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15 弱点と予感

「お前の仕事仲間って、どんな奴等なんだ?」

(わたくし)の仕事仲間ですか? そうですねぇ、とても良い方ばかりですよっ」

「そういう事じゃ無くてだな、もっと色々有るだろ!? コイツはこんな奴で、別の奴はこんな性格で、とかさ!」

「ああ! なるほど、そういう事でしたかっ」

「其れ以外に何が有るんだよ…」


 ポンッと手を叩き漸くルデルト王子の言って居る意味が分かったエリッタに、駄目だコイツとルデルト王子はガクッと肩を落とす。改めて考え込んだエリッタは、うーんっと唸りながら、先程入れたお代わりのコーヒーに砂糖を入れて行く。ティースプーンでざっかざっかと砂糖をコーヒーに投入して行くエリッタに、ルデルト王子は全く気付いて居なかった。


「其れじゃまず、私の次にベテランの仕事仲間をご紹介しますね! 本当は本人が居た方が良いのでしょうが、そうも行かないので口答で失礼致します」

「あ? ああ、そんな事は別に構わないが…」


 考えが纏まったのか、ずっと考え込んで居る間コーヒーに投入して居た砂糖を入れるのを漸く止め、スプーンでコーヒーを掻き混ぜた後、ぺこりと頭を下げたエリッタ。結局ルデルト王子は、エリッタの異常なまでに入れていた砂糖の存在に気付く事は無かった。いや、気付かなかった方が幸せだっただろう。あのコーヒーカップから今にも零れそうな程積み上げられた砂糖の姿は、誰が見ても恐怖しか湧かない。


「私の次にベテランの育成係り、名前はリュレンダと申します。イケメンだと大好評を頂いて居る執事で御座います」

「男も居るのか?」

「勿論で御座います。基本女性の育成者様には、こちらも男性の育成係りと決まっております。勿論女性の方が男性恐怖症等、女性の方が良いと言う要望を事前に受けて居れば、男性では無い場合も御座いますよ? 其処は臨機応変です!」

「ふーん。んじゃ、男を育成する時も、女じゃ無きゃ駄目なのか」

「いえいえ、その様な事は御座いませんよ! 男性の方でも、女性では無く男性の方が良いと言う方もいらします。そういう方は主に、恋愛対象が男性の場合が非常に多いですね」


 何と無しに言ったエリッタに、ルデルト王子はなるほどっと、内心聞かなきゃよかったと思った。しかしエリッタは其れも普通の事なのか、顔色一つ変えない。


「ですから、ルデルト様がもしリュレンダの方が良いと言う場合には、今からでも変更可能で――」

「そんな訳無いだろ!? お前は俺をそういう目で見てたのか!!」

「滅相も有りません! 私はちゃんと存じておりますよ? ルデルト様がどれだけ女性の事が大好きか」

「その言い方は止めろ!!」


 如何にも自分が女好きだと言う様なエリッタの言葉に、ルデルト王子は心外だと眉を吊り上げた。しかしエリッタは、私は分かっておりますよと何とも微笑ましい物を見る様な視線をルデルト王子に送って居る為、ルデルト王子は更に声を荒げる。


「まあまあルデルト様、落ち着いて下さい。男性の方が女性の方が好きなのは仕方の無い事なのですよ? ルデルト様だけでは御座いませんし、そうカリカリせずとも()いでは有りませんか」

「俺が怒ってるのはお前のその言い方と、その視線なんだよ!! おい! いいからその二ヤ付いてる顔どうにかしろ!!」


 エリッタは尤もらしい事を言いつつも、顔はニタニタと緩んでおり、ルデルト王子はそのエリッタの顔を頬を少し赤らめさせながら指差した。エリッタは漸く顔を引き締め、ごほんっと一つ咳払い。


「えーと、何処までお話したんでしたっけねぇ…。そうそう、そのイケメン執事のリュレンダなのですが、私と同じ様に何でも一通りの事はそつなく(こな)せるのです。其れはもう家事に始まり、剣術に武術、女性の賢い落とし方まで」

「最後のは必要有るのか……?」

「何を申しますか! 女性の賢い落とし方程とても重要な物は御座いませんよ!? 女性の落とし方が分かって居るという事其れ即ち、育成者様への育成もスムーズに行くという事です! 言葉巧みに女性に近付き、言葉巧みに女性を褒め、良い気分にさせる。時にはいけない事はいけないと叱って差し上げる優しさ! まさしく育成には欠かせません!!」

「ふーん…」


 今までに無い位興奮する様に力説して居るエリッタに、ルデルト王子はそこまで其れが重要なのかとイマイチよく分からなかったが、其れを一々エリッタに聞くと更に話が長くなりそうな気がした為、言わずにコイツ等も色々有るんだと解釈する様にした。


「そしてリュレンダのあの甘いマスク! 何時も無駄にニコニコして居て、滅多な事では怒らないと有名なリュレンダに、世の女性達はまさにメロメロなのです!」

「お前、いまどきメロメロって……」

「しかし! しかーし! そんな完璧なリュレンダにも、致命的な弱点が有るのです。その致命的な弱点も、リュレンダだから仕方ないと言えば仕方の無い事なのですが…」

「何勿体ぶってるんだよ、さっさと言えっ」


 さっきまでノリノリで力説して居たエリッタが、急に言い淀んだ為、コーヒーを飲みながら早く言えとルデルト王子は顎で催促した。


「リュレンダの致命的な弱点というのはですね、あの子――女性の涙に弱いのです!!」

「はあ?」


 嗚呼っと頭を抱えるエリッタに、前振りが如何にも深刻ですと言う様な態度のエリッタだった為、ルデルト王子はその全然深刻な問題でも何でも無い事に逆に驚いてしまった。しかしエリッタの姿はまさにこの世の終わりだとでも言う様な、もう駄目だと絶望して居る様な表情を浮かべて居た。


「リュレンダは、兎に角女性の涙を見るだけで取り乱すのです。其れこそまさに、ちょっと女性が欠伸をした時に浮かべる涙にさえ、リュレンダは無駄に慌てふためいてしまうのです」

「大袈裟だろ、其れ」

「その為、育成者様がいけない事をした時にリュレンダは叱るのですが、其れでその育成者様が泣こう物なら、リュレンダはオロオロワタワタ。大丈夫ですか!? どうして泣いて居るのですか!? 嗚呼! その様に泣かないで下さいませ! 誰か! 誰かあああ!! と、いう風になってしまうのです」


 リュレンダの真似をしたエリッタに、ルデルト王子はリュレンダという人物を此の目で見た事等一度も無い筈なのだが、エリッタの真似は似て居るんじゃ無いかと思ってしまう程、エリッタのリュレンダの真似は素晴らしくリアルで上手かった。


「そんなリュレンダの姿を見た育成者様は、こうやって泣けばリュレンダは甲斐甲斐しくずっと自分の傍に居てくれて、こんなにも甘やかしてくれるんだと思ってしまうのです。そりゃぁ女性の方ならば、皆様イケメンな男性が心配そうに自分の傍にずっと居てくれて、どんな我が儘もその甘いマスクを浮かべて叶えてくれる。其れはとても夢の様で御座いましょう」

「まあ、だろうな」

「リュレンダもリュレンダで無駄に優しくて紳士ですので、育成者様の我が儘を何でも叶えてしまうのです! 無駄に何でも出来てしまうのでね!」


 エリッタは無駄に(・・・)を嫌に強調して居て、其れは普段のエリッタからは想像出来ない姿で、如何にエリッタは苦労して居るのかがよく分かる。


「そして何とも無駄な悪知恵を働かせた育成者様が、リュレンダが怒る前に泣き真似攻撃を仕掛ける為、泣かれるのが苦手なリュレンダは其れにまんまと嵌まってしまい、怒るに怒れ無くなってしまいまして。結果、育成者様は育成を依頼される前よりも最悪になってしまい、育成は失敗に終わったのです!」


 途中からエリッタはお怒りモードに入ってしまったのか、何時もは下がって居る眉を吊り上げ、笑みを浮かべて居るのが常の顔には如何にも怒ってますという様な顔を張り付けて居た。しかし怒って居るエリッタを黙って眺めて居たルデルト王子は、最初こそ物珍しく見て居たのだが、気付けば内心苛付いて居た。

 自分の知らない男の事で怒って居るエリッタに、ルデルト王子は余り良い気持ちはしなかった。だが其れが何でなのか、ルデルト王子には分からずやきもきしてしまう。

 相変わらずエリッタはぷりぷりと怒ってまだ何か言って居たが、ルデルト王子の耳にはもう何も聞こえては居なかった。持ったままのコーヒーのカップを覗き込めば、コーヒーには自分の見慣れた顔が映り込んで居た。

 しかし見慣れた自分の顔は、今まで見た事も無い様な、何とも情けない表情を浮かべて居る。其れはまるで、昔其れなりに仲良くして居た男が、自分の好きだという女が違う男と居る姿を見て居た時の、その男が浮かべて居た表情ととてもよく似て居た。

 其処まで考えて、ルデルト王子はまさかと頭を振る。


 其れじゃぁまるで、俺はコイツを好きで、自分以外の男の話をして居る事に嫉妬してるみたいじゃないか…。


 そんな事有り得ないと、残りのコーヒーを一気に飲み干した。何時も飲んで居るブラックコーヒーの筈が此の時はいやに苦く感じ、何時までも口の中に残って居た。

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