24 振り回される人達
ルデルト王子の家出騒動から数日経った城では、ある変化が起きて居た。そのある(・・)変化とは…。
「おいっ、エリッタの奴何処に行った?」
「エ、エリッタで御座いますか? あの者ならば丁度洗濯物を干して居る頃だと思いますが…?」
「ふーん。じゃぁアイツに、其れが終わったら俺の部屋に来いって言っておけ」
「は、はいっ。畏まりました」
廊下に居た執事に其れだけを言うと、ルデルト王子はもう用は終わったと言う様にその場をさっさと後にした。聞かれた執事の方は、一体今日此れで何度目だとそっと誰にも気付かれ無い様に溜息を吐いた。
其れも、ルデルト王子に異変が起きたのはルデルト王子の家出騒動の翌日からだった。何故か次の日から、ルデルト王子はしきりにエリッタが今何処に居るのかを、たまたま近くに居た執事やメイドに聞きに来るのだ。
そして今エリッタは此れをして居るんじゃないかと聞かれた者が答えれば、じゃぁ其れが終わったら自分の部屋に来る様に伝えろと、其れだけを言ってルデルト王子は自分の部屋へと戻って行く。
最初こそエリッタに何か急ぎの様が有るからなのだと、皆特に何の疑問も持って居なかった。しかし、何時間か経った時、又もやルデルト王子がエリッタは何処に居るのかと聞いて来たのだ。確かついさっき、一旦仕事を終えたエリッタがルデルト王子の部屋へと入って行くのを見て居たその者は、どうしてまたエリッタを呼ぶ様に言うのか疑問で在った。
だが其れをルデルト王子に質問する事等出来る筈も無く、聞かれた者はまたエリッタは今違う仕事をして居るのでは無いかと伝える。そうすれば、またルデルト王子はじゃぁ其れが終わったら自分の部屋に来る様に伝えろと、其れだけを言い部屋へと戻って行くのだ。
そんな事を聞いて来たり等普段した事が無いルデルト王子な為、周りの者は今日は色々と忙しいのだなと思う様になって居た。しかし、そんな思いも、ルデルト王子が一日に何度もエリッタの事を聞いて来る為、此れはオカシイと言う思いへと変わって来る。
一回や二回なら分かる。ソレイダ陛下だって忙しい日にはそんな事珍しくも無いからだ。だが、其れが三回や四回になって来ると、また状況は変わって来る。どう考えても、そんなに自分の部屋へと呼び付ける理由等無いだろう。
そして其れが、此処暫く毎日の様に続いて居るのだ。
毎日何度も何度も、エリッタは何処に居るのかと聞いて来て、今は此れをして居ると言えば、じゃぁ終わったら部屋に来る様に伝えろと部屋へと戻って行く。そんなやり取りも、二日目にもなるとルデルト王子が廊下を歩いて来るとまたエリッタの事だろうと周りは思い、ルデルト王子に聞かれる前に、今エリッタは此の仕事をして居るから、終わったら部屋に行く様に既に伝えて有ると先に伝える。
そうすればルデルト王子はその者の言葉に満足して部屋へと戻って行くのだ。
毎回毎回呼び付けられるエリッタ本人は、言いに来るメイドや執事の人に申し訳なさそうに謝る。だが、ルデルト王子に一々呼び付けられる事は、苦にして居る様子等が全く無く。あるメイドが大変じゃ無いのかと質問すれば、エリッタはきょとんとした後そのメイドにこう告げた。
「いえ、大変等では有りませんよ? 何故ならば私はメイドで御座います。メイドは仕えて居る方の為におりますので、その方が私を必要として下さるならば、或いはその方が呼んで居るのであれば、その方の元に行くのは当たり前で御座いますし、其れがメイドの務めで御座いますので」
「大変等と思った事は御座いませんよ?」っと、エリッタは至極当然だと言う様な表情でそのメイドへと告げ、仕事が終わったのかルデルト王子の元に行くとお辞儀と共にその質問して来たメイドをその場に残し、さっさと居なくなった。
その場に残されたメイドは、エリッタの言葉に唖然と立ち尽くして居た。エリッタの言葉は尤もなのだが、だからと言ってあそこまできっぱりと言い切れる者等居るだろうか。自分はメイドだと、メイドが主人、或いは仕えて居る方の為に動くのは当たり前だ。なのだが、其れでも不満や不平を持ってしまう物だし、思わない人の方が少ない。メイドや執事だって人間だ。生きて、個々の感情だって有る。例えどんなに尊敬して居る主人の命令でも、此れは如何な物かと思ってしまう事だって有るし、其れでも主人の命令を聞かない選択肢等持っては居ない。
だから、どんな命令でも主人の命令は絶対だ。意見等言わないし、言う通りにするのだが、其れでも心の中では納得出来ない事だって有る。其れは仕方ない。
ずっと、皆自分と同じ様に思って居る思って居たそのメイドだったが、エリッタのその言葉に酷く驚いたし、そうきっぱりと言えるエリッタが羨ましいとも思った。そう割り切れるエリッタと、メイドになって何十年も経って居るにも関わらず、未だに割り切れない自分が酷く恥ずかしく思えた。
自分よりも若いエリッタがそう思えて、エリッタよりも何十歳と年上の自分は、一体何が違うのだろうかとその場で暫く、そのメイドは幾ら考えても出ない答えを考えあぐねて居たのだった。
だが、此の者は一つだけ、大きな勘違いをして居た。
其れは、エリッタが自分よりも年下だと思ってしまって居る事だ。
此れだけは言える。
エリッタは此のメイドよりも――メイド歴は長いのだ。
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「お待たせ致しましたっ」
「おせーよ。今まで何してたんだ、お前」
「お庭の掃除をしておりました」
「そんな物、他の奴等にやらせれば良いだろうが」
「いえいえ! 此れは私の仕事で御座いますのでっ」
「ふーん、まあ別に良い。なあエリッタ…」
「はい、何でしょうか?」
「コーヒー」
「コーヒーで御座いますねっ。畏まりました」
先程のメイドが大きな勘違いと共にショックを受けて居る事等知らないエリッタは、ルデルト王子の為にコーヒーを入れて居るのだった。そして其れを満足げに見つめるルデルト王子。
自分達の言葉や行動で振り回されて居る者達が居る事等気付いて居ない二人の周りは、今日も何の問題も無く平和だ。




