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正義の本質は、デスゲームにて。ーそれは警察候補生による、文字通り命を賭けた戦いー  作者: やまだい


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4話 余りの同志は最適解?にて

 ――あれから数分。

 

 結果から言うと、残念ながら収穫はゼロだった。

 だが、最初こそ周囲の反応は分かりやすかった。


「今の見たか……?」

「あのリョウヤに、あそこまで……」

「榊レイジ……何者だあいつ?」


 ひそひそと、そして確かに俺の名前が混じっている。さっきまでとは比べものにならないくらい、視線も言葉も集まっていた。


 だが、それも長くは続かない。

 時間が経つにつれて、その熱りもゆっくりと冷めていった。


 ――当然だ。

 

 いくら目立ったところで、“中身が分からない”ものに手は出せない。

 俺のオリジンが白紙である以上、そう易々とチームを組むわけにはいかないのだ。

 

 そして――もう一つ分かりやすい理由がある。


 視線の先。少し離れた場所で、リョウヤが新たな集団を作っているのが見えた。


 中心にいるのは、当然あいつだ。


 笑っている。

 さっきの一件などなかったかのように、自然に。

 周囲の人間の距離も近く、その人数も多い。明らかに“選ばれている側”の空気だ。


 ――つまり、そういうことだ。


 俺と組むということは、あれと正面からぶつかる可能性を受け入れるということ。


 割に合わないのだ。

 俺を仲間にしてまで、リョウヤ達とぶつかることが。


 俺がその状況をひっくり返せるほどのオリジンを誇示できれば良いが、俺はその手段を持ち合わせていない。


 ――こうして、俺は余り物にならざるを得なかった。

 

 改めて、端末を開く。

 チームが組まれた者の名前には、薄くマークが入る仕様らしい。画面を流し見ると、マークのない名前は残りわずかだ。


 そろそろ急がなければならない。


(まずい。本当に組めなくなっちまう)


 焦りを顔の外に出さないように気をつけながら、端末をスクロールしていた時だった。

 一つの名前で、指が止まる。


 ――鬼島タイガ。オリジン:手刃。


 視線を上げて、そいつを探す。それは、すぐに見つかった。

 部屋の隅、彼は壁に背を預けてあぐらをかいていた。ガタイが良く、顔つきも厳つい。その男の周囲だけが、まるで磁石の同極のように人を弾いている。

 声をかけようとした者が、端末で名前を確認した瞬間に離れていった。


 俺と同じ側の人間だった。しかし、彼の場合は理由がある。


 鬼島タイガ――連続殺人の容疑で全国指名手配中の、現役の大量殺人鬼だ。名前だけなら、ニュースで何度か目にした覚えがある。誰も声をかけないのは、当然だった。


(なんでこんな奴を……)


 疑問はあった。だが、考えるほどもなく腑に落ちた。オリジン犯罪を制すには、その犯罪者を。目には目を、ではないが、そういう解釈で運営がこいつを引っ張ってきたとしても、おかしくはない。

 警察が異能犯罪者を駒として使う――そう考えると、この試験の気味悪さに、また一つ納得がいった。


 当のタイガ本人は、周囲の反応に特に興味がなさそうだった。誰かを見るでもなく、何かを考えるでもなく、ただそこに在った。

 それ以外に、特筆すべき点はない。別の人を探そう。


 ――普通なら、そう判断するはずだった。


 気づけば、俺の足はタイガの方へ向いていた。

 強いとか頼りになりそうだとか、そういう話じゃない。ただ、あれだけ全員に避けられて尚、あの顔でいられるというのが単純に興味深かった。

 

 戦力としてもおそらく申し分はない。しかし、それ以前にどんな奴なのか気になった。

 なぜ殺人なんてしたのか、どうやって逃げ続けていたのか。欲を言えば、初めて人を殺した時の感情とかも聞いてみたい。


 好奇心に駆られた足で二、三歩ほど歩み寄った、その時だ。視界の端に、何かが引っかかった。

 ふと、視線をそちらへと移す。


 ――そこには、笑っている奴がいた。


 タイガとは対極のような、金髪の美少女。


 この場の空気に、全く飲まれていない。誰かと話しているわけでも、端末を必死に眺めているわけでもなく、ただ何かを面白がるように口の端を上げていた。

 恐怖の裏返しか、それとも怖がるという言葉が辞書にないのか。


 そこへ、通りがかった男が彼女に声をかけようとする。

だが、彼は端末を確認した瞬間、何も言わずに引いた。

 その様子を見て、彼女のリストへ目を流す。


 麗芽 寧(うるめねい)。オリジン、身体能力強化(×2)。


 なるほど。応用の幅はあるが、派手さはない。他人を直接補助するような能力でもない。よって切り捨てられたのだろう。まあ、当然と言えば当然だ。

 

 だが、果たして本当にそうだろうか。

 

 おそらく、俺のオリジンとの相性は良い。実行役と指示役として綺麗に分かれることができれば、役割としてはこれ以上ない程に噛み合う。

 

 そして、不気味なほどの"あの笑顔"。


 ――タイガへ向けていた足が、自然と止まった。


 少女の方に向き直る。今の状況で贅沢を言える立場でもなかったが、それを抜きにしてもこっちの方が合理的だった気がする。たぶん。

 

「お前、なんで笑ってんだ?」

 俺からの問いに、少女――寧は特に驚く様子もなく、ゆっくりとこちらを向いた。

 

「ん?だって、こんなとこで怖い顔してても意味ないでしょ?どうせなら、楽しくいかないとね」 

 この一言で、俺の心は掴まれた。

 

 ――こいつしかいない、と。

 

 一見、ただのバカだ。いや実際、コイツは何も考えずにただ笑って突っ立っているだけの、バカ以外の何者でもない。


 けど、不思議と彼女には――それをどうでも良いと思わせてしまうほどの魅力があった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、みたいな感覚だった。

 

「俺と……組まないか?」

 口をついて出た言葉。計算でも、打算でもない。気づいた時には、そう言っていた。さっきまで並べていた理屈は、どこかに消えている。残っていたのは、衝動だけ。

 

 ――この少女と、同じ時間を過ごしてみたい。


 こんな状況で抱くには、あまりにも場違いすぎる感情。だが、自分でも驚くくらい、その選択に迷いはなかった。まるで、見えていないはずの未来が、見えているみたいに。

 

「ん、良いよ」

 彼女は即答した。

 能力も聞かない。条件も出さない。こちらの情報がほとんど空白のまま、それでも迷いなく頷いた。

 判断としては、明らかに異質だ。

 

 ――だからこそ、面白い。

 

「ふっ……やっぱイカれてんな、お前」

 思わず笑みが溢れた。この場に来てから、初めて笑ったかもしれない。

 その様子を見て、寧はわざとらしく頬を膨らませる。

 

「あー!お前じゃなくて、寧って呼んで!」

 沸点そこかよ。イカれてるは良いのか、逆に。

「……やっぱイカれてるわ。これからよろしくな、寧」

「うん!よろしく!」

 軽い調子のまま、あっさりと返ってくる。深さはない。だが、不思議と薄くも感じない。

 

 やり取りはそれだけ、なのに――

 

 なぜか、妙な手応えのようなものが、心に残った。

 出会うのがこんな場所でさえなければ――

 

 だが、そのもしもを断ち切るように一つの音が再び現実を思い起こさせる。

『チーム決め、お疲れ様です。それでは、第一ラウンドの会場へ移動を開始します』

 無機質な言葉が、白い空間にこだました。

 

 その刹那。

 

「な……!?」

 視界が、強烈な光に塗り潰される。反射的に目を閉じた。

 ――次に、その視界を満たしたのは。


 一面の水色と、白い砂浜。

 そして、鼻を掠める潮の匂いだった。

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