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7 組織の秘密

 皆様おはようございます。其れ共こんにちはでしょうか? もしかしたらこんばんはの可能性も御座いますね。(わたくし)は現在アルンド王国の国王で在らされるソレイダ陛下のご依頼の元、ご子息様のルデルト様の育成を行っております。アルンド王国に来てもう一週間以上が経過致しました。いやぁ、時間が経つのは早い物ですねぇ。そんな私は、現在この長い廊下の掃除を任せられており、箒で掃いた(のち)、雑巾で拭くと言う単純且つとても重要なお仕事をしておりました。

 そんな忙しい私の元に、ある方が来られたのです。今日は、そのある方、皆様には元教育係の方と、仰った方が分かり易いかもしれませんね? その方との、ちょっとした言い争い、とまでは行かないのですが、大袈裟に、且つ続きが早く読みたくなると皆様に思って貰える様な言い方を致しましたら、こうでございましょうか?


【元教育係と現教育係の、ルデルト王子を巡っての言い争いと言う名の奪い合い勃発!】


 と、この様な感じのタイトルになりましたが、どうでしょう? 皆様、続きが気になりましたでしょうか? 其れでは、続きが気になって下さった方々の為にも、ある日の私達をご覧下さいませ。




****




「エリッタ殿、少々宜しいだろうか?」

「はい?」


 其れは、廊下の一角に飾られて居るとても高価そうな花瓶を細心の注意を払いつつ、エリッタが花瓶を抱えてその花瓶の置かれて居る台を綺麗に拭いて居た時の事だ。後ろからの突然の呼び掛けにもエリッタは一切の動揺を見せず、花瓶を片手で持ったままくるりと振り返る。後ろに居た人物は、エリッタにとっては何時か接触して来るだろうと思って居た人物で在った。


「何か御用でしょうか? ――デルドア様」

「ああ。少し話したい事がある」

「そうで御座いますか。ですが私は見ての通り、現在廊下の清掃中で御座いますので。廊下の清掃が終了してからでも、宜しいでしょうか?」

「いや、その必要は無い。此処の掃除は他の者に既に頼んで有る」

「急用、という事で御座いますか?」

「ああ、そうだ。(わたくし)に着いて来てくれ」

「畏まりました」


 威圧的に見下ろして来るデルドアに、エリッタは其れと無く拒否したのだが、どうやらエリッタが断るのも知って居て、先手を打って居たデルドア。此れ以上は断る事も出来ないと感じたエリッタは、内心溜息を吐き、表では表情一つ変えずに笑顔でデルドアの後に着いて歩いて行く。手に持って居た花瓶は、傷を付け無い様慎重に台の上へと戻す事も忘れずに。

 デルドアは終始何も話さず、黙々と廊下を進んで行く。暫く歩いて行き、現在は使われて居ないのか、表の扉を見るだけで汚れて居るのが分かる部屋への前でその歩みは止まった。デルドアはその部屋へと何の躊躇も無く普通に入って行き、エリッタも其れに続く様にその部屋の中へと入って行った。部屋の中もやはり殆ど使われて居ないのが分かる程、随分置かれて居る家具やテーブルに埃が被って居る。埃の被って居る量から推測すると、恐らくもう何年もこの部屋の掃除をして居ないのだろう。もしかしたら、この部屋事態、殆ど誰も入って居ない可能性が高い。その部屋の真ん中辺りまで進んだデルドアは、其処でぴたりと止まる。そして、着いて来て居たエリッタを見下ろす。


「どういう事か……説明して貰おうか」

「何を、でしょうか?」


 にこりと笑みを浮かべたエリッタに、デルドアはギロリと睨み付ける。だが、そんなデルドアの威圧的な雰囲気にもエリッタが臆する事は無い。


「お前は王子を育成する為に、ソレイダ陛下が態々お前の会社へと依頼をした」

「はい。とても光栄で御座います」

「お前がこの城へ来て、もう一週間以上経った。だが、此れはどういう事だ? 育成をすると言うから見物だと思って居たが、お前がこの一週間強の間に(おこな)った事と言えば、アルンド王国の歴史に、街への課外授業。だがその課外授業と言うのも、只の散歩だったと言うでは無いか」

「はい。ルデルト様に街中を案内して頂きました。やはり噂通り、マカロンは美味で御座いました。お土産に買って着ましたマカロン、デルドア様もお食べになりましたか? 私ったら、夜寝る前にも余りの美味に我慢出来ずに二つも食べてしまいまして」


 頬に手を当て「私ったら、本当にどうしようも無いんですから」と、照れ始めるエリッタに、デルドアはピクピクと口元を引き攣らせる。デルドアはその一重の目のせいで、睨んで居ないにも関わらず昔から睨んで居ると勘違いを良くされる。そして、睨む時はそんな目を更に細める為、普通の人物が睨むのとは数倍近く目は鋭く、その睨みを受けた者は(みな)恐怖し何も言えなくなる。其れが、普通で在った。だが此のエリッタには、そんな皆が恐れる、鋭くその睨みで人でも殺せるのでは無いかと噂される程の睨みも通用しない。


「そんな話は今どうでも良い!! まだ此れだけならば俺も此処まで怒る事は無かった。だがお前は、その後も人としての常識等と言う授業を行ったそうだな! 何でもその授業は本当に当たり前の事しかお前は教えず、ルデルト王子を呆れさせたと言うでは無いか! その様な物、既に俺が王子の幼少期の頃にお教えして居る! お前は王子を愚弄して居るのか!?」

「愚弄する等、その様な気は私には御座いません。当たり前だからこそ、その当たり前を知らない方々が最近は多いので御座います。ですので、私は確認の為にもと思いルデルト様への育成プログラムに加えさせて頂いたのです」


 興奮し出し口調の荒くなって来たデルドアにも臆する事無く、エリッタは淡々と答えて行く。其れが、デルドアは気に入らなくて仕方ない。その動揺もせず、慌てもしないで、顔色一つ変えずに淡々と話すエリッタの姿は、何とも機械染みて居る。そう言われたら、こう返す様にとインプットされて居るかの様にスラスラ答えて居るのだ。


「そもそもその育成プログラムという物も怪しい。本当にそんな物が有るのか!? 何故依頼主であるソレイダ陛下にもお見せ出来ない!! 何か疾しい事でも有るんじゃ無いのか!?」

「育成プログラムはちゃんと御座いますのでご安心下さい。ですが、どんな依頼主様にも此れだけはお見せ出来ない規則になっております。其れは、どの依頼主様方にもお願いして居る事ですので、ソレイダ陛下にだけ特別にお見せする訳には参りません」


 エリッタのそのすぐさま返して来た言葉に、デルドアは唇を噛み締める。


「何が育成だ! 笑わせるな! お前はまだ育成らしい育成を何もして居ないでは無いか! 本当に一月で王子を変える事等出来るのか!?」


 エリッタの胸倉を掴み持ち上げ、顔を近付け怒鳴り散らす。しかし、其れでもエリッタの表情は無で在った。その表情はまるで、何の感情も持た無いロボットの様で在った。ついさっきまでマカロンに付いて話して居たエリッタと同一人物かと疑う程だ。


「デルドア様は、育成という物を勘違いしていらっしゃる様ですね」

「何?」


 胸倉を掴み上げたままの状態で、エリッタは目の前に有るデルドアの目を見据える。エリッタのその言葉に、デルドアは片眉を上げた。


「育成とは、その方に勉学や教養、剣術や体術。その他諸々。その様な物をお教えするだけ御座いましょうか?」

「他に何を教えると言うんだ」


 デルドアは、何を言ってるんだと言う表情を浮かべた。


「過去、まだ私達が【王様候補、育成致します。】という会社と言いますか、組織を立ち上げたばかりの頃です。その頃はまだ今の様にそこまで細かい育成プログラムは存在しておりませんでした。今の育成プログラムの元になって居るのは、全て過去の育成者様達の情報なのです。その中でも一番情報として重宝したのが、育成の失敗した育成者様達で御座います」

「何だと?」

「どの様な育成を行ったら、育成者様はどの様になるのか。どの様な育成が、育成者様を駄目にするのか。私達は過去に何人もの育成者様達を、より良い育成プログラムを作る為にと実験体の様に扱って参りました。其れも育成者様並びに依頼主様には、その趣旨を一切お伝えせずで御座います」


 エリッタの口から淡々と告げられて行く話に、デルドアは何時の間にか掴み上げて居たエリッタの胸倉から手を離し、ぽかんとして居た。


「その人数も、私は覚えておりません。其れ程の人数の方々を、私達は更に駄目にしたので御座います。ですが、その努力の甲斐も有り、現在はこの様に数多くの依頼主様並びに育成者様にご満足頂いておりますが…」

「一体、どう駄目にしたんだ…」


 眉を寄せそう口にしたデルドアに、エリッタはデルドアに掴み上げられた為乱れた襟元等を整えながら更に続けた。


「皆様、立派に王様へとなられました」

「其れの何が、一体駄目にした言うのだ? 立派な王様へとなったのだろう…」

「ええ。ご立派な、王様(・・)になられましたよ?」


 何処か含みが有る言い方をするエリッタに、デルドアは益々訳が分ら無くなる。一体、立派な王様の何処がいけないと言うのか、デルドアには理解出来ない。其れは素晴らしい事だろうと、そう思って居た。


「皆様、何とも稀に見る逸材だと周りから言われる程の、王様へとなられました。私達も、最初は育成に成功したと喜びましたが、暫く経つに連れ、段々と問題が浮き彫りになって来たのです。皆様……王様にしかなっておりませんでした」

「王様にしか、なって居ない? どういう意味だ。もっと分かる様に話せ」

「言葉の通りで御座います。私達は王様候補へと育成する余り、その方達を王様にしか育成しなかったのです。人としての、その方達個の個性という物を全て消してしまった。その方達の長所と言える物も、短所と言われる物も、全て無くなりました」

「……」

「その方達の個性は消え、王としてのその方達しか無いのです。何を見ても、何を感じても、全て王としての感情しか無い。此れがどんなに悲惨な事か、貴方様はお分かりになられますか?」


 デルドアは、何も言えなった。デルドアは、ルデルト王子に立派な王になって欲しいと願って居た。どんな感情にも流されず、国の為、民衆の為にと考える王になって欲しいとついさっきまで思って居た。だがエリッタの話を聞いて居ると、其れがどんなに悲しい事か、悲惨な事かが分かる。もう、その人物は居なくなるのだ。自分がずっと世話をして来て、良い所も悪い所も、その人物にしか無い物が…全て無くなる。

 簡単に言ってしまえば、完璧なのだ。だがその完璧は、王様としての完璧さで在って、人としての、その個人としての完璧では無い。何故なら知って居るその人物は、もう居ないのだ。どんなにその人物という存在は居ても、その者の――心は無い。感情は無い。

 其れが無ければ、その人物が居なくなった事と同じになるだろう。

 ルデルト王子に置き換えて考えた瞬間、デルドアは背筋が凍る様な感覚に陥った。考えただけでも此れだ。もし本当にルデルト王子がそうなってしまったらと思うだけで、デルドアは胸が張り裂けそうな気持になった。


「ですので、私達は王様へと育成するのと同時に、人としてのその方を失わない様に育成プログラムを考えました。王様候補へと育成するのが第一ですが、その方個人の存在が失われてしまっては、本末転倒も良い所で御座いますからね」

「……」

「そういう事ですので、どんなにデルドア様から見て、私が育成をしていないとお思いになっても、このやり方を変えるつもりは有りません。ルデルト様を観察し、どの様にルデルト様を育成して行くのかを、そのつど考えて行かなければならないのです。時間は掛かりますし、面倒だとお思いになるかと思いますが、此れ位しなければいけません。此れも、全て育成者様と依頼主様の為、で御座います」

「そう…か……」


 デルドアは、其れ以上何も意見する事は出来なかった。何故ならば、エリッタの言って居る事が正しいのだからだ。エリッタはルデルト王子の事、そしてソレイダ陛下の事を考えて行動して居る。最終的に傷付くのは本人とその周り。其れをエリッタは知って居るのだ。只育成するだけでは無く、育成した後のその育成者と依頼主の事もエリッタは考えて居る。育成が終わったからはい終わり、では無く、その後の事も考えて居る事に、デルドアはエリッタを少し見直した。


「育成に大事なのは、その育成者様の内面を変える事で御座います。その方の長年の考え方や、固まり切った信念はそうそう変える事等出来ません。その方が抱える問題。悩み。心の内に隠された悲しみ。それ等を、私共は一月で変えるのです。此れがどれ程大変な事か、お分かりになられますか?」

「っ…。ああ……」

「でしたら、私が此れからどの様な事をしても、どの様な行動を取っても、其れがデルドア様には理解し難い事だったとしても、邪魔はしないで下さいませ。ルデルト王子に、人としても、王様候補としても、しっかりとした方になって欲しいと願うのならば、ね? 此れから暫く、宜しくお願いしますよ? 武器の使い方に長けていた――ヅェンデラ・シルレの血を受け継ぐ、デルドア様?」


 大きな瞳がスッと細められた。其れだけで、デルドアは此のメイドには逆らわない方が良いという考えに達した。只の小娘だと侮って居たデルドアだが、此のメイドは恐らく自分よりも強いだろう。逆らえば、一体何をされるか分からない。そう、瞬時に理解してしまった。

 結局デルドアは唇を噛み締め、大人しく頷くしかなかったのだ。其れに満足げに微笑んだエリッタの表情は、もう何時ものエリッタの物で在った。

 【王様候補、育成致します。】その日、デルドアはその組織の裏側を垣間見てしまったのだ。出来れば、一生知りたくは無かった。知らない方が幸せだった。そう、デルドアは一人残った此の埃臭い一室で溜息と共に項垂れる。そして、此れからあのメイドと関わって行かなければいけないルデルト王子を思うと、どうしてソレイダ陛下にあの組織の事など教えたんだと、あの時の自分を殴ってやりたくなった。

 其れから、何故あのメイドがその事を知って居るのか、デルドアの心の中に、解決はしないだろう疑問が一つ増えた。

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