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磐守姫と銀色の神獣 〜世界を守るために、祓師、神獣、妖と共に悪妖を祓う〜  作者: ハルモニア


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12話 雪女の推し

 5月下旬なのに日差しは鋭く、舗装された道路からはムッとした熱気が立ち上がっていた。熱気が肌にまとわりつき、汗が制服を湿らせる程の熱気だ。


 高校からの帰り道、依芙姫は晴真と歩いていると、 磐守神社近くの道端に一人の少女がうつ伏せで倒れているのを見つけた。少女の傍には大きなスーツケースがある。少女は長い青みがかった黒髪で、肌は透き通るほど白い。


「大丈夫ですか」と心配そうに依芙姫が声をかける。少女に触れようとすると、「待て。依芙姫」と 晴真は依芙姫の肩に触れ止めに入った。


「人間じゃない。妖だ」


「えっ!? 妖? だからって、放っておくのは……」


 晴真は、はぁとため息をつきながら、「俺が運ぶ」と言った。


 晴真は少女を仰向けにし抱きかかえようとした。しかし、少女の体のあまりの冷たさに晴真は手を引っ込めた。


「雪女か……」


「冷たくて運べないの? そしたら私が運ぶよ」と 依芙姫は膝をつき、 少女の膝と背中に手を差し込み抱えた。


「冷たくないのか? 」


「冷たいんだけど、なんとか大丈夫」と依芙姫は磐守神社の来客用の駐車場まで運び、ベンチに少女を座らせた。


「うっ……」と少女は意識を取り戻した。


「大丈夫? ここはうちの駐車場だよ」


「あなたが運んでくれたの? 」


「そうだよ。私、力持ちだから」


 制服のポケットの中で八握剣(やつかのつるぎ)の柄を握り警戒しながら、「雪女がなぜ道端に倒れていたんだ? 」と晴真は少女に質問した。


「晴真、いきなりそんな風に聞くなんて……。 私は依芙姫。本当に雪女なの? あなたの名前は? 」


「私は雪女の雪乃(ゆきの)。 暑さで体が限界を迎えたので、自分を急速冷凍したの」


「雪女はH県やA県、AT県などの山にいると聞いたが……」


「H県は太陽光パネルが大量に設置されてから、最近暑くて……。AT県に南下したのはいいんだけど、今度は巨大な風力発電で気分が悪くなって……。神氣や精氣が多い場所をさ迷い歩いていたら、 ここまで来ていた」 


 神楽(かぐら)市は海からの涼しい風が吹く緑豊かな田舎街のため、関東甲信越圏内でも夏は涼しく過ごせる地域である。しかし、5月なのにここ最近熱さが増している。


「人間でもこの熱さは堪えるのに、雪女の雪乃さんには辛いよね」と依芙姫は雪乃に声をかける。


 雪乃は依芙姫をじっと見つめ、手を握った。


「なんてお優しい! 依芙姫様の傍にいると暑くても元氣になります」


『依芙姫様?? 』と思いながら、 依芙姫は「それは良かったです」と答えた。


「私を運び、介抱してくださった優しさ、 気遣う心、そして凛々しさの中に光る美しい顔だち、 素敵です」とウルウルした瞳で雪乃は依芙姫を見つめてきた。


「それはどうも」と困惑する依芙姫。


「依芙姫ちゃん!! 」と突然、碧威が走ってやってきた。


「碧威君、どうしたの? 」


「依芙姫ちゃんがすぐ近くにいるのに、中々帰ってこないから心配で見に来たんだよ。おい、お前! 妖だろ! いい加減、依芙姫ちゃんの手を離せよ! 」


「いやよ! 」


「あの雪乃さん、碧威君の方が格段に美しいと思うよ」


「何を仰るんですか? どんなに美しくても、このように甘ったれた犬みたいな男は私の好みじゃありませんの」


「なっ……」と絶句する碧威。

 口を抑えながらクッククッと笑いをこらえている晴真。


「えーと、私は一応女だよ。見えないかもしれないけど……」


「男性でも女性でも構いません!! そのご尊顔と優しさは私の推しです」とホッとため息をつく雪乃。


『害はなさそうだけど、妖の推し人なんて嫌だなぁ……。何とかやめてもらわないと……』と依芙姫は思った。


「一応、こんな私でも許嫁がいるんだけど……」


「えっ!? どなたですか? 」


「俺だ」と親指で自分を指さす晴真だったが、


 雪乃はフッと息を吐き小馬鹿にした表情を見せる。


「依芙姫様より身長が低い男は依芙姫様のお相手にはふさわしくなくてよ! 」と雪乃に言われた晴真は手を強く握り顔を真っ赤にして体を震わせている。


「今は晴真と依芙姫ちゃんは許嫁だけど、もともとは依芙姫ちゃんと僕は結婚の約束をしたことがあるんだ」


「ちょ、それはなしにしてと言ったでしょう」と慌てふためく依芙姫。


「あなたも依芙姫様どころか、そこの眼鏡より身長が低い。結婚の約束も過去の出来事でしょう。甘ったれたあなたはもっとふさわしくないですわ」


「なっ! 神獣の姿なら僕の方が身長が高い」と言い、碧威の耳は人間から狼に変化し銀色の尻尾が生えた。


「耳を身長に入れるだなんて、かわいそうなワンちゃんですこと」と雪乃は憐れみの目で碧威を見る。


「犬じゃない。僕は狼で神獣だ」


「お前いい加減依芙姫から離れろ。 依芙姫が冷えるだろう」


『人間、神獣、妖が自分のことで言い争っている。人外からしか好かれない私って……』とため息をつきながら落ち込む依芙姫。


「雪乃さん。 推しとか崇められるのは私は嫌です」


「そんな……」と悲しそうな表情をする雪乃。


「だけど、私には女の子の友達はいないので、友達ならいいよ。それから敬語も使わないでね」


 雪乃はガシッと依芙姫の手を掴み、「ありがとう依芙姫ちゃん。あなたに危機が生じたら私の氷で守るね」



「ありがとう、その時はよろしくね……」


元氣(げんき)になったので、私はホテルに戻るね。それでは! 」と雪乃は磐守神社の駐車場から去っていった。


「なんなんだ、あいつは!? 」


「高飛車なやつだな……」


「あぁっ……」


 珍しく、意見が一致した晴真と碧威であった。

【読者の皆様へ】

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