35 矛盾シグナル
また新たに、ルデルト王子の心境に変化が起きたのは、つい最近で在る。
ソレイダ陛下には王位を継ぐ気等無いと言ったが、何故か無意識にでは在るのだが、満更でも無くなって来た。
そして更に王子としての自覚もで始めたのか、街に一人で行かなくなった。別に街に行く事は悪い事では無いのだ。デルドアが前から何故街に行く事にあれだけ怒って居たかというと、只街を見て回るのでは無く、如何わしい所にルデルト王子が行く為、其れに反対して居たのだ。
街の現在の様子を己の目で見る事には、デルドアも大いに賛成なのだが、少し前のルデルト王子はその如何わしい(・・・・・)場所が目的だった為あれだけ追い掛け回して居た。
しかし最近では、街に行くとしても必ず誰かと共に行き、その時も王子としての姿で行くのだ。
何時も街に行く時は王子だとバレない様な、所謂お忍びの格好で行って居た。だがそのデルドアが怒る原因でも有る、如何わしい所には全く寄り付かなくなった。
街に行くのも遊びに行くというよりは、街の現在の様子を自分の目で見る為。デルドアがずっと願って居た目的の為に、ルデルト王子は街に行くのだ。
現在、街は治安が良いのか。街の者達はどんな生活を送って居るのか。格差は有るのか等、視察の様な事をして居る。
端から見れば、王子が王位を継ぐ気になったと見られるが、王子自身は只自分が気になったから、どうなって居るのか調べる為だと口では相変わらず否定的だ。
そしてルデルト王子の目で見た現在のアルンド王国の様子なのだが、比較的治安も良く、民衆達の服装や様子も見る限りでは豊かそうで在る。
「意外と、格差は無いんだな」
「そうで御座いますねぇ」
もっと格差という物が存在して居ると思って居たルデルト王子は、周りをキョロリと見渡し呟いた。その呟きに、エリッタもルデルト王子の一歩後ろを歩きながら、周りをキョロリと見渡した。
道行く者達は、皆笑みを浮かべ恋人や友人、或いは夫婦や子供と共に幸せそうな表情を浮かべて居る。誰も、顔色を曇らせて居る者等居ない。
という事は、皆暮らしに満足して居るか、裕福な暮らしを送れて居るという事だ。生活が苦しいと、誰しも表情がキツくなる。切羽詰まって、その日その日の暮らしがやっとという暮らしを送って居る者は、大体表情を見れば分かる物だ。
其れが、此の街を数十分と歩き観察したルデルト王子達は、まだ一度もお目に掛かって居ない。
「まあ、他の国よりは税金も其れ程高くは無いしな。商業的にも発展してるし…」
「ですがルデルト様、表ばかりを見てはいけませんよ? 皆、良い所しか現れないのですから」
「ああ、分かってる。其れになあ、外面は皆良い物だって相場は決まってるんだよ」
フンッと至極ダルそうに鼻を鳴らしたルデルト王子に、エリッタは「そういう方も、いらっしゃいますかねぇ」とフォローもせず肯定した。
現にそんな人物を見て来たエリッタにとって、そんな人ばかりでは無いと言おうとも思ったのだが、アルンド王国の王子として育って来たルデルト王子も、勿論そういう人物達を幼い頃から見て居る為、既に現実を知って居るルデルト王子にフォロー等する必要も無いという結論に達したのだ。
今まで大通りを歩いて居たルデルト王子は、スッと方向転換をして路地裏へと進路を変えた。其れに続く様に、エリッタと二人程の護衛も路地裏へと歩みを進める。
一歩路地裏へと足を踏み入れた瞬間、其処は別世界で在った。
数が多い訳では無いが、其れでも数十人の孤児が、其処には存在して居た。その現状に、やはり格差は存在して居たとルデルト王子は判断した。
孤児が大半を占めて居るという事は、親が子供を育てる余裕が無いという事だ。勿論其ればかりでは無いと思うが、人という者は金銭面に余裕が無くなると、先ず最初に食いぶちを減らそうとする傾向に有る。
ギリギリまで削れる所は削ったのだが、其れでも生活して行くのが辛くて、その最終手段という場合も有るだろうが、やはり手っ取り早く自分達の生活に余裕が欲しいと思うと、自らの子供にその矛先が向く。
自分達が生きて行く為だと、本当はこんな事したく無いんだと、自らを正当化させ何も分からない、或いは何の罪も無い子供を酷い場合は殺す。
何でも噂では、隣の国より更に東に行った所に在る国では、一時子供の死体が大量に川や海辺に打ち上げられて居た様だ。どうやらその死体の多くが、貧しい暮らしを余儀無くされた者達による、自ら等の子供の集団殺害での子供の死体だった。
その噂は瞬く間に此のアルンド王国にまで拡がり、此れを耳にしたソレイダ陛下は非常に憤慨して居た。そして此の、仕方無いと片付けるのも余りにも悲しい現状に、アルンド王国の一部の貴族達は胸を痛めその東の国に、子供達の為にと資金提供をする者まで出て来たのだ。
そんな遠く離れた東の国に資金提供を出来る程、此のアルンド王国はとても豊かなのだが、其れは一部の者達だけだった様で在る。
その東の国の噂を聞き、ソレイダ陛下はより一層そんな事態にならない為にと努力を重ねて来たのだが、其れもやはり簡単には行っていないのが現状の様だ。
路地裏にはボロボロの服を来た小汚ない姿の子供達が、皆元気無く座り込んで居た。
一歩入った瞬間、其処はまるで先程の街とは雲泥の差で、別世界の様な其処に、ルデルト王子は予想以上だったと目を疑う。
「此所までか……」
眉を潜め顎に手を当て呟くルデルト王子に、エリッタは只じっと此の目の前に広がる現状を見つめて居た。
突然綺麗な身なりをしたルデルト王子達が路地裏に現れた為、子供達は皆ギラギラとした瞳で見つめて来る。そ飢えて居る様な、警戒して居る様な、そんな視線を一身に浴びるルデルト王子は眉を寄せた。
そんなルデルト王子の傍で共に路地裏の実態を見て居たエリッタは、その子供達の姿に昔の自分の姿を重ねて居たのだ。しかし其れを表には出さない為、誰もエリッタの様子には気付かない。
「行くぞ、エリッタ」
「畏まりました」
ルデルト王子はそんな子供達の視線に臆する事無く、止めて居た歩みを進め、どんどん路地裏の奥へと進んで行く。
路地裏の手前に居た子供達は座り込み、余り生気も覇気も見受けられ無かったが、どんどん奥に行くに連れ、子供達の視線は敵意と怒りを含んだ物に変わり、建物の陰からじっとルデルト王子達の様子を観察して居る。
そして路地裏の一番奥、高い塀の壁によって行き止まりになった其処には――
「此処に、何しに来たんだ」
五人の子供の姿が、ルデルト王子達の目の前に現れた。
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