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磐守姫と銀色の神獣 〜自然を守るために、祓師、神獣、妖と共に悪妖を祓う〜  作者: ハルモニア


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11話 緑の息吹

 大蛇との戦いから2日後の放課後、依芙姫と晴真は岩焼寺(がんしょうじ)にいた。


「ひどい……」


 木々が燃え煙が出ている状況では気が付かなかったが、鎮火後の周辺の様子に絶句する依芙姫。


 小さな寺である岩焼寺はほとんど焼失し、 周辺の木や草が焼け焦げてしまっている。無数の黒く炭化した木々は無数に突き立つ墓標のようだ。多くの木々の焼失で精氣(せいき)が失われたことで、その場の空気も穢れが漂い重苦しい。


 晴真は岩焼寺の様子見と一帯の浄化の任務のためにやって来た。依芙姫が晴真についてきたのは、その後の林の様子が気になったからだ。


 2人が一歩歩くたびに、 靴の裏で炭になった葉や枝が砕けた。 


 晴真は鈴を取り出し、シャンシャンと鈴の音を鳴らしながら、「ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおゑにさりへて のます あせえほれけ」とひふみ祓詞(はらいことば)を唱えた。


 すると、穢れは祓われ重苦しい空気が一気に軽くなった。


「よし、大蛇が封印されていた岩に行くぞ」と晴真は言った。2人は大蛇が封印された岩の方へ移動した。


 かつて丸かったであろう岩は真っ二つに割れていた。

 そこには丸い岩を囲んでいる折られた5つの銅の柱の残骸らしきものが転がっていた。


「結界を補強している銅柱が折られ、大部分がなくなっている……」


「誰かが銅柱を破壊したから結界が破られたの? 」


「この壊れ方は自然な風化によるものではなく、人為的な感じだ」


「最近、神社やお寺が放火されたり、屋根の銅板が盗まれる事件が多いよね。最近はお寺の青銅の灯籠が盗まれたっけ……」と依芙姫はハァッと溜め息をついた。


「そうだな」


「破壊した人は封印されている大蛇のことを知っていたのかな」


「知っていたら破壊はしないと思うんだが……」


「それにしても、この辺一帯の植物が再び生えてくるといいんだけど……」と痛ましげに周囲を見やる依芙姫。木々が消失する光景を見るのは胸が痛む。


 すると、依芙姫の脳裏に『神氣(しんき)を分け与えなさい』と大蛇との戦いで聞こえた女性の声が響いた。


「えっ!? 」


「どうした? 」と心配そうに依芙姫に声をかける晴真。


「 今、『また、神氣を分け与えなさい』という声が頭の中に響いたの」


「ひょっとしたら、 地面の下の植物の根に神氣を流せば、早く芽を出すのかも……」


「どうすればいいんだろう? 」


「地面に触れてみればいいんじゃないか」


「うん、やってみる」


 依芙姫は膝をつき、息を大きく吸い込んだ後、両手の平を地面に触れた。地面に触れている両手と膝から自分の神氣がさーっと流れていくのを依芙姫は感じた。


 晴真は依芙姫の体から地面へ淡い金色の無数の光の粒子が地面に流れていく様を見た。


「なんて綺麗なんだ」と晴真は思わず呟いた。


 焦げた地面の奥の方から微かに植物や土の温もりを感じると、依芙姫の体から神氣が地面に流れなくなった。暫くすると、炭化した幹の割れ目や地面から、小さな柔らかい緑がひょこっと顔を出した。


「草木の芽だ」と晴真は息を飲んだ。


 すると、パキッとどこかで細い枝を踏みしめた音がした。依芙姫と晴真が音がした方向に目を向けると、小さな影が揺れていた。


 樹皮のような茶色い肌に淡い薄緑の光る目をした20cmくらいの大きさの生き物が3匹いた。


木霊(こだま)だ」


「木霊って? 」


「木霊は樹齢100年以上の木々に宿る木の(あやかし)だ」


「祓うの? 」


「いや……木霊は危害を加えなければ、攻撃しないから大丈夫なはず……」


 ゆっくり依芙姫達のところに歩いて来た3匹の木霊は依芙姫達に声をかけた。


「大蛇の炎でたくさんの木々と僕達の仲間が焼け死んだ」


「でも、君達のお陰で木々に再び生命の灯火が宿った。ありがとう」


「これで僕達も生きていける。 本当にありがとう」と3匹の木霊は次々と依芙姫達に感謝の気持ちを伝えた。


「もし、何か困ったことがあったら今度は僕達が助けてあげる」


 依芙姫は少しでも役に立てたことが嬉しくなり、「その時はよろしくね」と返事をした。


 依芙姫は立ち上がり周りを見渡した。焼け跡の中に淡い緑の小さな芽が無数に揺れている。まるで、小さな芽にお礼を言われているようだ。


「もし、また何か困ったことがあったら教えてね。私は神楽(かぐら)市の磐守神社にいるから」


「うん」


「じゃあね」と晴真と依芙姫は木霊に手を振り、岩焼寺を後にした。


 岩焼寺一帯の浄化、焼け焦げた木々や地面への癒し、木霊との交流で青から薄紫に空の色は変化していた。太陽が西の彼方に沈みかけている。


「神氣をだいぶ流したけど大丈夫か? 」と心配そうに晴真が依芙姫に尋ねた。


「大丈夫だよ。次から次へと私のところに神氣が流れ込んでいるみたいで、枯渇なんかしていないよ」


「そうか」とホッとする晴真。


 息を整え、意を決した表情の晴真が突然、「手を繋いで欲しい」と依芙姫に告げた。


「えっ」


「大蛇を祓う時、依芙姫と手を繋いだ時、俺の神氣が増大して八握剣(やつかのつるぎ)が大きくなっただろう」


「うん」


「俺、上級の悪妖を祓うのに神氣の量がまだまだ少ないんだ……」


「ベテランの祓師でないから、それは仕方ないんじゃないの? 」


「それじゃダメなんだ。神氣が少ないと、いざという時、お前を守れない。だから、時々手を繋いで依芙姫の神氣を流して欲しいんだ。俺の神氣の器も大きくなると思うし……」


「学校の帰り道とか知っている人がいそうなところ以外ならいいけど、ただ誤解されたくないなぁ」


「俺とお前は許嫁の関係だろう」と晴真はムスッとした。


「いやいや、お互いの家族以外は知らないことだし……」


「じゃあ、知り合いもいないこの辺りはいいだろう」と顔を真っ赤にしながら、晴真は依芙姫の手を握った。


 依芙姫の手から温かな神氣が晴真に流れ込んでくる。


「かっこ悪ぃ」と晴真は心の中で呟いた。


 恋のライバルである碧威が現れ、大蛇との戦いの後の碧威が依芙姫の顔を舐めた行為を目撃したことで、晴真は焦りを感じていた。依芙姫の神氣をもらうというのは口実で、本当の理由は少しでも自分に異性として認識して欲しかったからだ。


 しかし、依芙姫は手を握っても涼しい顔をしているのを横目で見た晴真は軽くショックを受けた。以前、依芙姫の妹・芽生(めい)の発案で、依芙姫の前で芽生と仲良くしたことがあったが、全く嫉妬をしてくれなかった。


「漫画のように、幼馴染は分が悪いのは本当だな……」と晴真は心の中で呟き、はぁっと大きく溜息をついた。


「どうしたの? 何か心配事でもあるの? 」


「いや……」


「晴真にはなんだかんだ言って助けられているし、感謝しているよ。何かあったら言ってね」


「あぁ」


「あっ! 高校に着いちゃった。危ない危ない」と手をパッと離す依芙姫。


『依芙姫の身長を追い越し、神氣の器が大きくなって一人前の祓師になったら、きちんと告白しよう』と決意をする晴真だった。

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