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第28話 第八の災い 


 放課後の昼下がり。突然、上空に巨大な魔法陣が展開されたかと思えば、空を埋め尽くすほどの蝗の魔物が召喚され、生徒たちを襲い始めた。


 グリフォン寮寮長のユリア・コンセンテスが筆頭となって生徒たちは協力し合い、頑丈なドラゴン寮舎に立てこもる形で魔物と戦っていた。


雷霆(ケラウノス)


 雷撃が宿舎に向かって飛来する魔物の群れを焼く。


 ユリア・コンセンテスは生徒たちを守るため、前線に立って戦っていた。


 その学生とは思えない達観した凛々しい佇まいに、隣にいたユノ・コンセンテスが奇声を上げる。


「んひゃ〜! 流石です、ユリアお姉様!」


 現在、ドラゴン寮舎の前では各寮の決闘部が魔物と戦っている。彼らの実力なら下級の魔物を倒すくらい訳ないだろう。


 しかし、いくら倒しても魔物は無尽蔵に空から現れる。


 召喚式である空の魔法陣を壊そうにも、魔法陣は投影されている映像でしかなく、破壊は不可。生徒たちはひたすら戦い続けるしかなかった。


「一体何が起きたというのだ」


 戦闘の指揮を行うアルゲース先生は上空の魔法陣と魔物の群れを見上げて溜め息を吐いた。


 戦闘が始まってから15分ほど経過した頃、避難誘導を担当していたドラゴン寮決闘部のルキウス・ペンドラゴンがアルゲースの所に報告に来た。


「アルゲース先生、ほとんどの生徒の避難が完了しました。ですがユニコーン寮生だけがいません」


「おそらくユニコーン寮舎に避難しているのだろう。ヨシュア先生が一緒にいらっしゃるなら問題ないとは思うが」


 教師として生徒たちを守る責任があるアルゲース先生はユニコーン寮生のことも心配していた。


 空の翳りが濃くなる。上空の魔物の群れが更に密度を上げていき、隙間のないほどに敷き詰められた。


 そしてその大群が一斉に生徒たちの立てこもるドラゴン寮に向けてミサイルのような猛スピードで落下し始めた。一箇所に餌が集まるのを待っていたのだ。


「防御魔法展開!」


 アルゲースの指示で決闘部たちがドラゴン寮を囲うように幾重にも重なる防御魔法を展開する。


 しかし、次々に防御魔法は破られていく。


 ルキウスとユリアが大技で大群に攻撃するが、焼け石に水。魔物が増えるスピードが早すぎる。


 万事休す、遂に最後の防御魔法が破られて、生徒たちに向かって魔物の大雨が降り注ぐ。


 一瞬の突風を伴って、エミリア・コンセンテスがドラゴン寮舎の前に転移魔法で現れた。


 シオンの転移魔法による高速移動だ。


「封印解除─── 戦女神の盾(アイギス)!」


 分厚い魔力の壁が展開され、魔物たちは激突して潰れていく。


 寮対抗戦以降、エミリアは容易く封印を一時的に解除できるようになっていた。


 続けて追いついたルーナたちも加勢していく。


方舟雨夜リジェネシス・アークナイト!」


 四十門の魔法陣から水属性魔法の矢が連続で発射され、魔物たちを蜂の巣にしていく。


「熾天、迸れ。熾炎天使(ミカエル)!」


 キリエの炎の剣が地上に達した魔物たちを焼き尽くしていく。

 

 更に魔法無効の力により、キリエに触れられた魔物たちは一瞬にして灰と化して消えていく。


「その血が印となり、災いを過ぎ越すだろう」


 椿姫が過越の結界をドラゴン寮を囲うように展開する。


 千里眼でユニコーン寮の結界を解析した彼女は災いを防ぐ性質を見様見真似で再現した。


 これにより、魔物たちの攻撃が止まり、上空へと帰っていく。


 完全にヨシュアの過越の結界を再現したわけではないため、しばらくすれば効力も消えるが、十分な時間は作れるだろう。


「お待たせしました、ユニコーン寮決闘部、只今参上ですわ!」


 ユニコーン寮の加勢とエミリアの元気な挨拶で場の雰囲気が生き返る。


 アルゲース先生は安心してグダっと座り込んだ。


「よかった、お前たち無事だったか。おかげで助かったぞ」


 合流したユニコーン決闘部は現在の状況をアルゲース先生、ユリア、ルキウスらリーダー格に伝える。


「……まさかヨシュア先生が」


 アルゲース先生がショックを受けて放心する。


 ヨシュアは生徒だけではなく教師陣にも尊敬されており、みんなすぐに受け入れることはできなかった。


 これからの方針をアリスが共有する。


「即席の過越の結界の効力が切れた後は引き続き力を合わせて蝗の魔物と戦うことになります。ですがそれだけではこの状況を打破することはできません。


 災いを終わらせるには鐘塔のある中央の礼拝堂に行き、結界の魔法陣の本体を破壊する必要があります。


 当然その際ヨシュア先生に阻まれるはずです。

 礼拝堂に行くのは戦闘に長けた方、それもヨシュア先生に勝てる方でなくてはなりません」


 マリアがいない中、この学校で一番の戦力はアンナだ。


 ユリアやルキウスも強いが、ヨシュアに勝てないことはアロンの戦いを見た者なら誰でもわかる。


 それにユニコーン寮生のアンナなら説得の余地もある。


「アンナちゃん、お願いできますか」


 心を読める彼女ならアンナがまだ恐怖を克服できていないことをわかっているだろう。それでも、選択肢はこれしかない。


「……うん、わかった」


 みんなをがっかりさせたくなくて頷いた。


 ヨシュア先生はユニコーン寮の生徒を殺すつもりはないため、死の恐怖で動けなくなることはないはずだ。


「まずは防衛に参加し、魔物の第二波が落ち着いたら抜け出して礼拝堂に向かってください」


 他の生徒たちも戦っている下級の魔物相手なら、怖くないはずだとアンナは気張った。


 各々が魔物の第二波襲来に向けて準備し終えると、即席の結界が崩壊する。


 生徒たちの存在を認知した魔物たちが再び一斉に地上に向けて降ってきた。

 

 アリスの作戦で生徒たちは、防御魔法、遠距離攻撃、近接戦の三つの役割に分かれて戦う。先程よりも効率良く魔物を迎撃していく。


 近接戦担当に割り振られたアンナの前に蝗の魔物が一体現れた。


 その体躯は二メートルほどで手足は逞しく発達しており、人のように二足歩行している。顔面は不気味な蝗そのもの。


 アンナの身体は恐怖で動かなくなった。


 どうして。心の中で叫んで問答するが身体は動かない。みんなの期待に応えられない。このままじゃ死ぬ。


 呼吸が荒く、視界が朧げになり、意識を失った。


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