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正義の本質は、デスゲームにて。ーそれは警察候補生による、文字通り命を賭けた戦いー  作者: やまだい


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5話 唯一の満点は死に値する。にて

※細かいゲーム設定が出てきますが、次話で分かりやすく表記します。なので、そこまで設定を理解することに脳のリソースを割かず、レイジと寧の掛け合いをお楽しみ下さい。


 視界いっぱいに広がる青。雲はない。

 空は突き抜けるように高く、光がそのまま照りつけている。コンビニのカウンター、蛍光灯の下で過ごしてきた目には、少し痛い。


 足元に広がるのは白い砂。踏みしめると、わずかに沈む。耳に届くのは、一定の間隔で繰り返されている波の音だけ。

 その背後には、鬱蒼と茂る緑の森。手入れの入っていない緑が、そのまま壁のように続いていた。

 その奥の方に、高くそびえ立つ鉄塔のようなものが、頭だけ姿を見せている。

 それ以外の人工物は、どこにも見当たらない。

 無人島。そう呼ぶのが、一番しっくりくるだろうか。

 

 ――それより、もっと大事なことが一つあった。

 それは、他の参加者が見当たらないこと。

 

 百人近くいたはずだ。あの白い空間では、確かに全員いたはず。

 だが今、この砂浜には俺と寧の二人しかいない。意図的にこの島内で分散させたのか、それとも俺達だけが転送されたのか。

 少なくとも、今この場では、俺と寧以外の人影は存在しない。

 

 そんな中、隣で寧がぱっと顔を上げた。

「うわぁ……綺麗だね、海!」

 心底嬉しそうな声だった。まるで遠足に来た子供みたいに、きょろきょろと辺りを見渡している。

 二人きりで無人島に飛ばされた状況で、それができるのはある種の才能だろう。

「あ、でも服は警察のまんまなんだ?なんだかミスマッチだね〜」

「……寧?」

「ん?どうかした?」

 俺からの問いに、彼女はあっけらかんと振り向く。

「他の奴らがいない」

「あ、ほんとだ」

 いや、嘘だろ?まさか今気づいたのか。ここまでくると、最早楽観的とかそういうレベルでは済まないだろう。


 ――仲間に選ぶ奴を間違えたかもしれない。まだ、何も始まっていないのに。

 

 俺は小さく息を吐いて、森の方へと視線を向ける。木々の隙間は深く、十メートルも進めば視界が塞がれそうだ。

 その時だった。


『では、ゲームの詳細をご説明します』

 

 あの声だった。先程と同じ、甲高い子供の声だ。だが、今度は違う。

 どこから聞こえているのか分からない。空間に響いているわけでもない。耳元で鳴っているわけでもない。

 頭の内側に、直接流し込まれてくるような感覚だ。


 反射的に周囲を見回す。スピーカーらしきものはない。配線も、機材も、一切見当たらない。


 ――どういう仕組みだ。


 思考が一瞬だけそちらに逸れる。

 しかし、それを許す間もなく。


『これより、第一ラウンドの説明を致します。第一ラウンドの名は――ディスコード・アイランド』


 甲高い子供の声は、再度脳に直接染み込んでくるような響きが、身体に広がった。

 隣の寧の様子を見るに、全く同じ音声が、彼女の中にも流れているのであろう。


『ルールは単純明快。二十四時間後、この島内で十ポイントを取得している状態であれば、ゲームクリアです』

 

 声と同時、手元の端末が震え、勝手に起動した。

 画面には、参加者の顔と名前、そして自主申告したオリジンと、その点数が表示される。

 

『各参加者には、申告内容に基づいて点数が付与されています。申告内容と実際のオリジンの乖離が大きいほど高得点です。最低一点、最大十点が、各プレイヤーに与えられています』


 ――嫌な予感がした。

 理解するより早く、自然と指は動き、無意識に自分の名前を探し始めていた。

 画面は次々と下がっていく。見慣れた名前、初めて見る名前、それらに目を配る余裕もなく、点数の列が通り過ぎていく。


 そして――見つけた。


 榊レイジ――10。


 手が、止まった。いや、手だけじゃない。体の全てが、その役目を終えたかのように、ぱたりと動かなくなった。

 

 十点。満点だった。


 一瞬、頭の中が真っ白になった。他の誰を見ても、こんな点数の奴は一人もいなかった。

 遅れて、さっきの説明が頭の中で再生される。


『申告と実際の乖離が大きいほど、高得点』

 

 さっきの自分の判断を遡る。オリジン欄を白紙で出した。申告なし=能力不明。能力不明=底が見えない脅威。その結果が、これだ。

 

 ――やらかした。盛大に、やらかした。


『加えて、開幕から五点以上を所持しているプレイヤーは、二時間おきに、端末内へ位置情報が表記されます。』


 追い討ちをかけるな。

 これ以上、俺のメンタルを壊さないでくれ。


『続いて、プレイヤーが点数を得る手段に移ります。その手段は[奪取][撃破][看破][占拠][譲渡]の計五つになります。』


「面白そ〜!」

 寧が説明を聞きながらはしゃいでいる。が、今はそれどころではない。本当に頼むから黙ってて。


『まずは[奪取]について。これは相手の名札を奪えば、その点数を自分のものにできるというものです。点数は相手の名札を持っている時のみ加算されます』


 寧は無機質な声に頷きながら、反応を示す。

 俺も、無機質な状態で呆然と立ち尽くしていた。


『続いて、[撃破]について。プレイヤーを殺した際、その加害者はプレイヤーの所持していた点数を得ることができます』


『マイナス一点のペナルティが課されるというデメリットはありますが、[奪取]と異なり、名札を所持する必要がありません。また、一点の人物を殺害した場合のみ、マイナス点はありません。[撃破]された人物は[脱落]通知として、全員に知らされることになります』

 

 尚もアナウンスは続く。感情のない声が、淡々とルールを並べていく。

 でも、頭には全然入ってこない。右から左へ、通り抜けるようにして消えていく。


『[占拠]について。島の中央部には、鉄塔があります。その鉄塔内から一時間離れることがなければ、三点を得ることができます』


「あ、あれがその鉄塔か〜!」

 隣で、寧が指差しをしながら確認している。そんなもの、どうだって良い。今はこの点数だ。

 

『[看破]について。相手がオリジンを偽っている場合、その真の能力を予想し、宣言することができます。正解した場合、相手から二点を奪います。反対に、予想を外れた場合、相手へ二点を渡すことになります』


「おー!レイジとかそういうの得意そ――ん?レイジ?」

 説明を聞いた寧が、こちらを向いて話しかける――のを、途中で躊躇った。

 その理由は、何となく察せる。

 俺は、まともな顔をしていなかったらしい。冷や汗が、頬を伝っているのが分かる。視界も、どこか定まらない。


 その様子を悟った寧は、何やら端末を操作し始めた。ここで、ようやく俺の表情の意味を、分かってくれたらしい。

「ねえ、レイジ?」

 寧が端末を見ながら、そう言った。何かおぞましいものについて聞くような、そんな問い方だった。

「あんた、十点なんだけど……どういうこと」

「……俺に聞くな」

「いや聞くでしょ流石に!私の三倍以上あるじゃん!?何してるの!?」

 実際、寧の点数は三点だった。ほぼ、申告通りに近い数字と言って過言はないだろう。

 対して、俺は満点の十。


 今この瞬間も、リョウヤやタイガといった実力者達をはじめ、数々の参加者達が俺の名前の横にある『10』という数字を睨みつけているかもしれない。


 謝罪以外の言葉が、出てこなかった。


『最後に、[譲渡]について。チームメイトの名札は、一度だけ重ねることで点数の譲渡が可能です。チームである理由は、これ以外にありません。ので――後の意味は各々で理解して下さいませ』


 殺しても良い、そういうニュアンスだった。

 

 もし、俺が寧の立場だったら――


 考えただけでゾッとする。

 

 なんせ、十点満点で定期的に位置を知らせ、足を引っ張る、戦闘向きの能力でもない絶好のカモが、目の前に居るのだから。


 ゆっくりと、寧へ視線を移した。


「ん、何?その目」

 軽く首を傾げながら、寧がこちらを見る。

「まさか、私がレイジのこと殺すとでも思ってる?」

 思いの外、寧は冷静だった。というより、いつも以上に落ち着いていて、何だか別人みたいに見える。

「ここでレイジを殺したら、不利になるのは私でしょ?一人で二十四時間も生きていける自信ないよ、私」

 あっさりした言い方だった。合理的ではある。けれど、それだけでもない声音。

 

 ほんのわずかに間を置いてから、寧は続ける。

「それに、私はレイジと一緒に生き残ってみたいし」

 不自然なほど自然に、寧はそう呟いた。


「……だからさ」

 太陽の光を受けて、彼女の金髪が淡く光る。


「最後まで一緒に、戦ってね」

 

 ――その笑顔は、まるで天使みたいだった。

 

 胸の奥で張り詰めていた緊張が、一気にほどける。気づけば、小さく息を吐いていた。

 もしここで敵対されていたら――どうなっていたか分からない。寧を仲間に選んでいて、本当に良かった。

 

「ありがとな……寧」


 誰にも聞こえない小さな声で、そっと呟いた。

 そんな俺の様子を見て。


 寧は、わずかに笑っていた。

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