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11 宿って酒場!?

「なあ、まさか宿(やど)って……」

「はい! 此処で御座いますよ?」

「お前、此処って……」


 ――酒場じゃねーかよ!!


 胸を張って自信満々に目の前の建物の前まで連れて来たエリッタに、ルデルト王子はずっと我慢して居た鬱憤を怒りと共に辺り一面に放出させた。勿論魔力等を放出させた訳では無く、雄叫びの様な声を上げただけなのだが…。

 ルデルト王子の目の前に有るのは、暗い外まで明かりが漏れ、外まで大騒ぎして居る声が聞こえて来る、所謂酒場で在った。宿に行くと連れて来られた筈のルデルト王子だったが、何故かエリッタが連れて来たのは酒場だ。ルデルト王子は元から酒場の様な、騒がしい所が余り好きでは無い。どうせ酒を飲むなら一人で静かに飲む方が良いと、好んでは酒場等に行かないルデルト王子。好んでは行かないというか、他人と騒がしく酒を飲むのが好きでは無く、他人と一緒に居るのが大嫌いなルデルト王子にとって、酒場は見るのも嫌だったりするのだ。

 そんな自分の嫌いな場所へと連れて来たエリッタに、遂にルデルト王子の堪忍袋の緒もブチ切れた。其れはもう、ブチッと音が聞こえるのでは無いかと言う程、清々しい位スパッと切れたのだ。

 だがルデルト王子も、怒鳴った後気付く。エリッタは、自分が酒場が嫌いな事など知らないと。エリッタは良かれと思って自分を酒場に連れて来たのかも知れないと。怒鳴った後に気付いた為、何ともルデルト王子はバツが悪くなってしまった。もしかしたら流石にショックを受けてしまったかもしれないと、ちらりとエリッタを見る。しかしエリッタの顔には、ショックを受けた様にも、申し訳なさも何も無かった。只、さっきと同じ様に自信満々の表情を浮かべて居るだけ。

 其れにはルデルト王子の方が目を疑ってしまう。エリッタにしたら、ルデルト王子に怒られる事等理不尽な筈だ。良かれと思って酒場へと連れて来たのに、ルデルト王子には怒鳴られてしまったのだ。普通だったらその理不尽さに涙するか、或いは逆に怒るだろう。しかし、エリッタ そのどちらでも無い。ルデルト王子が怒鳴った事等聞いて無い様に、ルデルト王子が怒鳴る前と同じ表情のまま、其処に立って居た。

 ちょっとしたホラーよりも恐ろしい。


「お前、俺の話……聞いてたか?」

「はい? どうしたのですか? 勿論聞いておりましたよ? ルデルト様は酒場に来ると思ってはいらっしゃら無かったので御座いましょう?」

「あ、ああ……」


 あっけらかんとして居るエリッタに、コイツには人としての感情がちゃんと有るのかと、ルデルト王子が逆に心配になってしまう。改めて、エリッタが普通の奴とは違うと感じさせらえた瞬間だった。心配になって居るルデルト王子の心境等お構い無しに、エリッタは急に心配そうに自分を見るルデルト王子に首を傾げた。


「どうしたのですか? 何か心配事でも……」

「ま、まあ…。心配事っつーか、なんと言うか……」


 まさかエリッタの感受性? の心配をして居る等と、流石のルデルト王子にも言えなかった。何とも曖昧に言葉を濁すルデルト王子に、結局エリッタはその理由を知る事は無かったし、其れ以上は追及しなかった。


「あ! その様な事より、早速入りましょう! 此処は一見酒場にしか見えませんが、れっきとした宿なのです。其れもとても評判が()いらしいですよ?」

「ふーん。例え評判が良いって言ったって、酒場には変わりないだろ……」


 エリッタのそのフォローも、ルデルト王子には効果は無かった。そして渋々入った酒場は、やはりルデルト王子の嫌いな酒場で在った。むっとした熱気と、酒の匂い。男達の興奮した様に盛り上がり騒々しい。店として繁盛して居て結構だが、ルデルト王子的には此の騒々しさは迷惑でしかない。店の中は外見より綺麗で、広々として居た。何十個も有る丸テーブルの周りには男達が四、五人で座っており、一様にジョッキで酒を正に浴びる様に飲み、つまみをつまんで居た。

 そんな男達の座るテーブルの間を縫う様に、エリッタはルデルト王子の腕を引いたまま奥のカウンターへと歩いて行く。その足に迷いは無く、忌々しげに周りに視線を向けて居るルデルト王子の一方で、エリッタは一切周りに視線を向ける事無く、真っ直ぐ目的のカウンターへと向かって居た。まるで以前にも来た事が有るかの様で、今更周り等見る必要は無いと言って居る様で在った。

 カウンターには数人の男しか座っておらず、カウンターの奥でつまみを作って居る大柄な男が居た。


「すみません。一晩泊めて欲しいのですが、部屋は開いて居るでしょうか?」

「何だ、泊まりか? 今日はまだ結構開いてるぞ。運が良かったな」


 見た目にそぐわず、ニッカリと笑ったその男は出来たらしいつまみを皿に盛り付けると、従業員の可愛い女の子へと其れを渡して居た。そしてエリッタに向けて居た視線を、不意に斜め後ろで険しい表情を浮かべて居るルデルト王子に向け、驚いた様に目を見開いた。


「こりゃぁ、ルデルト様じゃないですかっ」

「あ? ああ! お前ランジェか!?」


 その男――ランジェの声に、初めて周りを睨み付けて居たルデルト王子がランジェに視線を向け、此方も驚いた様に声を上げた。そんなルデルト王子の反応に、ランジェはニカリと笑い頷く。


「ええ、お久し振りですねぇ。ルデルト様も随分とご立派になられた様で」

「お前、城から出て行ったとは聞いてたが、まさか酒場をやってたとはな」

「まあ……親父も昔から酒場をやるのが夢だと言っていた物で。其れにそろそろ私もゆっくりしたくなりましてね~」


 皿を拭きつつ昔を懐かしむ様に話すランジェに、ルデルト王子は不満げに眉を寄せた。


「だったら初めからそう言えば良かったじゃねーか。お前、急に城から消えたから驚いたんだぞ!?」

「ははっ。こりゃ悪い事しちまいましたねぇ。私も急遽決まった事でしたので、ルデルト様にお伝えする暇が無かった物で……。ご心配お掛けしましたねぇ」

「別に、心配って程じゃ無いが……」


 豪快に笑うランジェに、ルデルト王子は気まずそうに視線を逸らす。

 ランジェは昔、まだルデルト王子が五歳位の頃に城で庭番をして居た。その大柄な体型の見た目に反して、ランジェは随分と優しく気さくな男で在った。その頃から既に、今の様によくデルドアの目を盗んでは部屋から抜け出して居たルデルト王子を、ランジェが見つけてはデルドアが探しに来るまで遊び相手をして居た。

 部屋へと無理矢理連れて行こうとしないランジェに、ルデルト王子も最初こそ疑って居たが、何時の間にか遊び相手になってくれるランジェを気に入り、何時しかランジェと遊ぶ為に部屋を抜け出す様になり、勿論その度にルデルト王子を探し回るというデルドアの仕事は増えてしまうのだ。

 其れはルデルト王子が八歳になるまで続いたのだが、ランジェは突然ルデルト王子の前から居なくなり、そして城からも出て行ってしまった。そんなランジェが、自分の嫌いな酒場を経営して居た。今日此の酒場に連れて来られなければ、多分ルデルト王子はランジェと会う事は無かった。

 昔と何ら変わらず、幾分か年は取って居るが、こうしてまた再会出来たランジェにルデルト王子は顔に出さずとも、嬉しさを噛み締めて居た。そしてそのきっかけを作ったのは、紛れも無く、今傍で微笑ましそうにルデルト王子とランジェのやり取りを見守って居るエリッタのなのだ。


「お前、まさか……」

「どうか致しましたか? ルデルト様」

「いや……何でも無い」


 此処にランジェが居るのを知って居たのか。

 そう口にしようとしたルデルト王子だったが、きょとんとして居るエリッタに、其れは有り得ないと自己完結した。そう、エリッタがランジェの事を知っている筈が無いのだから。

何時も読んでくださりありがとうございます^^

お気に入り登録等、嬉しい限りです><

誤字脱字等が有りましたら、よかったらご連絡ください。

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