第51話:洞窟内攻略戦
王都から北へ数キロ、打ち捨てられた『旧鉱山跡』の坑道口。
湿った土と鉄の匂いが漂う洞窟の入口で、僕たちと『鉄壁の角笛』は並んで立った。
「いいかお前ら! 洞窟内は狭い、落盤の危険があるから大魔法は厳禁だ! だがな……俺たちの『力押し』を舐めるなよ!」
ゴルドがバフを施された大盾を構え、先陣を切って坑道へと突入していく。
「カルム、バフを頼む! ライラ、ぶちかませ!」
「『鋼体展開』『剛力増幅』……どうぞ」
「おっしゃあぁぁ! 邪魔な壁も亀もまとめてペシャンコだよっ!!」
大槌士の少女・ライラが身の丈を超えるハンマーを旋回させ、前方に立ちはだかる雑魚の岩亀を一撃で叩き潰していく。ゴルドが敵のヘイトを完璧に集め、ライラが粉砕し、カルムが隙なく後方から能力値を補正する。
まさに「重装近接に極振りされた完璧な重戦車」だ。
迷いなく正面突破していくそのスピードは圧風のようだった。
「すごい推進力……! 正面から全部押し潰して進んでいきます!」
シルフが感嘆の声を上げる。
「ああ、素晴らしい連携だ。だが、僕たちが同じ真似をする必要はない。ウィネット、索敵を頼む」
「任せて! ……風よ、洞窟の隙間を駆け抜け、音を連れてきて!」
ウィネットが目を閉じ、指先から極小の風の波を坑道の奥へと放った。
「風の反射で分かったよ! 左の坑道は落盤しかけてて迂回路だけど、敵の数が圧倒的に少ない! ゴルドさんたちが進んだ右のルートは直線だけど、重甲亀の群れがすし詰め状態になってる!」
「よし、僕たちは左の迂回路を行く。スピードで追いつくぞ」
僕たちは左の坑道へと滑り込んだ。
道中、数体の重甲亀が岩陰から出現し、硬質な甲羅を閉じて通せんぼうを仕掛けてくる。
「シルフ、あの甲羅の接合部に『極冷』を短時間だけ集中しろ」
「はいっ! 凍てつけ……っ!」
シルフの短杖から放たれた極冷の光線が、重甲亀の甲羅の継ぎ目をピンポイントで凍らせる。
急激な冷却により、金属成分を含んだ甲羅の分子構造が悲鳴を上げ、極小の『熱歪み(ヒートショック)』の亀裂が入る。
そこへ僕の『風切三羽矢』が滑り込む。
パシィンッ!
ドリル回転を起こした三羽矢は、極冷で脆くなったわずか数ミリの亀裂に正確に突き刺さり、甲羅を割ることなく内部の核を打ち抜いた。
過剰な爆発音も衝撃波も発生しない、完璧な静音殺傷。
「すごい……! 寄生された三羽矢の回転と、シルフちゃんの冷却が噛み合いすぎてる!」
ウィネットが興奮気味に叫ぶ。
力で押し潰す『鉄壁の角笛』と、理と精度で無駄なくすり抜ける僕たち。
全く異なるアプローチで坑道を駆け抜けた両パーティーは、ほぼ同時に、最深部の巨大なドーム状の開けた空洞へとたどり着いた。
「なにっ……!? もう追いついてきやがったのか!?」
右の通路から全身返り血(岩の破片)まみれで飛び出してきたゴルドが、僕たちの姿を見て目を見開いた。僕たちの装備には、チリひとつ付いていない。
「お互い、無事に辿り着けたみたいだな」
僕が微笑むと、ゴルドは悔しそうに、だが嬉しそうに歯を剥き出しにして笑った。
「ハッ! 面白いじゃねぇか! だが……真ん真ん中の大本命は、そう簡単に譲らねぇぞ!」
ゴルドが指差した空洞の中央。
そこには、体長五メートルを超える巨大な主——『古の重甲亀』が鎮座していた。
その甲羅は深い青黒い光沢を放ち、まさに城壁そのものの威容を誇っていた。




