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36 五人一体システマチック

「アンタみたいな人が、こんな所に何の用だ」

「お前は……」


 目の前に現れた五人の子供達。その先頭に立ち、ルデルト王子達を鋭いアイアンブルーの瞳で見上げ、まだ声変わりをして居ないのか、高めの声で告げた子供に、ルデルト王子は片眉を上げた。

 その少年の後ろに居る三人も、(みな)ルデルト王子達に警戒心剥き出しで見つめて来る。しかし後の一人で在る一層小柄な少女は、青褐色のアシンメトリーで、左側に向かうに連れ長くなって居る髪型の少年の背に隠れる様に、時折ちらりと少年の背から顔を覗かせ、その少年と同じ青褐色の胸位の長さの髪の少女に気付いたエリッタが視線を向けると、バチリと合った視線に驚いたのか直ぐ隠れてしまう。


「一体、此の路地裏に何の用で来られたのでしょうか?」


 スッと、短めの黒髪に目付きの鋭いアイアンブルーの瞳が特徴な少年の隣に並ぶ様に来た少年は、にこりと微笑みルデルト王子達を見上げた。

 その少年は、アッシュグレーの肩より下程の長さの髪にグリーンの瞳で、今は汚れが目立つのだが、綺麗にすればとても光る、綺麗な容姿をして居た。

 今も尚鋭い瞳を向けて来るアイアンブルーの瞳の少年とは対照的に、アッシュグレーの髪の少年はとても友好的に見える。

 しかしその対照的な様に見える二人に共通するのは、仲間を守る様にルデルト王子達の前に立ち対峙して居る事だ。


「俺は街の実状の調査に来てるだけだ」


 そんな二人に、ルデルト王子は片眉を上げただけで特に顔色を変える事も無く、淡々とそう告げた。


「此の街の実状? ハッ、今更何を言ってるんだ!」

「アーガル、少し落ち着くのです」

「だがエゼット!」


 アイアンブルーの瞳の少年はアーガルという名前の様で、ルデルト王子に食って掛かって行こうとするが、其れをアッシュグレーの髪のエゼットという少年に止められた。

 エゼットはアーガルに落ち着く様に託した後、ルデルト王子へと向き直り頭を下げた。


「申し訳有りません、エゼットがご無礼を…」

「無礼でも何でも無い。気にするな」


 申し訳なさそうに頭を下げたエゼットに、ルデルト王子は何で謝れるのか分からないと言う様な表情を浮かべたが、其れを斜め後ろに居るエリッタに聞こうかとちらりと目を向け、エリッタに何故か頷かれた為不思議に思いながらも告げた。

 アーガルは此の国の王子で在るルデルト王子に、何とも無礼な振る舞いをしたのだが、当のルデルト王子本人には無礼にされた覚えが無かった。

 其れはアーガルの反応等当然で、そんな反応をされる事も、ルデルト王子には予想通りだった。そして仮に自分も同じ様な境遇に有って居たとしたら、やはり自分もそうなると思って居たからだ。だが、王子という立場に産まれた時から居たルデルト王子には、その同じ様な境遇という事への認識も、ルデルト王子の想像でしかなく、その想像も余り酷い物でも無いのが現実だ。

 其処はやはり、裕福な暮らしを送って来たルデルト王子には、苦しく貧しい暮らしを強いられて居る者達の、本当の苦しみは分かって居ない。認識の甘さは、仕方がない事だろう…。


「御慈悲、感謝致します。其れで、どうして今更貴方様の様なお方が、此の路地裏等に?」


 相変わらず笑みを浮かべ、そう訊ねたエゼット。しかし、人懐っこそうな笑みを浮かべるエゼットの一方で後ろでは、イエローオーカーの長めの髪を後ろに流して居るのが特徴的な少年が臨戦態勢を取っており、隠れて居る少女を守る様に立って居る、アシンメトリーの青褐色の髪の少年の様子は、只事の成り行きを見守って居た。


「俺は、俺が気になったから調べて居るだけだ」


 ルデルト王子が平然とそう言い切った瞬間、其れに腹を立てたのか、先程から臨戦態勢を取って居たイエローオーカー色の髪の少年が一人飛び出して来て、ルデルト王子に向かって拳を振り上げながら突進して来た。

 護衛として二人居た兵士も、突然の事に動けずその場で立ち尽くしてしまっており、ワンテンポ遅れてルデルト王子の元に駆け出す。

 少年が向けて来た拳をルデルト王子は受け止め様と構えた瞬間、其れは瞬時にルデルト王子と少年の間に入り、その拳をエリッタが受け止める形になって居た。

 其れにはルデルト王子も、そして子供達も兵士も驚く。傍に居た只のメイドが、少年の拳を難なく受け止めたからだ。

 イエローオーカーの色の髪の少年は、子供ながら結構な怪力の持ち主な為、今まで普通の大人でも此の少年の拳を受けて無傷で居られた者は居なかった。

 しかし拳を受け止めた筈のエリッタは、平然として居た。そして、少年の拳を受け止める気満々だったルデルト王子は、エリッタに助けられてしまった事に不満げで在った。


「大丈夫で御座いますか? ルデルト様」「大丈夫も何も、お前は一体何してんだよ!!」

「はい?」


 拳を受け止めたまま、背後に居るルデルト王子を振り返ったエリッタに、ルデルト王子は眉を吊り上げ怒鳴った。エリッタは突然怒鳴られた事にきょとんとし、目をぱちくりさせる。


「何でお前が受け止めてるんだよ! つーか何でそんな平然としてるんだ!?」

「ルデルト様をお守りするのも、私メイドの役目で御座います。そして、大事なお方をお守りする為にも、一通りの武芸は心得ておりますので」


 イエローオーカーの色の髪の少年が、受け止められた拳に力を加えたり、エリッタがルデルト王子を振り返り話して居る間も、舐めるなと言う様に蹴りを繰り出して居るのだが、少年を見て居ないにも関わらずまるで見てるかの様に、器用にその蹴りを防いで居たエリッタ。

 そんなエリッタの姿を今目の前で見せられて居るルデルト王子は、その言葉を信じざるおえ無かった。


「ですが、ルデルト様がその様にお怒りになられる等余程の事。誠に申し訳有りませんでした。私は余計な事をしてしまった様ですね…」

「い、いや。別に余計な事でも無いが……」


 相変わらず少年が繰り出す蹴りや、エリッタに掴まれて居ない自由なもう片方の手で殴り掛かって居るのだが、そのどれもがエリッタによって防がれ、エリッタは未だに少年の方に視線等向けず、ルデルト王子に申し訳なさそうに謝り目を伏せる。

 表情と体の動きの違いにルデルト王子は顔を引き痺らせつつ、別に怒ってる訳でも、余計な事だとも思って無いとぶつぶつ呟いた。

 いや、確かに怒ったのだが…。でも其れは、エリッタが余計な事をしたと思った訳では無く、エリッタに助けられてしまった事に対してだった。好きな人に助けられるなんて、其れも女のエリッタにだ。ルデルト王子にもプライドという物が有る。

 其れに、エリッタが武芸という物が出来る等初耳だったルデルト王子は、更に自分が知らなかった事にも、エリッタが何も言わなかった事にも苛立ちを感じる。

 そして、一番腹が立つのは……エリッタには自分が此の程度の攻撃も防げない様な、そんな軟弱な男に見られて居た事だった。


 エリッタはもう一度ルデルト王子へ謝った後、懲りずに何かを喚きながら攻撃を繰り出して来る少年に向き直り、にこりと微笑んだと思ったら、ずっと受け止め握って居た拳を瞬時に自分の方へと引っ張った。

 突然引っ張られた事に少年が驚く間も無く、気付けば少年はエリッタに抱き締められて居た。


「……は…?」


 ぽすりとエリッタの腕の中におり、エリッタの肩に頬を押し付ける様な形になって居た少年は、自分に一体何が起きたのか分からず声を漏らす。

 温かい腕の中で、エリッタに抱き締められて居た少年は、その自分の体を包むぬくもりに漸く自分の身に何が起きたのか理解したのか、驚きの声を上げ慌て出す。

 勿論驚いたのはその少年だけでは無く、周りで見て居た子供達もぽかんと口を開け呆けており、ルデルト王子も目を見開き唖然として居た。


「な、なな何してんだお前!? は、離せ――!」

「おいたが、過ぎますよ。腹が立つ気持ちも、怒りも分かります。ですが、貴方が先程殴り掛かろうとした方は、貴方方の今後を左右するかもしれない方なのですよ? 軽率な行動はお控えなさいませ」

「っ……」

「其れと……その様に怯える必要も、御座いません。此の方は貴方方の敵では御座いませんよ? 貴方方の味方で、とても頼りになる王子で御座います」


 ぎゅっと、エリッタはそう言いながら少年を抱き締める腕の力を強めた。先程かり暴れて居た少年は、エリッタの言葉に忌々しそうに唇を噛み締め、其れでもエリッタには敵わないと分かって居る為、大人しく抱き締めれて居た。

 だが、エリッタのぬくもりに、少年は言い知れぬ懐かしさを感じる。昔、こうして誰かのぬくもりに包まれて居た様な、忘れ去られて居た想いが、心の奥深くから表れたが、少年は其れが何なのかは分からなかった。

 気付いて居たのかも知れない。しかし、其れを認める事等出来ないのだ。

 子供の頃、誰もが無条件に与えられ、其れが当たり前だと思って居た物。

 親のぬくもりや、愛情という、そんな物を――。

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