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12 メイドとランジェ1

「良かったですね、ルデルト様!」

「何がだよ…」

「え? ランジェ様という方に再会出来てですよ!」

「あ? ああ、まあ……」


 ランジェに案内された二階の角の部屋の中で、ソファの上での寛いで居るルデルト王子の傍に立って居るエリッタが、自分の事の様に嬉しそうにして居た。だが、一方のルデルト王子はエリッタ程喜んでは居なかった。嬉しく無い訳では無いのだが、何とも微妙な反応しか返さないルデルト王子に、エリッタはどうしたのかと問う。


「何でよりにもよって酒場なんて…」

「どうしてルデルト様は、其処まで酒場がお嫌いなのですか?」

「はあ? そんなの決まってるだろ、嫌いな物は嫌いなんだよ」

「其れでは理由になっておりませんっ」

「そんな事言われてもなぁっ、嫌いな物は嫌いなんだから仕方無いだろ!?」


 不満げにそう言ったエリッタに、ルデルト王子はギロリとエリッタを見上げ睨む。其れでも、エリッタはまだ不満げで在った。


「ですが、何か此処が嫌だと言う理由は無いのですか?」

「たくっ、面倒臭い奴だなぁ。あの暑苦しさと騒がしさが嫌いなんだよ。何であんなに盛り上がれるのか分からない。其れも、ついさっき知り合ったばかりな奴とだぞ!? そして酒もゆ静かに飲め無いのか!? ほんと、理解出来ないな。俺は絶対に嫌だね」

「其れが、ランジェ様のお店でも、ですか?」

「っ……。ああ、ランジェは気に入って居るが、其れと此れとは話が別だ」


 一瞬言葉に詰まったルデルト王子だったが、直ぐに鼻で笑った。騒がしい所や、他人と直ぐ打ち解ける等が出来ないのは、やはり幼い頃から他人を簡単に信用しない様にと教育されて居たからだろう。王子という立場上、何時隣国の刺客等から狙われるか分からない。その為、警戒心の無さは致命的だ。其処はデルドアの教育のお蔭か、過剰な位ルデルト王子にはちゃんと備わったらしい。だが、エリッタは其れ以上ルデルト王子に何も言わなかった。そして思い出した様に声を上げる。


「ルデルト様、お腹は空きませんか? 夕食が途中でしたし、小腹でも空いて居るのではありません?」

「あ、ああ。そういえば……」

「でしたら(わたしく)、ランジェ様に何か作って頂いて来ますね!」

「は? あ、おい!」


 ルデルト王子が呼び止め様と声を上げた瞬間には、既にエリッタは部屋から出て行った後で在った。ぽつんと急に部屋に一人になったルデルト王子は、溜息と共にソファに横になりくすんだ天井を見上げた。頭の中では、先程のエリッタの言葉が渦巻いて居る。


『其れが、ランジェ様のお店でも、ですか?』


 そうだと、言えなかった。何時もだったら、直ぐにそうだと言い返せただろう。しかし、此の店はランジェの店だ。大事な存在のランジェの店を、嫌いだとは言えなかった。そんな優柔不断な自分に、ルデルト王子は呆れる。


 何時もお前は、そうやって俺に無駄に考えさせるんだな……。


 忌々しそうに腕で目元を隠したルデルト王子のその呟きは、静かな此の部屋に誰の耳に入る事は無く、空気と一緒に消えた。




****




「すみませんっ」

「おうどうしたっ……ん? アンタはルデルト様と一緒に居た嬢ちゃんか」


 階段を下りて一階へとやって来たエリッタは、真っ直ぐにランジェの居るカウンターまで向かった。カウンターの奥では、冷蔵庫から出した何本ものビール瓶をお盆に乗せ、其れを従業員に持って行く様に手渡し指示して居るランジェが居り、ランジェはエリッタの姿にどうしたのかと問う。


「はい。あの、何か直ぐに食せる物は無いでしょうか?」

「そりゃぁ有るが……嬢ちゃんが食べるのか?」

「いえ、私では無くルデルト様です。夕食の途中で出て来てしまったので、何か食べる物をと思いまして」

「ルデルト様かっ。そんじゃぁ、ルデルト様の好物でも作るかね!」

「はい。よろしくお願い致します」


 ニカリと笑い張り切る様に腕捲りをするランジェに、エリッタは頭を下げた。そのエリッタの姿に、しゃがんでフライパンを持ったランジェは驚いた様にエリッタを見下ろす。


「おいおい、よしてくれよ。俺は嬢ちゃんに頭なんて下げられる程の者じゃ無いぞ? 其れにその口調も止めてくれ。何だかムズムズする」

「すみません。ですが、私の此れはもう癖の様な物ですので……」

「癖って……」


 又もや頭を下げたエリッタに、ランジェは困った様に頬を掻いて居た。


「ま、まあ…癖じゃ、仕方ないかっ。直ぐに作るから其処に座ってちょっと待っててくれ」

「畏まりました」


 自分を納得させたらしいランジェは、そう言ってカウンターを指差した。その指差したカウンターに、エリッタは言われた通りに座ったのだが、エリッタが返したその言葉にランジェはズッコケた。


「か、畏まりましたって。いや、流石に其れは止めてくれねぇか? 俺は嬢ちゃんに畏まれる様な奴じゃ無いんだ……」

「え、此れも……駄目でしたか?」

「あ、ああまあ……ははっ」


 エリッタの驚いた様な声に、ランジェはもう笑うしか無かった。そしてランジェのエリッタに対する印象が、しっかりしたメイドの嬢ちゃんから、しっかりしては居るがちょっと変わったメイドの嬢ちゃんへと変わった瞬間だった。

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