第二十二章 学院からの招待状
スクリーンに表示されたランキングは、そのまま下へとスクロールし続けていた。
自分の名前を見つけて興奮気味に拳を握り締める者もいれば、順位を見つめたまま、納得のいかない表情を浮かべる者もいた。
会場のあちこちから歓声や悲鳴が上がり、すべての受験者の順位と成績が発表される頃には、ようやく騒ぎも収まり始めていた。
しばらくして、クローンが再びマイクを手に取った。
「以上で、今回の試験結果の発表を終了します。改めて申し上げますが、皆さんはご自身の能力に合った学院を選ぶようにしてください」
「学院への入学申込書は、三日後に皆さんのスマートフォンへ直接送信されます。スマートフォンをお持ちでない方は、三日後に募集会場の受付で受け取ることもできます」
「必ず指定された期限内に入学申込手続きを済ませてください。期限までに手続きが完了していない場合、今回の入学資格を放棄したものとみなします」
「また、宿泊先がまだ決まっていない受験者の方は、受付で臨時宿舎の利用を申請できます。臨時宿舎はすべて八人部屋となっており、ご家族の同伴宿泊も可能です」
八人部屋?
いや、それじゃ俺の求めてるものと全然違うんだけど。
まさか、あの先生に騙されたのか?
武は眉をひそめた。
試験にさえ合格すれば、今夜は快適な場所でゆっくり休める。そう考えていたのだ。
「以上をもちまして、今回の一級募集試験は正式に終了となります。受験者の皆さん、本当にお疲れさまでした」
クローンはそう告げると、会場に向かって軽く一礼した。
解散が告げられると、受験者たちは次々と席を立った。
二人、三人と連れ立って出口へ向かう者もいれば、臨時宿舎を申し込もうと、慌てて受付へ向かう者もいた。
「武くん、私たちも宿舎を申し込んでみる? ほら、あんなにたくさんの人が並んでるよ」
由美子は少し離れた場所にできた列へ目を向けた。
武は徐々に長くなっていく列を眺め、八人部屋での生活を想像すると、思わず唇を結んだ。
「うーん……もう少し待ってみようか」
「えっ? じゃあ、今夜はどこに泊まるの?」
「どうしても駄目なら、街に入って宿屋を探す方法を考えるよ」
もっとも、その方法が本当にうまくいくかどうか、武自身にもわからなかった。
ただ、母さんを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
今の俺が使える切り札といえば、総合八位という肩書きくらいだ。
この順位を利用して、どこかの学院長から少しでもいい条件を引き出せないだろうか。
「そっか……じゃあ、お母さんも一緒に探すね」
由美子は小さく頷いた。
それ以上は何も尋ねず、ただ優しく武の襟元を整えてやった。
二人は荷物をまとめ、出口へと向かった。
ところが、会場を出ようとしたところで、背後から慌ただしい声が響いた。
「お二方、少々お待ちください!」
武が振り返ると、濃紺のベストを着た職員がこちらへ駆け寄ってきた。
職員は二人の前まで来ると、軽く息を整え、丁寧に尋ねた。
「失礼ですが、武・伊勢様でいらっしゃいますか?」
「そうだけど、何か?」
職員はほっとしたように表情を緩めた。
「ああ、よかった。ようやくお会いできました。実は、ある学院長がぜひ一度お会いしたいとおっしゃっているのです」
「学院長?」
武は小さく目を瞬かせた。
隣にいた由美子も、驚いた表情を浮かべている。
「どちらの学院長でしょうか?」
「大変申し訳ございません。私はお二方をお招きするよう命じられただけでして……」
職員は申し訳なさそうに答えた。
「もしよろしければ、私とご一緒にお越しいただけませんか?」
武と由美子は顔を見合わせた。
そして職員の案内に従い、二人は来賓用の休憩室へと通された。
休憩室はそれほど広くなかったものの、室内は上品に整えられていた。
向かい合わせに置かれた、アイボリー色の柔らかなソファが二つ。
その間にある木製のテーブルには、見た目にも美しい菓子と上質な茶器が並べられていた。
細部に至るまで行き届いたもてなしからは、招かれた客をいかに大切に扱っているかが伝わってくる。
武は室内を見回したが、かえって落ち着かない気分になった。
「恐れ入りますが、こちらで少々お待ちください。後ほど学院長が直接お見えになります」
職員は深々と頭を下げると、数歩後ずさりし、静かに扉を閉めて退出した。
それから数分後。
休憩室の扉が軽やかに開き、一人の女性が姿を現した。
長いピンク色の髪に、白いワンピース。
整った顔立ちには柔らかな微笑みが浮かび、その立ち居振る舞いは優雅で、どこか余裕を感じさせた。
「あらあら、お待たせしちゃいましたね」
女性は微笑みながら歩み寄り、まず由美子に軽く会釈した。
それから武へ視線を移す。
「はーい♪ あなたが伊勢さんね? それで、こちらが伊勢さんのお母様かしら?」
女性は小さく手を振り、にっこりと笑った。
「初めまして。武の母、由美子・伊勢と申します」
由美子は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「あなたは……?」
武は顔を上げ、不思議そうに尋ねた。
「初めまして。私は白魔法学院の学院長、アイリーン・バードと申します」
アイリーンは優雅に自己紹介すると、二人の向かいにあるソファへ腰を下ろした。
「どうも。武・伊勢です」
武も礼儀として挨拶を返した。
「今日はね、伊勢さんを学院にお誘いしたくて来たの。少しだけお時間をいただくことになるかもしれませんけど、いいかしら~?」
アイリーンはくつろいだ様子で切り出した。
「まずは伊勢さん、今回の募集試験を無事に終えられたこと、おめでとうございます! 模擬幻境での活躍は本当に見事でした。特に、最後の巨大ゴーレムの倒し方には、何人かの学院長も深く感心していたんですよ」
「あ……はは……」
武は少し照れくさそうに笑った。
「そこで、何人かの学院長で話し合った結果、あなたに『破格生』の資格を授与することになりました」
「これは特別な才能を持つ人材のために設けられた身分なんです。この資格があれば、より多くの資源や優遇措置を受けられるようになります。これから抗魔士として活動していくうえで、とーっても大きな助けになるんですよ」
アイリーンは両腕を頭上に掲げ、大きな丸を作ってみせた。
「破格生?」
「そうです。ただ、あなたを迎え入れたい学院があまりにも多くて……みんなで直接勧誘すると、かえって負担になってしまうでしょう?」
アイリーンはいたずらっぽく両手を広げた。
「だから最終的に、書面で勧誘することにしたんです。あなたはその中から、気に入った学院を選ぶだけでいいんですよ」
そう言って、アイリーンは招待状の入った四つの封筒を取り出し、そっとテーブルの上に並べた。
「こちらの四通は、それぞれ四つの学院から届いた招待状です。各学院が提示する条件をじっくり比べて、ご自身に一番合った場所を選んでくださいね」
武は招待状を受け取り、真剣な表情で内容に目を通し始めた。
一通目の招待状には、こう記されていた。
武・伊勢様
元素学院は、あなたを本学院へ心よりお招きし、共に魔術の神秘を探究できることを願っております。
本学院は、大陸随一の魔術教育体系を誇り、指導陣には三階魔術師八名、二階魔術師二名が名を連ねております。
学術研究、魔術競技大会、各種地域間競技大会においても、元素学院は毎年優秀な成績を収めており、その実績こそが本学院の教育体系の卓越性を証明しています。
本学院への入学をお決めいただければ、エピック級魔兵器一点とエピック級法衣一式を贈呈いたします。
それだけでなく、毎月十八万羽貨の特別手当、十枚の元素魔術カード、八セットの最高級補助薬剤も支給いたします。
修練においては、三階魔術師一名をあなたの専属指導者として任命し、一対一の魔術指導を実施するとともに、あなたの才能と希望に合わせた個別育成計画を策定いたします。
さらに、本学院の魔術図書室における最高レベルの利用権限を付与し、専用の個人実験室をご用意いたします。
加えて、高級魔力訓練室を毎月十回まで無料でご利用いただけます。
必要となる基礎魔術教材および研究用消耗品の費用は、すべて本学院が負担いたします。
実戦、競技大会、学術研究などで優秀な成果を収めた場合には、追加の報奨や豊富な修練資源を提供いたします。
一流の魔術師たちによる丁寧な指導のもと、あなたの魔術師としての実力をあらゆる面で高め、その潜在能力を極限まで引き出せると確信しております!
本学院があなたのために用意した特別育成計画に従って研鑽を積んでいただければ、五年以内にA級昇格試験を突破し、天下にその名を轟かせるA級抗魔士へと成長できるものと確信しております。
あなたのご入学を、心よりお待ちしております!
元素学院学院長 フラン・グラシア 直筆
二通目の招待状には、こう記されていた。
武・伊勢よ。
このたびは学院の特別募集試験を突破したこと、誠にめでたい!
わしが見るに、おぬしは天運に恵まれ、武術の素質も極めて優れておる。
まさしく百年に一人現れるかどうかの、武術の天才じゃ!
我ら闘気師が求めるものは、華やかな名声でも、虚飾に満ちた栄誉でもない。
極限の苦難をもって精神を鍛え、純粋なる闘気をもって肉体を磨き上げることこそ、我らの歩むべき道じゃ!
闘気学院が必要としておるのは、まさにおぬしのように強大な力と揺るぎない意志を備えた若者なのじゃ!
おぬしが闘気学院に入るというのであれば、わし自ら直弟子として迎え入れよう!
わしが生涯をかけて修めた武術のすべてを、余すところなく伝授することを約束する!
おぬしが余計なことに心を煩わせず、修練に専念できるよう、学院は毎月十二万羽貨を支給し、さらにエピック級鎧一式とエピック級魔兵器一点を贈呈する。
修練に必要な基礎薬材および物資の費用はすべて学院が負担し、毎月二回の無料装備整備も受けられるようにしよう!
わしは信じておる。
おぬしほどの資質があれば、いつの日か必ず闘気宗のかつての栄光を取り戻し、闘帝の偉業を受け継ぐことができると!
おぬしが武術を極めた暁には、宗門の後継者として迎える覚悟もある!
そのときには、天下の闘気師たちもおぬしに一目置き、各地の闘気学院や武館もまた、おぬしを仰ぎ見ることになるじゃろう!
若者よ!
その天賦の才を、決して世に埋もれさせてはならん!
闘気学院学院長 アタル 直筆
三通目の招待状には、こう書かれていた。
武・伊勢様、こんにちは。
このたびはアストラ総学園の募集試験に合格されたこと、心よりお祝い申し上げます。私たちも大変嬉しく思っております。
白魔法学院は、あなたを私たちの温かな仲間としてお迎えできることを、心から願っています!
本学院では、あなたのためだけの特別な育成計画をご用意し、先輩が後輩を支える指導体制を通じて、五年以内にB級抗魔士へ昇格できるよう、全力でサポートいたします。
破格生として、毎月十万羽貨の特別手当を支給いたします。
さらに、あらゆる面であなたを支える専属の後方支援体制も整えます。
(どんなことでも相談してください! 入学したらすぐに叶えちゃいます!)
日常生活、物資の手配、情報収集、装備の整備、そして快適な住環境に至るまで、あなたの希望を最優先に考え、万全の準備をいたします。
また、授業の履修を免除する特別な権利も付与いたします。
煩わしい授業に時間を取られることなく、ご自身の修練と成長に専念していただけますよ!
白魔法学院の学生たちは、治療、祝福、さまざまな補助魔術を得意とする者がほとんどです。
あなたが加わってくだされば、きっとお互いの長所を生かし合える、素晴らしい関係を築けると信じています。
あなたが白魔法学院の一員となってくださる日を、楽しみにお待ちしております!
白魔法学院学院長 アイリーン・バード 直筆
そして、四通目の招待状には、こう記されていた。
武・伊勢様
謹んでご挨拶申し上げます。
このたびは、極めて優秀な成績をもって募集試験を突破されたこと、心よりお祝い申し上げます。
私は次元学院を代表し、あなたを本学院へ正式にお招きいたします。
本学院は、アストラ総学園で最も先進的かつ充実した実戦訓練体系を備えております。
この訓練体系は、学生一人ひとりの実戦経験と臨機応変な対応力を最大限に高めることを目的としております。
あなたには最高規格の魔術訓練室と、多彩な特殊模擬戦闘プログラムをご用意いたします。
次元学院が構築した特殊訓練環境では、歴代の先輩たちと模擬戦闘を行うことさえ可能です。
破格生として本学院に入学された場合、毎月二十万羽貨の特別手当、八枚の空間系魔術カード、八セットの高級補助薬剤を支給いたします。
さらに、二か月に一回、武器や装備の無料点検・整備サービスをご利用いただけます。
本学院は、優秀な人材それぞれに適した成長の道を尊重しております。
そのため、学院の基本規則に違反しない限り、学習や修練の進め方について、幅広い裁量を認めます。
過度な授業日程に縛られることなく、ご自身に適した方法で学習と修練を進めていただけます。
必要となる修練資源は、本学院が十分にご用意いたします。
あなたには、ご自身のペースで、ひたすら技を磨いていただきたいと考えております。
あなたと共に、さらなる高次の力を探究できる日を楽しみにしております。
次元学院学院長 ヴィスタ・モグ 直筆
四通の招待状をすべて読み終えた武は、思わず眉をひそめた。




