10 メイドの情報網?
「其れではルデルト様、そろそろ帰りましょう。皆様、とても心配していらっしゃいます」
「帰らない」
「えええぇぇ!?」
さあっと、城へと続く道へと手を伸ばしたエリッタで在ったが、ルデルト王子はバッサリ言い切った。
其れにはエリッタも、まさかルデルト王子に断られると思って居なかったのか、叫び声にも似た驚きの声を上げた。
そのエリッタの驚きの声の大きさに、ルデルト王子は煩いと言う様に耳を手で塞ぐ。
「急にでかい声出すなよ!」
「す、すすすすみません! で、ですが……!!」
「そんな驚く事でも無いだろ!? 此れ位お前にだって予想が付いただろうが!」
ぺこぺこと謝りながらも、エリッタは未だに驚きを隠せ無いのか、意味も無くわたわたして居た。そんなエリッタの様子に、ルデルト王子は呆れを通り越して、秘かにエリッタに殺意の様な物が芽生えた。
凄い奴なのか駄目な奴なのか、コイツは本当に訳が分からない!! と、ルデルト王子は目の前のエリッタの姿に、そう思った。
何時もルデルト王子は、エリッタの本質の様な物を見たと思ったら、次の瞬間にはまた別のエリッタの姿を垣間見てしまう為、未だにエリッタの本質を見抜けずに居るのだ。
コロコロと、色々な顔を見せるエリッタに、一体どれが本当のエリッタの顔なのかと苛々する。
「兎に角、帰りたければお前だけで帰れ」
エリッタから視線を逸らし、溜め息と共に髪を掻き上げたルデルト王子。
しかしそのルデルト王子の言葉に、ついさっきまでわたわたとして居たエリッタの動きが、ピタリと止まる。
「其れは、出来かねます」
「はあ? 何でだ…」
「ルデルト様を置いて、私だけが城に帰る等、その様な選択肢、私には御座いませんからです」
さっきまでの慌て様や驚き様が嘘の様に、背筋を伸ばし、両手は前で右を上にし組んだ状態で、ルデルト王子を見上げきっぱり言い切ったエリッタに、ルデルト王子はまたかと片眉を上げた。
瞬時に切り替わったエリッタに、コイツには体の何処かにスイッチでも有るのかと、逆にルデルト王子は感心する。
「お前の事情なんて俺には関係無い。例え俺が帰らないとお前も帰れないんだとしても、其れはお前の勝手な主張だ。其れを俺に押し付けるな」
何時にも増して、ルデルト王子はエリッタを突き放す様に、そう告げた。確かにルデルト王子の言葉に、間違いは無い。
ルデルト王子が帰らないなら自分も帰らない等、其れはエリッタの勝手な主張だで、エリッタの考えだ。其れにルデルト王子が従うのは、少し違うのかもしれない。
エリッタは、ルデルト王子のその言葉に、何も言い返さない。何時もならば、エリッタは否定や肯定の言葉も、直ぐ様口にして居た。
しかし今回は、只じっとルデルト王子を見上げたまま、何も口にしない。
そのエリッタの姿に、ルデルト王子は何処かでエリッタに勝ったと思って居た。何時もどんなにルデルト王子が正しいと思って居たり、正論の言葉をぶつけても、エリッタにその倍の言葉で反論され、そして結局言いくるめられて居た。
そんなエリッタが、今日は自分の言葉に何の反論もして来ない。此れにはルデルト王子も、今回はエリッタも素直に自分の言う事を聞くだろうと思って居た。
だが……――
「分かりました。其れでは……私もルデルト様にお供致します!」
「はああ!?」
エリッタはにこりと、笑ってそんな爆弾を落として来たので在った。
****
キビキビ歩くエリッタの後ろを、ルデルト王子はのろのろと歩いて居た。その顔には、疲れと諦めが滲み出て居る。自分を置いて先に帰ると高を括って居たルデルト王子だったが、其れがエリッタの爆弾によって見事に破壊された。そして、エリッタは「それじゃぁ泊まる所を探しましょう!」等と、ルデルト王子の気も知らずに一人意気揚々と歩き出し、イマイチ事態を飲み込めずに立ち尽くして居るルデルト王子に、エリッタは早く行きましょう等と笑みを向けた。
そして現在は、一人張り切って街中を歩いて居るエリッタの後ろをルデルト王子が着いて行くという、謎の光景が出来上がって居た。普通ならば、ルデルト王子が前を歩きその後ろをエリッタが仕方なく着いて行く筈が、其れが見事に逆になって居る。此れでは、どちらが城を飛び出して来たのか分からない。
「おい、一体何処に向かってるんだっ」
「今日泊まる予定の宿で御座います」
何処か目的の場所へと向かって居る様に、軽快に歩みを進めて行くエリッタに、ルデルト王子は後ろからその疑問を前の小さな背中へとぶつけた。その疑問は、エリッタによって直ぐに解消されたが、ルデルト王子にはまた新たな疑問が生まれる。
「宿って……お前、そんな場所が分かるのか?」
「勿論で御座います! メイドにはメイドの、情報網という物が御座いますので」
「何だ其れ……」
まだ此のアルンド王国に来て日の浅い、其れも城から殆ど出て居らず街にすら数回しか来て居ない筈のエリッタが、此の街の何十件と有る宿の場所等分かる訳が無いと思って居たルデルト王子に、エリッタは後ろに振り返り、何ともお茶目に笑ってそう告げた。だが、勿論其れでルデルト王子が納得出来る訳が無い。まだ不満げにのろのろと歩くルデルト王子に、エリッタはルデルト王子の傍まで駆け寄り、ルデルト王子の右腕を掴むと、ぐいぐい引っ張り出した。
「な! お、おい!!」
「さあっ、急ぎましょうルデルト様! 宿はもう少しですよ」
「だ、だからって引っ張るな!!」
早く早くと急かす様にルデルト王子の腕を引っ張るエリッタに、ルデルト王子は背の低いエリッタに引っ張られて居る為、身を屈めて小走りで走る羽目になった。その姿は、まるで子供が親に早く行こうと急かす様だ。其れか、歳の離れた妹が兄の腕を引いて居る様にも見える。だが実際の二人の関係は、王子とその王子の世話をするメイド、なのだ。
自分が世話をする王子に、こんな態度を取れるのは、世界中何処を探しても、きっと此のメイドのエリッタだけだろう…。
これからは、2000字から3000字位の文字数で毎日更新を目指します!
パソコンで書くようにしたら、無駄に長くなってしまっていたのでちょっと反省しました(笑)もっとさくさく話を進めたい物ですね。
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