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19 立場の違い

「ふいー。ランジェ様は本当にお料理がお上手なのですねぇ。とても美味しかったですっ」

「あ、ああ、確かにな」


 朝食を食べ終えた二人は、食後のコーヒーを飲んでほっと一息付いて居た。其処でルデルト王子はエリッタが大量の砂糖を入れて居る姿を目撃にし、衝撃を受けて居たのがついさっきだ。昨日も大量の砂糖を入れて居たエリッタだったが、昨日はそんなエリッタを見る余裕が無かったルデルト王子にとって、目の前でエリッタがミルクを入れた後に、カップから今にも溢れてしまいそうになる程入れられた砂糖を、エリッタが普通にスプーンで其れを掻き混ぜ飲む姿は異常で在った。

 そして一口飲んだ後、まだ足りないのか更に二つ程砂糖を追加し掻き混ぜ、また一口飲み、漸く満足したのか美味しいそうに其れを今も飲んで居る。ルデルト王子はその甘くなり過ぎて、最早コーヒーの味等しないのでは無いかと思い、その味を想像するだけで激しい胸焼けに襲われ顔を青褪めて居た。

 此の時ルデルト王子は、エリッタが無類の甘党だった事を初めて知ったのだった。だが果たして、知って良かったのかは不明だ。


「食後に飲むコーヒーは格別ですっ」

「そ、そうか……」


 幸せそうな表情でミルク大量の砂糖が投入されて居る、最早コーヒーと呼べる物なのか定かでは無い其れを飲んで居るエリッタに、ルデルト王子は他に返す言葉も無く同意するしかない。余りエリッタを見て居ると更に胸焼けが酷くなる為、ルデルト王子はなるべくエリッタを見ない様に意識しつつ、自分のブラックコーヒーを飲んで何とかやり過ごして居た。


「そういえばルデルト様、今日はどう致しますか?」

「何がだ?」


 コーヒーをテーブルに置き、思い出した様に声を上げたエリッタに、ルデルト王子はコーヒーを飲みつつ首を傾げる。


「お城へとお戻りになられますか、其れ共今日も一晩此処にお泊りになるのかと言う事です」

「あー」


 エリッタの問い掛けに、そういえば自分は今半家出中だという事を思い出す。何時もの様に誰も自分を追って来ない為、自分の今の状況をすっかり忘れて居たルデルト王子。こんな平和な家出は初めてだったなと、何とも暢気な事を不意に考えてしまう。

 其れも此れも、全てエリッタが城に帰る様にという事を何も言って来ないからなのだ。何だか普通に只出掛けて居るだけの様な錯覚が、エリッタに言われるまでルデルト王子は感じて居た。


「今日もまだお城へとお帰りになられたく無いという事でしたら、(わたくし)はお止致しませんよ?」

「は? 普通今日は城に帰れって言う所だろ、此処は」

「いえいえ、私は帰れ等とは言いませんよ。王子で在られるルデルト様に、メイドに過ぎ無い私がその様な事を言える立場では有りません」


 ズキッと、確かに此の時ルデルト王子の胸は痛んだ。

 エリッタのその言葉に、ルデルト王子はエリッタとの間に壁が有る事を知る。目に見える壁では無い。ルデルト王子は忘れて居たのだ。自分とエリッタとの立場の違いを。

 ルデルト王子は此のアルンド王国の現国王の息子。しかしエリッタは派遣されて来た只のメイド。二人の立場はまるで違う。そんな事最初から分かって居た筈なのだが、エリッタへの恋慕に気付いたばかりのルデルト王子は、その事をまるっと忘れてしまって居た。

 其処に来てエリッタからの、忘れて居た自分とエリッタとの立場の違いを思い知らされる言葉を告げられ、分かって居た事では有ったが、其れでもその距離に胸が痛んだのだった。


「私としましても、ルデルト様がお城へと帰ると言って下されば、此れ程嬉しい事は御座いません。ですが、まだ帰りたく無いと仰るのであれば、其れも致し方有りません」

「そう、だな。そうだった…」


 ――俺とお前は違うんだよな。


 その言葉は紡がれる事は無く、ルデルト王子の胸の中でだけ響いた。急に波が引いて行く様に冷めて行く心に、ルデルト王子は気付かない振りをしてコーヒーを口に含んだ。苦みが口の中に広がり、其れが初めてルデルト王子には嫌悪感を抱かせる。


「帰りたく無いとルデルト様が仰るのでしたら、ルデルト様にとってはご迷惑に思われましょうが、私もお供致しますっ」

「は……」


 コーヒーに映る自分を睨み付けて居たルデルト王子は、そのエリッタの言葉に勢いよく顔を上げた。目の前のエリッタは、ルデルト王子をじっと見つめており、バチリと合った視線にルデルト王子は驚く。しかし驚きはしたが、ルデルト王子は何時もの様に視線を逸らす事はしなかった。


「私はルデルト様の行く所でしたら、何処までも共に行くお付き合いする覚悟で御座います。其れこそ此のアルンド王国の外の世界へも、ルデルト様が行くと言うので有れば、私はお供致しますよ!」


 胸を張り得意げにそう言ったエリッタに、ルデルト王子は呆気に取られながらもさっき急激に冷めて居た心がまた温かくなって来るのを感じた。何故城に帰るか帰らないかの話が其処まで大きくなるのかと内心呆れつつ、其れでもルデルト王子はふっと笑みを溢した。


「何でお前は一々大袈裟なんだよ」

「大袈裟では御座いません! 私は其れ位の覚悟を持って今もルデルト様のお傍に居るのですっ」

「だから、其れが大袈裟なんだよ。何処の世界に家出した奴を追い掛けて来るだけで、其処までの覚悟を持つ奴が居るんだ」


 何故か拳を握り締めそう高らかに告げたエリッタに、ルデルト王子はにやけてしまう顔を必死にバレない様に引き締めつつ、エリッタのおでこを軽く小突く。小突かれたエリッタは、おでこを抑え頬を膨らませた。

 エリッタの言葉一つに落ち込み、言葉一つに嬉しくなるルデルト王子は、膨れたエリッタを楽しそうに見つめ決めた。


「エリッタ」

「はい、何で御座いますか? ルデルト様」

「今日城に帰る」


 もう家出は終わりだと、ルデルト王子は笑みを浮かべ告げた。城に自分から帰ろうと思う等、ルデルト王子にとっては始めてだ。そう思えたのも、エリッタのお蔭なのだろう。

お気に入り登録等ありがとうございます!

本当は今日の更新で城に帰る筈だったのですが、城へと帰るのは明日に持ち越しとなってしまいました(汗)

本当、予定は未定ですね^^;

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