23 プラスに働く
「お、おい! 何泣いてるんだ!?」
「どうかしたのですか!? デルドア様っ」
急に顔を上げたと思ったら、何故かデルドアはボロボロ泣いて居た。その姿にルデルト王子もエリッタも何事だと慌ててしまう。狼狽える二人を前に、デルドアはまさに男泣き状態で在る。デルドアは更に、慌てるルデルト王子の両手を握り締めた。
「ほん、とうに…っ。ご無事で、何よりでした…!」
「お、おい…」
「私はっ、ルデルト様の身に何か有ったのでは無いかと心配で心配で! 夜も、眠れませんでした…!」
「オーバーな奴だな、お前…」
ルデルト王子の両手を力強く握り締め、デルドアは泣きながら嗚咽混じりに言葉を紡いでおり、其れを向けられて居るルデルト王子は苦笑いを浮かべるしかない。
何時までも泣き止まず、どれだけ自分がルデルト王子を心配して居たのかを永遠と言うデルドアに、ルデルト王子は傍に居るエリッタにどうにかしろと目配せをするのだが、エリッタはうんうんとデルドアの話を頷きながら聞き入っており、ルデルト王子の其れには気付いて居ない。
「あー…デルドア」
「っ、なんで…御座いましょうか」
「……ただいま」
「王子…っ」
「其れと……心配掛けて、悪かったな」
デルドアから顔を逸らし、ルデルト王子はそうぶっきらぼうに告げた。其れを直ぐ傍で聞いて居たデルドアは、感激の余り先程よりも更に泣きだしてしまい、其れからデルドアが泣き止むまで暫く掛かったので在った。
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「デルドア、お前は涙もろ過ぎだぞ」
「申し訳有りませんっ。私とした事が、王子のご無事なお姿を目にした途端歓喜余ってしまい。何たる失態を…!」
デルドアが泣き止んだのを確認した後、ルデルト王子とエリッタは執務室から出て行った。予想外にデルドアが泣き止むのに時間を要した為、ルデルト王子はげんなりして疲れ切ってしまい、今日は此れ位で後は部屋でゆっくり休む事になったのだ。
エリッタ達が部屋から出て行った後、ソレイダ陛下は目を真っ赤に充血させて居るデルドアに笑い混じりに言った。言われたデルドアは、申し訳なさそうに、そして少し恥ずかしそうに項垂れて居た。結局、デルドアが大泣きしたという事態が起きた為、ソレイダ陛下もルデルト王子も一度も言葉を交わす所か目を合わす事も無かった。
その事に当然デルドアも気付いており、だからこそ尚更ソレイダ陛下への申し訳なさで落ち込んで居るのだが、其れについては特にソレイダ陛下本人は全く気にしては居なかった。
元より、デルドアの大泣き事件が発生しなかったとしても、ルデルト王子がソレイダ陛下に自ら話し掛けて来ない事等予想出来る。そしてソレイダ陛下も、別にルデルト王子が自分へと声を掛けて来なくても其れは何時もの事だと何とも思わない。
只、何事も無く元気な姿で城へと帰って来る事に意味が有る為、例え自分を嫌ったままで、言葉を交わす事が無く共、其れは其れで仕方ないとソレイダ陛下は割り切って居る。だが本音を言えば、昔の様にルデルト王子と他愛も無い会話でもしたいとは心の中で思っては居るのだが、其れは此れからも叶いそうに無いなと苦笑しか出ない。
そしてそんな事よりも、今回ルデルト王子が帰って来て酷く驚いた事が有ったのだ。
「意外、だったな」
「と、言いますと?」
「ルデルトだ。まさか、あんな顔で帰って来るとは思わなかった」
エリッタとの攻防戦の末、途中しか乱入したデルドアによって部屋へと転がり込んで来る形で部屋へと入って来たルデルト王子だったが、その顔は何時も家出から帰って来た時とは明らかに違って居た。
何時もは、例えデルドアによって強制的に連れ戻されて帰って来ても、デルドアの手から逃れて自分から城へと帰って来ても、ルデルト王子は不機嫌なままで在った。
城を飛び出して行った時と同じ、不機嫌で、酷く苛々して、誰かがちょっとした事でも何か言えば一瞬で怒りの沸点が上がる様な感じだったのだが、今回はまるで違って居た。
部屋へと転がり込んで来たルデルト王子の顔は、何処かすっきりとして居た。不機嫌そうでも無く、苛々して居る訳でも無い。デルドアに悪気が有った訳では無いが、床へと転がってしまったのにルデルト王子は余り怒っては居なかった。其れ所か、床へとそのまま胡坐を掻き、呆れた様な表情で同じく床に尻餅を付いて居たエリッタを眺めて居たのだ。
その後も、大泣きして居るデルドアに呆れはして居たものの、何時まで泣いて居るのかと、煩わしそうにキレる事も無い。そして一番ソレイダ陛下が離れた所でデルドア達のやり取りを眺めて居て驚いたのは、ルデルト王子がただいまと、口にした事で在った。
普段も殆どそんな事を口にしないルデルト王子が、其れを口にした。其れもその後デルドアに向かって悪かったと謝ったのだ。此れも今まででは考えられない事だ。一晩しか城に居なかったのにも関わらず、そのたった一晩で、ルデルト王子は一つ成長して帰って来た。
此れの意味する事は…。
「……エリッタの、お陰か」
「そう、なのでしょうか…」
ソレイダ陛下の呟きに、デルドアは目を伏せた。
一晩の内にルデルト王子の中で何かが変わったのは明らかだ。ならば、その変わるきっかけを作ったのは、一晩ルデルト王子の傍に居たエリッタしか考えられない。しかし、エリッタが一体何をしてルデルト王子を変えたのか、其れは二人には分からない。本当に些細な事なのか、其れ共もっとルデルト王子の心の中まで踏み込んだ事だったのか…。
だが、此れだけは言える。
「ルデルトにとっては、依頼をして良かったのかも知れないな」
「認めたくは有りませんが、そう…なのかもしれませんね」
ルデルト王子にとって、エリッタという存在は確かにプラスになって居ると言う事だ。




