第50話:先着競合
王都冒険者ギルドの本部。
朝の柔らかな光が差し込む大広間は、今日目指すべき獲物を探す冒険者たちの熱気に包まれていた。
蓮は新しい銀色の冒険者証を胸元で揺らしながら、Bランク専用の掲示板の前に立っていた。
隣には、シルフとウィネットが並んでいる。
背中には、ドワーフの職人バログに仕立ててもらった最高の相棒——『風切三羽矢』を収めた矢筒が静かに収まっていた。
「蓮さん、本日のBランク依頼ですが……こちらなどはいかがでしょうか」
シルフが細い指先で指し示した羊皮紙には、以下のような内容が記載されていた。
【依頼内容:旧鉱山跡における『重甲亀』の討伐および希少鉱石の回収】
【概要:旧鉱山跡の最深部に巨大な重甲亀が定着。甲羅に含まれる『高純度鉄鉱石』の回収が目的。洞窟内は構造が非常に脆く、大規模な爆破・大魔法は落盤を引き起こすため固く禁ずる。】
「重甲亀か。甲羅が非常に硬く、生半可な物理攻撃も魔法も弾く難敵だな。おまけに『落盤の危険がある狭所』での戦闘……大魔法で吹き飛ばす手が使えない分、確実な工夫が求められる」
僕が考察を口にすると、ウィネットが腕を組んでうーんと唸った。
「大爆発がダメなら、あたしの風で吹き飛ばすのも注意が必要だね。洞窟の天井を崩しちゃったら元も子もないし……」
「ええ。ですが、広範囲の破壊に頼らない精密な戦い方なら、私たちのパーティーの最も得意とするところです」
シルフが誇らしげに微笑む。
まさにその通りだ。
僕たちの強みは威力のデカさではなく、物理法則に基づいた緻密なピンポイント攻略にある。
僕が羊皮紙を掲示板から剥がそうと手を伸ばした、その時だった。
「ガハハハ! おいおい、そっちの華奢なお坊ちゃん方に、その依頼は少々重すぎやしないか?」
頭の上から、地響きのような豪快な笑い声が降ってきた。
振り返ると、そこには巨大な壁のような男が立っていた。
全身を黒鉄の全身鎧で包み、背中には大人が一人隠れるほど巨大なタワーシールドを背負っている。その隣には、身の丈ほどもある巨大な金属ハンマーを易々と肩に担いだ小柄な少女と、静かな佇まいの男が控えていた。
「君は……?」
「俺はBランクパーティー『鉄壁の角笛』のリーダー、ゴルドだ! こっちのハンマー持ちがライラ、後ろのひょろっとしたのが付与術士のカルムだ!」
ゴルドと名乗った重騎士の男は、胸を叩いて豪快に名乗った。
「『鉄壁の角笛』……! ギルドでも有名な、Bランク屈指の重装近接パーティーですね」
シルフがそっと僕の耳元で囁く。
前衛の絶対的な防御力と、近接での圧倒的な一撃粉砕力で知られるベテランたちだ。
「おいおい、噂は聞いてるぜ? 低スキルと弓でBランクに跳ね上がったっていう期待の新人パーティーだな。……だがなぁ、あの旧鉱山は狭くて暗い。弓兵と魔法使いだけのひょろい構成で、あのカチカチの重甲亀を相手にするのは骨だぞ? 事故って怪我でもされたら寝覚めが悪い」
ゴルドの言葉には、馬鹿にするような嫌みは一切なかった。純粋に後輩冒険者を心配する、親分肌の気遣いだ。
「心配してくれてありがとう、ゴルドさん。でも、僕たちには僕たちのやり方がある。狭い場所だからこそ、弓の精密さが活きるんだ」
僕がまっすぐに視線を返すと、ゴルドは一瞬意外そうに目を見開き、やがてニカッと口髭を揺らして笑った。
「へっ、いい目だ! 噂通りの度胸だな! ……よし、この依頼は指名型じゃなく『早い者勝ちの競合依頼』だ! 最深部にいるボスクラスの重甲亀を一匹仕留めりゃ、この依頼は達成になる!」
ゴルドがガツンと自分の大盾を床に叩きつけた。
「どちらが先にあの頑固な亀の甲羅をブチ破って討伐するか……勝負と行こうじゃねぇか、蓮!」
「勝負……ですか?」
「おうよ! 負けた方は王都の酒場で一番高い肉を奢る! 異論はねぇな!?」
「へえ、面白そうじゃん! あたしたちが勝ったら、一番高いお肉をお腹いっぱい食べさせてもらうからね!」
ウィネットが身を乗り出して乗っかる。
シルフも困り顔ながら、どこか楽しそうに微笑んでいた。
「分かった、その勝負受けよう。……お互い、怪我のないようにベストを尽くそう」
僕が手を差し出すと、ゴルドの太い手がそれを力強く握り返した。
こうして、Bランク2回目の依頼は、王都期待の重装パーティーとの爽快な『スピード&攻略レース』となったのだった。




