↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/29

第二十一章 試験結果


「そんな馬鹿な……」


 アタルは目の前の映像を食い入るように見つめていた。その表情には、隠しきれない驚きが滲んでいた。


 映像の中では、巨大ゴーレムの胸部が粉々に砕かれ、その奥深くに隠されていた本物の魔核までもが、あの青年の手で握り潰されていた。


 アタルは目を見開いたまま、言葉を失っていた。


 あれはどう見ても、巨大ゴーレムを相手にするまともな戦い方ではなかった。


 まるで新しい玩具を手に入れた悪戯好きの子供が、好き勝手に遊んでいるかのようだった。やり方は乱暴で、加減というものがまるでない。


 それなのに、本当に倒してしまったのだ!


 アタルは椅子の肘掛けを強く握り締め、指の関節がわずかに白くなった。


 まさか、あやつは本当に伝説の先天闘気聖体なのか?


 武・伊勢の試験が終わった今、その可能性はますます現実味を帯びていた。


「勧誘じゃ……絶対に勧誘せねば……!」


 アタルは低く呟いた。


 何としてでも、あやつを闘気学院に迎え入れなければ!


 アタルは目を閉じ、大きく息を吸い込んで、どうにか気持ちを落ち着かせた。


 今さらながら、武のことをほかの学院長たちに話してしまったのを少し後悔していた。


 先天闘気聖体という存在は、あまりにも特別だった。


 場合によっては、ほかの学院長たちが目をつけている破格生の候補すら変えてしまいかねない。


『我が後、世に闘帝なし』


 闘帝が最期に残した、あの言葉。


 それが再びアタルの脳裏に蘇った。


 闘帝の死後、かつて栄華を極めていた闘気宗は、なぜか急速に衰退の一途をたどった。


 無数の魔術学派を震え上がらせた巨大勢力は、わずか数十年のうちに分裂し、ほかの学派によって次々と解体され、呑み込まれていった。


 最後には、数百年にわたって受け継いできた宗門の聖地すら守り切れず、明け渡すことを余儀なくされた。


 かつて天下にその名を轟かせた闘気宗も、今や名ばかりの存在となり、屈辱に耐えながらアストラ総学園の一学院として存続するしかなかった。


 そして闘帝の遺言は、抜けない棘のように、闘気宗の人々の心に深く突き刺さっていた。


 四百年もの間、歴代の宗主たちは心血を注ぎ、闘帝の予言を覆そうと、あらゆる手を尽くしてきた。


 だが、どれほど努力を重ねようとも、再び闘帝の境地へ到達した者は一人として現れなかった。


 世代を重ねるたびに、希望は失望へと変わっていった。


 アタルは改めて、映像に映る青年を見つめた。


 四百年。


 実に四百年じゃ!


 闘帝と同じ体質を持つ青年が、こうして目の前に現れたというのか!


 たとえ先天闘気聖体であろうとなかろうと、この機会だけは逃すわけにはいかん!


 武の意識が試験会場へ戻ったことを確認すると、アタルはすぐさま椅子から飛び降り、観察席を後にしようとした。


 ところが、席を離れた途端、ほかの四人の視線が一斉に自分へ向けられていることに気づいた。


「どうしたの、お爺ちゃん? どこかで悪いことでもするつもり?」


 グラシアが意地の悪い笑みを浮かべて尋ねた。


「わしがどこへ行こうと、おぬしに報告せねばならんのか?」


「もちろん、そんな必要はないわよ」


 グラシアは頬杖をつき、ますます楽しそうに微笑んだ。


「ただね、私たちの目を盗んで、あの青年をこっそり勧誘しに行こうとしてるんじゃないかと思って」


「何を言っておる? わしにはさっぱりわからんのう」


「とぼけないでよ、お爺ちゃん。何を考えてるかなんて、みんなお見通しなんだから」


 グラシアはくすくすと笑った。


 その言葉を聞いたアタルの顔が、たちまち険しくなる。


 見抜かれている以上、これ以上隠すつもりもなかった。


「ふん! ならば、はっきり言わせてもらおう! あやつに最もふさわしいのは、ほかでもない我が闘気学院じゃ!」


 アタルの声が観察席に響き渡った。その口調には、一切の反論を許さぬ勢いがあった。


「先天闘気聖体をほかの学院に入れるなど、その才能に対する最大の冒涜じゃ!」


 アタルは目を剥いて周囲を睨みつけた。


 誰かが異議を唱えようものなら、今にも飛びかかっていきそうな剣幕だった。


「ふふっ。お爺ちゃんったら、まだ闘気学院が昔の栄光を取り戻す夢でも見てるの?」


 グラシアは気だるそうに頬を支え、口元に嘲るような笑みを浮かべた。


「何じゃと!?」


 アタルのこめかみに青筋が浮かぶ。


 しかし、グラシアは少しも悪びれなかった。


「あら、私、何か間違ったことを言ったかしら?」


 両手を広げ、わざとらしく肩をすくめる。


「先天闘気聖体には、そもそも指導なんて必要ない。だって、生まれながらに最高位の神級闘気を備えているんでしょう? これは闘帝の直弟子が自ら語ったことよ。まさか、お爺ちゃんも否定しないわよね?」


 グラシアは勝ち誇ったように笑った。


「それがどうした! まさかおぬし、闘気学院では闘気しか教えておらんとでも思っておるのか!」


 アタルは怒りに任せて、一歩前へ踏み出した。


 鋭い眼光は、今にも本物の炎を噴き出しそうなほどだった。


「あら、闘気学院で闘気を教えないっていうなら、わざわざ通う意味なんてないじゃない。そんな貴重な人材は、当然、私たち元素学院が育てるべきよ!」


 グラシアは立ち上がり、得意げに胸を張った。


「私たちには豊富な資源と、最高水準の教育陣が揃っているわ。あの青年の先天闘気聖体を最大限に生かせるのは、私たち元素学院だけよ!」


 グラシアは両手を高く掲げ、堂々と言い放った。


 まるで武がすでに自分の生徒になったかのような口ぶりだった。


「ふん! おぬし、さっきあの謎の女を勧誘しに行ったばかりではないか! どこに余分な破格生の枠があるというんじゃ!」


 怒りに震えるアタルの髭が、かすかに揺れていた。


 グラシアは一度目を瞬かせると、意味ありげな笑みを浮かべた。


「枠なんて胸の谷間と同じよ。寄せて上げれば、ちゃんとできるものなの。ねえ、アイリーンちゃん?」


 そう言って、グラシアは興味津々といった様子で隣のアイリーンに視線を向けた。


「……っ!」


 その不穏な視線に気づいたアイリーンは、反射的に胸元を手で隠した。


「わ、私たち白魔法学院だって、あの少年のために専用の育成計画を用意できます! ほかの学院に口出しされる筋合いはありません!」


 アイリーンは背筋を伸ばし、真剣な表情で言い切った。


「おやおや……アイリーンちゃん、反抗期かしら?」


 グラシアの目に驚きの色が浮かんだ。


 どうやら、こんな反応が返ってくるとは思っていなかったらしい。


「どうやら、あの青年の勧誘は難航しているようですね。あなたは争奪戦に加わらないのですか?」


 モグは、傍らでずっと黙っていた南宮へ目を向けた。


 南宮の視線は、相変わらず目の前の巨大スクリーンに向けられていた。


 ほかの学院長たちがあれほど言い争っているというのに、その表情にはほとんど変化がない。


「私の直感が告げています。我々の破格生は、すでに見つかったと」


 南宮は静かに答えた。


「ふふっ、命狩りの直感ですか……」


 モグが意味深に呟く。


「モグ学院長は、何かお考えがあるのでは?」


 今度は南宮が問い返した。


「あれほど特殊な体質です。確かに、じっくり研究する価値はあるでしょう。ただ……」


 モグはゆっくりと椅子の背にもたれかかった。その表情には、相変わらず余裕が漂っていた。


「我々があの少年を迎え入れようと、迎え入れまいと、次元学院の方針が変わることはありません。何しろ、『最強』はすでにこちらにいるのですから」


「例のファントム様、ですか……」


 南宮の目がわずかに動いた。


 モグは答えなかった。


 ただ、その口元に浮かぶ笑みが、ほんの少し深まったように見えた。


---


 時間が刻一刻と過ぎていく。


 その間にも、模擬幻境から目を覚ます受験者が次々と現れた。


 静かだった募集試験の会場は次第に賑やかになり、あちこちで受験者たちが幻境での体験を語り合い始めていた。


「お前ら、最後のステージで何が出た?」


「聞いてくれよ! あの巨大ゴーレム、硬すぎるんだって! 脚を斬りつけても傷一つつかなかったんだぞ!」


「俺もだ! 二階にバリスタがあるのを見つけて助かったぜ。あれがなかったら、どうすればいいかわからなかったからな」


「はあ!? 二階にバリスタなんてあったのか!?」


「お前、まさか最後まで気づかなかったのか?」


「…………」


 似たような会話が、会場のあちこちから聞こえてくる。


 そんな中、会場の片隅では、武が由美子の用意したお菓子をのんびりと頬張っていた。


「武くん、おいしい?」


「うん、まあまあかな」


 由美子はハンカチを取り出し、武の口元を丁寧に拭ってやった。


 しばらくすると、会場脇の通路からクローンが姿を現した。


 ゆっくりと前方の壇上へ上がり、周囲を見渡してからマイクを手に取る。


「受験者の皆さん、少しお静かにお願いします」


 騒がしかった会場が徐々に静まり返り、全員の視線がクローンへと集まった。


「皆さん、お疲れさまでした。これをもちまして、今回の募集試験はすべて終了となります」


 その言葉を聞き、多くの受験者が背筋を伸ばした。


 緊張した面持ちで壇上を見つめる者も少なくない。


 クローンは少し間を置いてから、話を続けた。


「皆さんが試験結果を気にしていることは、十分承知しています。しかし、結果を発表する前に、今回の募集における合格と学院選択の仕組みについて、改めて説明しておきます」


「以前にもお伝えしたとおり、二つの試験のうち、いずれか一つに合格すれば、抗魔士となる資格を得ることができます」


「学院については、皆さん自身で志望先を選び、出願していただきます。五大学院はそれぞれ育成方針が異なりますので、ご自身の長所や能力を踏まえ、適切な選択をしていただきたいと思います」


「もし安易に学院を選び、自分の実力が学院の求める水準に達していなければ、将来的に成績基準を満たせず、退学を余儀なくされる可能性もあります。どうか慎重にお考えください」


 クローンが説明を終えると、客席からざわめきが広がった。


 クローンはざわめきが収まるのを待ち、再び口を開いた。


「それでは、今回の試験における総合成績ランキングを発表します」


 クローンが背後へ向けて手を上げると、巨大スクリーンに光が灯った。


 真っ黒だった画面にアストラ総学園の校章が浮かび上がり、やがて校章が上方へ小さく移動すると、整然と並んだ文字が次々と表示されていった。


【一級募集試験・総合成績ランキング】


【順位/受験者氏名/魔力量/クリアタイム】


第一位 朱心(しゅしん)  S級 3分50秒


第二位 清璃(せいり)・南宮(なんぐう) S級 4分30秒


第三位 凛音・神崎  A級 5分08秒


第四位 フィールド・ローゼン  B級 5分21秒


第五位 悠真・黒瀬  A級 5分46秒


第六位 アッシュ・レイヴンハート  B級 6分03秒


第七位 美月・九条  A級 6分15秒


第八位 武・伊勢  C級 3分52秒


第九位 ミラ・ノヴィア  B級 6分41秒


第十位 カイン・ブレイド  B級 7分02秒


 ランキングが発表された途端、会場は歓声と興奮した声に包まれた。


「一位って……たった三分五十秒でクリアしたのかよ! しかも魔力量がS級だって!?」


「二位もS級なのか!? 今回の受験者、レベル高すぎだろ!」


 多くの受験者がスクリーンを見上げ、自分の名前がないか必死に探していた。


 だが、ほどなくして、あることに気づいた者が声を上げた。


「おい、待て! 八位を見てみろよ!」


「八位がどうした?」


「クリアタイムが三分五十二秒なんだよ!」


「マジか!? それって一位と二秒しか違わないじゃねえか!」


 一人の受験者が目をこすり、スクリーンに表示された数字をもう一度確かめた。


「魔力量C級で、三分五十二秒クリア……?」


「闘気師だ! こいつ、絶対に闘気師だろ!」


「この成績なら、どこかの名門一族が育てた天才かもしれないぞ!」


 それまで上位三名に集中していた視線が、次第にランキングの中ほどへと移っていった。


 周囲の騒ぎをよそに、武は相変わらずお菓子を頬張っていた。


「武くん! 見て見て! 八位! 武くんの名前があるよ!」


 由美子が興奮した様子で彼の袖を引っ張った。


 武は顔を上げ、由美子が指さす先へ目を向けた。


「おっ、八位か」


「八位だよ! しかもクリアタイム、一位の人とたった二秒差なんだから!」


 由美子は満面の笑みを浮かべていた。


 まるで自分が表彰されたかのような喜びようだ。


「ははっ、まあ悪くないかな」


 武自身は、順位など大して気にしていなかった。


 ただ、一位との差がわずか二秒だと気づくと、無意識のうちに試験中の戦いを振り返っていた。


 うーん……特に問題はなかったよな。


 強いて言えば、ディゼルと無駄話をしすぎたくらいか。


『おい!』


 まあ、上位十名には入れたわけだしな。


 これなら今夜の寝床くらいは確保できるだろう。


 武はスクリーンに映るランキングを眺めながら、これからの予定を考え始めた。


 さて、どの学院を選ぶべきかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。