の頬が熱を帯び、心臓がトクンと跳ねた。姿が見えないが、碧威にじっと見つめられている感じがした。


「あいつの匂いがするから、上書きのために僕を撫でてよ」


「……うん」


 依芙姫は碧威の首元か背中辺りを撫でながら、磐守神社に向かってゆっくりと歩いた。



 一方その頃、とあるビルの最上階の一室で、身なりの良い男が黒いスーツ姿のサングラスをかけた男から報告を受けていた。


「見張りを命じた3羽のカラス天狗がやられ、雨降り小僧に逃げられました」


「そうか。で、侵入者はわかったのか? 」


「主要な監視カメラは壊されましたが、別の映像で確認できました。三発の銃声のあと、カラス天狗は倒れ、檻の監視カメラも破壊されました。次の瞬間、鉄格子が折れ曲がり、一人の少年が現れて、雨降り小僧を連れて逃走しました」


 人差し指と親指で顎を挟みながら、身なりの良い男は

「そうか。そいつが我々の邪魔をする祓師か。顔はわかるか? 」


「あいにく、黒の雨合羽を頭の上から被っていたのと監視カメラの配置が遠かったため、よくわかりません」


「まぁいい。神楽市に住む祓師の少年を抹殺せよ」と身なりの良い男はサングラスの男に命じた。


「はっ! 」と言ってサングラスの男は部屋から出て行った。


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