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6 お出掛け日和2

「なあ、課外授業って一体何をするんだ?」

「え? 街を見て回るだけで御座いますが?」

「は?」


 又もや問題発生の様だ。



 カフェでまったりとお茶をしたエリッタとルデルト王子。その後暫くカフェに居座った(のち)、二人はカフェを後にしたのだが、カフェを出た途端早速問題が発生した。エリッタがしつこい位言って居た"課外授業"と言う言葉に、そういえばその課外授業で何をするのか詳細を知らなかったルデルト王子は、その疑問を自分の横で満足げにツインテールを揺らし歩いて居るエリッタを見下ろし聞いた。だがエリッタが当たり前の様に告げた言葉は、ルデルト王子の中で衝撃が走る物だった。


「どういう事だ! 何だ、その課外授業は!!」

「どういう事だと仰られましても……」

「街を見て回るだけ何て、何処が課外授業何だよ!? 其れはれっきとした只の"散歩"だ! "授業"じゃ無い!!」


 道の真ん中で凄まじい剣幕で捲し立てるルデルト王子に、エリッタはまるで他人事の様に「まあまあ落ち着いて下さい」と、宥めて居た。そんな態度のエリッタに、ルデルト王子の怒りは更にヒートアップする事になってしまい、元から集めていた注目を、更に集める事となった。行き交う人々は何だ何だと横を通り過ぎる度にちらりと振り向いて行き、その度にルデルト王子を見てぎょっとする。(ちまた)ではソレイダ陛下と同じく、ルデルト王子も恐れられており、そんな恐れの対象でもあるルデルト王子が若いメイドに怒鳴り散らして居る物だから、(みな)あの噂は本当の物だったんだと知らしめられたのだ。

 元からルデルト王子は、街に行くのも大体が夜だ。こんな真昼間から街に等殆ど来ない為、真昼間の、其れもこんなにも大勢居る街中にルデルト王子が居る事すら、住民は驚きを隠せない。住民達は、皆ルデルト王子をちゃんと見た事が無い。こんなにも近くで、こんな真昼間に、こんなにもしっかりと、其れ位アルンド王国に住んで居る者でも、ルデルト王子を見る事は殆ど無かったのだ。住民にとって、此れ程貴重な事は無い。其れはそうだろう。何時もはもっと目立た無い、所謂お忍び姿だったのだから。だが今は、普通に何時も城で着て居る、白のスーツなのだ。其れも只の白のスーツでは無い。所々に金の糸で刺繍がされており、ボタンも一つ一つが正に一目見るだけで高そう。そんな高価そうな服を着る人物等、王家の者にしか考えられ無いと誰でも分かる。だがルデルト王子は、まさか自分がこんなにも街中で注目を集めて居るとは思っても居ない。

 そんな貴重なルデルト王子の姿を、まさかこんな形で見る事になるとは誰も思って居なかっただろう。噂ではソレイダ陛下にとても良く似て居ると言われて来た。そして金色の髪のソレイダ陛下に対して、ルデルト王子は綺麗な黒髪。頭には美しい白い角が二つ。正に噂以上のルデルト王子の姿に、街行く人々は惚ける様にその姿を目に焼き付けて居る様に見つめて居たが、次の瞬間には皆一様に顔を引き攣らせそそくさと逃げて行く。


「お前、よくそんな考えで課外授業何て言えたもんだな!? 課外授業の"か"の字も無いじゃないか!!」

「ルデルト様、その様にお怒りにならず共良()いでは有りませんか。ルデルト様にとって、逆に此れは良い事では無いのですか?」

「何?」

「そうでは有りませんか。ルデルト様は育成にご反対されて居るご様子。でしたら、お勉強をするより、こうして課外授業と称してのお散歩の方が、ルデルト様には都合が宜しいのでは?」

「……確かに」


 住民達は皆気が気では無かった。あのルデルト王子に怒鳴り散らされて居るメイドは大丈夫かと、まさか此処で斬られはしないだろうかと、遠巻きに冷や冷やして居たのだが、そんな住民達の予想を大きく上回り、ルデルト王子はメイドの言う言葉に考え込んで居る。どう見てもメイドに説得されて居る様にしか見えない。そしてあんなにもルデルト王子に怒鳴られて居たにも関わらず、メイドは全く怯えもせず、にこにこと笑みを浮かべて居るだけだ。住民はそんなメイドの姿に、城に居る者はまさか皆ルデルト王子達の様に恐ろしい者達なのでは無いかと、有らぬ勘違いをして居たのだった。


「課外授業では無かった事にルデルト様がその様にお怒りになるなんて、まるでルデルト様が課外授業を行いたかった様では有りませんか」

「誰がそんな事言ったんだ!!」

「違うので御座いましょう?」

「ああ、違うな」

「では、お散歩と言う名の課外授業でも、ルデルト様は宜しいので御座いますね?」

「ああ、当たり前だ。俺はお前に育成される気なんて無い」

「其れでしたら、私もほっと致しました。あの様にお怒りになったので、ルデルト様は課外授業を楽しみになさって居たのではないかと…」


 胸を撫で下ろし安心する様に笑みを浮かべルデルト王子を見上げたエリッタに、ルデルト王子はそんな訳が無いとギロリと睨み見下ろした。


「其れではルデルト様。改めまして、お散歩、致しましょう?」

「ああ。仕方ないから、お前に街を案内してやらない事も無い」

「本当で御座いますか!? でしたら私、美味しいと評判のマカロンが売って居ると言うケーキ屋さんに行って見たいのですがっ」

「お前、まだ食う気か?」

「いえいえ! 今食べる訳では御座いません。今日の夜のおやつに食べたいなと。其れとお城の皆さんへのお土産にと思いまして」

「まあ、行ってやらない事も無い」

「ありがとうございます! ルデルト様」


 和気あいあいと、さっきまでの怒りが嘘の様に随分親しげに歩いて行く二人に、事の成り行きを見守って居た住民達は驚き、何とも置いてきぼりを喰らった様な心境で合った。そして路地裏へと消えて行った二人に、歩みを止めて居た者達も歩き出し、露店等を開いて居た店の者も我に返り、客寄せに励む。そして、漸く街中は何時もの様な賑わいに戻ったのだった。




****




「やっぱり噂通り、此処のマカロンは美味しいですねぇ~」

「お前、やっぱ食ってるじゃないか…」

「いえ、此れは味見です!」


 マカロンが美味しいと評判の店から出て来たルデルト王子とエリッタ。エリッタはマカロンが入った大き目の袋を抱え、右手には食べ掛けのピンクのマカロンが一つ。味見にと店の人から受け取ったそのマカロンを、エリッタは幸せそうな顔で食べていた。勿論ルデルト王子にも差し出されたのだが、ルデルト王子は甘い物は嫌いだと一喝。勿論店の者はルデルト王子だと気付いて居て、そんな王子へと怯え、引き攣った笑みを浮かべ勇気を振り絞ってマカロンを進めたのだが、ルデルト王子のその言葉に恐怖は倍増したのか、今にも泡を吹いて倒れてしまいそうな状態だったのだが、エリッタの「そろそろ出ましょうか」という、助け舟のお蔭でその事態だけは免れたのだった。


「それで? 次はどうするんだよ?」

「次で、御座いますか? そうですねぇ」

「あれ? もしかしてルデルトー?」

「あ?」


 歩きながら次はどうするのかと聞いて来たルデルト王子に、エリッタは周りを見ながら考え込んで居た。そんな時、後ろから唐突にルデルト王子の名前を呼ぶ女性の声が聞こえ、ルデルト王子とエリッタは二人一斉に後ろを振り返った。

 そこに居たのは、長い赤毛の髪を下の方で緩く結んだ、何とも胸の大きな女性で在った。その女性は自分の胸の大きさをより強調する様、胸元が大きく開いたワンピースを着ており、エリッタはそんな女性の胸元に自然と目が行き、その次に自分の胸を見下ろして肩を落として居た。エリッタの胸はメイド服の上から見ても、膨らみは申し訳程度にしかなかった。


「こんな時間にルデルトに会えるなんて、マリ嬉しいわぁ」


 赤い口紅の塗られたぷくりとしている唇に弧を描き、するりとルデルト王子の腕に抱き着いたその女性――マリは、甘える様にルデルト王子を見上げる。どうやらマリの目には横に居るエリッタの姿は見えて居ないのか、一度もエリッタに視線を向ける事無くルデルト王子の元に真っ先に向かって行った。ルデルト王子は自身の腕に絡み付いて来たそのマリを、黙って見下ろす。


「ねぇ、今からマリと何処か行かない? ルデルトも一人で暇でしょー?」

「……」

「ルデルトー? 聞いてるのぅ?」

「お前……誰だっけ?」

「え…」


 何を言っても反応しないルデルト王子に、マリはぷくりと頬を膨らませて、そのご自慢の胸を腕に押し付けて居た。だが王子から発せられた言葉に、呆気に取られる。


「な、何言ってるの? マリだよぅ?」

「だから、マリって誰だよ?」


 訝しげに眉を寄せマリを見下ろすルデルト王子に、マリの笑顔が崩れ落ちる。だがルデルト王子は本当に分からないのか、どんなにもマリが訴えても思い当たる人物が浮かんで来ない様だ。そんな二人の様子を、エリッタは何も言わず、只じっと眺めて居た。だがその瞳に何時もの優しさは無い。只、それを観察して居るだけ。花がどの様に成長するのか、アリが何処に向かって居るのか、それと同じ様に、只……観察して居た。


「つーか、お前馴れ馴れしいんだよ。一体誰の許可を得て俺に触ってんだ」

「え、きゃっ…」


 腕に抱き着いて居るマリをうざったそうに振り払った為、マリは地面に倒れ込んでしまう。だがそんなマリにも、ルデルト王子は手を差し伸べ様とはしない。只鋭い瞳で、地面に倒れ込んだマリを冷めた目で見下ろして居るだけ。


「おい、エリッタ。さっさと帰るぞ」

「……畏まりました」


 もう興味が無いのか、地面に倒れ込んだマリから視線を逸らし、少し離れた所で立って待って居たエリッタへと視線を送り、その場を後にする。エリッタはちらりと未だ放心状態のマリに視線を向けた後、歩いて行ったルデルト王子を追い掛ける様に小走りでその場を後にしたのだった。


「あーあ、しけた」

「ルデルト様、あの女性の方は、お知り合いでは無かったのですか?」

「あ? あー……忘れた。どっかで聞いた事が有った様な気もするが。まあ、俺には関係無い」

「そうで、御座いますか」


 ルデルト王子のそのダルそうな、興味が無さそうな言葉を最後に、エリッタは城に付くまで、それ以上その女性について聞く事は無かった。

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