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磐守姫と銀色の神獣 〜世界を守るために、祓師、神獣、妖と共に悪妖を祓う〜  作者: ハルモニア


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14話 魃~ひでりがみ~

 依芙姫と晴真を乗せた碧威はあっという間に磐守神社周辺の林や田畑、 神楽市街地を通り過ぎ、南の方角に進み人家がない広い農園に着いた。康晴が昨晩、電話をしていた農園である。晴真は碧威の背から降りた。


「二人とも(ひでりがみ)を頑張って誘導してくれ。依芙姫、お前はくれぐれも気をつけるんだぞ」と心配げに晴真は言った。


「うん、ありがとう」


 再び、碧威は依芙姫を乗せ、西の方角へ走り出した。


「お父さん、晴真を農園に降ろしたよ」と依芙姫は康晴に報告する。


「魃は、どこに移動してる? 」


「おお、早いな。フム、魃は今、みかん畑近くの神楽遊々公園広場にいるぞ」


「わかった、ありがとう」


「碧威君、このまま西へ進んでみかん畑を目指して」


「了解」


 農園の敷地を出て、あっという間に林、住宅街を通過し、みかん農園までたどり着いた。


「碧威君、魃の臭いや気配を感じる? 」


 碧威は鼻をフンフンさせながら、「わかった」と言った。碧威は、神楽遊々公園の広場近くのゴルフ場へ向かって駆け出した。


「お父さん、碧威君が魃の気配をつかめたみたい。今から向かうね」


「気をつけるんだぞ、依芙姫」と康晴は心配げに言った。


 ゴルフ場の青々とした芝生の上に猿のような顔に1本しかない手と足の毛むくじゃらな悪妖、魃が立っていた。


「沖津鏡で見るより不気味な姿だね」


「あれに近づくの嫌だなぁ……」


「私もだよ。でも、頑張ろう」と依芙姫は碧威を励ました。


 魃に近づけば近づくほど熱さが増していくのを依芙姫と碧威は感じた。魃が立っている芝生はあまりの熱でしなだれかかっている。


「魃! これ以上、熱さを振り撒くのはやめなさい」と依芙姫は叫んだ。


「姿は見えないが誰かいるのか? 折角、封印が解かれて外に出れたのだ。熱さは止めぬ。儂は、儂の熱さで苦しむ生き物の姿を見るのが好きなんじゃよ」


「とんでもない悪妖ね」と依芙姫は呟く。


「そしたら遠慮なく祓えるかな……。行くよ、碧威君」


「うん」


 碧威は魃に近づき、依芙姫は蜂比礼(はちのひれ)の布を振り回し魃に当てた。

 依芙姫が振り回している蜂比礼の布の中には、 十種神宝(とくさのかんだから)の一つである道返玉(ちかへしのたま)がいくつも入っている。


『「よいか、依芙姫よ。道返玉とは祓師が祓言葉を唱えることで、悪霊や悪妖を祓う道具の一つだ。道返玉には破邪のエネルギーが込められている。祓言葉を唱えられなくても、ぶつけることで悪妖には多少のダメージを与えることができる』と康晴が説明してくれたのを依芙姫は思い出していた。


 母の里子が非力な人間でも扱いやすい武器になるように、蜂比礼の布の中にいくつかの道返玉を縫い付けてくれたのだ。


「ありがとう、お父さんお母さん」と依芙姫は呟いた。晴真がいる農園に魃が移動するよう、依芙姫は時折り魃を殴る。


「いてっ。姿を見せないなんて卑怯者め」


「確かに……」と思いながら、依芙姫は魃に攻撃する。


 魃はカーッと叫ぶと、周辺に漂う空気が歪み、一気に熱くなった。体感としては40度を超えていそうな熱気。まるでサウナだ。晴真がいる農園まで残り距離にして2km。熱くても懸命に碧威は走り、依芙姫は魃を殴った。 

 程なくして農園に立っている晴真が見えた。依芙姫は碧威の背から降り、晴真の傍へと走った。


「晴真」と依芙姫は声をかける。


「うまく誘導することができたな」


「うん」


「……臭いね」と依芙姫は足元を見ながら言った。


「我慢しろ」と晴真。


 術の効果が切れたのか、狼の姿の碧威と依芙姫の姿が現れた。


「散々、儂を殴ってくれたのはお前達か」


「もう一度聞くけど、熱を放出するのを止めてくれない? 」


「嫌じゃ、儂はこの熱で生き物が苦しむ姿を見るのが生き甲斐なのじゃ」


「どうしようもないな」


「そんなことは僕が許さない」


「なぜ狼が人間の味方をする? 」と魃は碧威を一瞥した。


「僕は狼の神獣にして森の守り人。お前が大地や植物の命を脅かしているのは許さない!! 」


 碧威の一言を聞いて、依芙姫は一瞬悲しそうに碧威を見た。


「ならば、お前から熱さで苦しみ悶え死ぬが良いっ!! 」と言って、魃は碧威に向けて熱波を放った。


 碧威の周りだけ異様に温度が上昇し、灼熱の砂漠にいるような熱さに空気がゆらめく。碧威は人間の手の大きさくらいの火球を作り出し、魃に投げつけた。魃は激しく雄叫びをあげ、火球を消し去った。


『取り込んだ血も少なかったし、大蛇のような強力な火球は作れないか……。なら、あいつに触りたくないけど仕方ない』


 ぐうぅっと唸りながら碧威は魃に強烈な体当たりをかました。1本足の魃は踏ん張ることができずに、地面に尻餅をついた。追加の攻撃を恐れた魃は、「かあああぁつ」と叫んだ。更なる熱が碧威を包み込む。


 碧威は熱さで視界がぼやけ、ふらつきかけた。しかし、唇を噛み重心を下げ、魃目掛けて、頭突きをした。魃は近くにあった穴に落ちた。


「ぐわぁぁっ。臭い!!! 」と魃は苦しみ悶えながら、1本の手で穴から這い上がろうとするが力が入らない。


 依芙姫と手を繋いだ晴真が八握剣(やつかのつるぎ)を構え「かしこみかしこみ申す。瀬織津姫(せおりつひめ)速開都姫(はやあきつひめ)氣吹戸主神(いぶきどぬしのかみ)速佐須良姫(はやさすらひめ)祓戸の大神(はらえどのおおかみ)、熱さを撒き散らす魃を祓い給え清め給え」と大祓詞(おおはらいことば)を唱え、魃の額に八握剣を突き刺した。


「せっかく封印が解け暴れることができたのに……。(かわや)に落ちるなんて……」と言って魃は黒い霧状になりそして霧散した。


「厠ではなく肥溜めなんだけどな」


「すごく鼻が曲がりそう」と臭いに敏感な碧威は肥溜めから少しずつ離れた。


「もしもし、お父さん。無事に魃を祓えたよ」と依芙姫が康晴に報告し、「うんうん、わかった」と言った。


 依芙姫と晴真は30代後半位の農園主にお礼を言って、再び姿を消して碧威の背にまたがった。


「大地や植物の命を脅かしているのは許さない」と言った碧威の言葉を依芙姫は思い出し、悲しそうな表情をしながら、碧威の首元の毛を撫でた。


「魃がいなくなって涼しくなったね」と言った。


「熱気が消えたな」と晴真は言った。


「弱点が厠なんて意外だね。臭いが苦手なのかな? 」


「獣だからね」と碧威。


「厠の代わりに肥溜めでも効果があって良かったな」


「化学肥料の高騰で肥溜めを再開してくれた農家さんがいてくれたのは助かったね」


「そうだな」と2人と1匹は磐守神社に着いた。


 依芙姫は森を破壊して設置された太陽光パネルや風力発電のことを碧威と話し合わないといけないと思った。



 数日後、とある会社のビルの最上階の部屋で一人の身なりの良い男が叫んだ。


「大蛇に続き、魃も祓われただと!? 」


 黒いスーツ姿のサングラスをかけた男が「はい」と返事をした。


「大蛇を放ったことで、山林はある程度、焼き払えたんだろうな? 」


「僅かですが……」


「木々を燃やし尽くした後、メガソーラーを敷き詰める予定はどうなるのだ……」


「ひょっとしたら、強い祓師がいるのかもしれません。僅かに木畑(きはた)市の焼け野原となった岩焼寺(がんしょうじ)周辺の山や林の跡地に木々の新芽が生えたようです」


 驚愕した顔で男は「何? まさか……。木畑市周辺にいる神氣が高い人間を探れ、場合によっては捕らえよ」


「はっ」とサングラスをかけた男は出ていった。「我が理想郷の邪魔はさせぬぞ」と男は言った。

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