第49話:歪んだ全能感
「があぁぁぁっ……!? ぐ、あぁぁぁぁっ!!!」
強烈な痛みが佐藤の頚椎を突き抜け、脳髄を焼き尽くすかのように広がった。
首筋の皮膚の下を、まるで不快な虫が這い回るような感覚。佐藤は床に転がり、喉をかきむしりながら激しくのたうち回った。
「な、なんだこれ……! 首が……熱い……痛い痛い痛いっ!!」
「耐えよ。それが力と引き換えの『代償』であり『苗床』だ」
ヴァルザードの冷徹な声が響く中、佐藤の右首元から項にかけて、異様な変化が起こっていた。
皮膚を突き破るようにして体外へと露出し始めたのは、赤黒い生体組織で作られた『脈動する大きな結節』だった。
拳ほどもあるその異様な部位は、まるで独立した生き物の心臓のように『ドックン、ドックン』と気味の悪い音を立てて脈打ち、表面にはグロテスクな紫色の血管が浮き出ている。
それは魔王が植え付けた寄生型魔獣——『極魔の呪糸核』だった。
「ひっ……! なんだこの首の塊は……気持ち悪い……! 外せ、外してくれっ!」
佐藤は鏡に映った自分の姿を見て悲鳴を上げた。右首元から露出したグロテスクな赤黒い外腫瘍。それが自分の体にへばりつき、不気味に蠢いている。
だが、次の瞬間——。
『ヴヴヴヴ……ッ!』
その首元の外腫瘍(核)が激しく脈動すると同時に、大気中に漂う膨大な魔気が、まるで掃除機に吸い込まれるように核へと集束し始めた。
そして、核を通じて増幅された純粋な破壊魔力が、佐藤の体内の魔導回路へと一気に流れ込んできた。
「が……あ……っ!? こ、これは……!?」
痛みが一瞬で消え去り、代わりに全身を駆け巡ったのは、これまで体感したこともないような爆発的な『魔力感』だった。
視界が鮮明になり、指先一つ動かすだけで、周囲の大気を容易に焦がせるほどの熱量が湧き上がってくる。首元の不気味な核が、自動的に周囲の魔力を吸収し、通常の数倍の密度へと変換・増幅して体内に送り込んでいるのだ。
「フハハ……どうだ? お前の『大魔術回路』と我の『呪糸核』が融合した。もはやお前に魔力切れという概念は存在しない。威力も精度も、従来の比ではないぞ」
ヴァルザードの影が薄れながら、満足げに囁く。
「この首の『核』がお前の新しい魔導機関だ。……存分に暴れるがいい、無能な愚者どもを滅ぼすためにな」
影が完全に消え去り、部屋に静寂が戻った。
佐藤はゆっくりと立ち上がり、自分の手を見つめた。
身体の内側から溢れ出す圧倒的な全能感。
首元の赤黒い部位が脈打つたびに、無限のパワーが湧き上がってくる。
「すごい……すごいぞ……! 魔力が、溢れて止まらない……!」
佐藤はフードを深く被り、首元の気味の悪い寄生部位を隠すと、窓から闇夜の王都へと飛び出した。
王都から数キロ離れた、誰もいない荒野。
佐藤は崖の上に立ち、夜空に向けて短杖を掲げた。
「出よ……『極大爆炎陣』!!」
首元の『呪糸核』が過熱するように真っ赤に発光する。
次の瞬間、杖の先端から放たれたのは、以前の数倍の大きさを誇る巨大な火球だった。
それも、以前のような不格好な揺らぎはなく、凄まじい密度で圧縮された漆黒の炎を纏っている。
ドガァァァァンッ!!!!
数キロ先の小山に着弾した火球は、夜空を昼間のように照らし出す絶大な大爆発を起こした。
爆風が荒野を吹き荒れ、着弾点の小山は跡形もなく消滅し、巨大なクレーターだけが残されていた。
「ハハハハハ……! 見たか! 見たかよこの威力を!!」
佐藤は消滅した小山を見下ろし、狂ったように高笑いを上げた。
「小細工? 弓道の理? 物理ハック? ハッ! そんなもの、この圧倒的な破壊力の前には何の役にも立たないんだよ!」
佐藤はフードの上から、脈動する首元の部位を愛おしそうになで下ろした。
「この首の塊(核)さえ隠しておけば、誰も俺の正体に気づかない……! これで俺は最強だ! 蓮……待ってろよ。お前が積み上げてきた小賢しい努力も、パーティーも、その自尊心も……この力で全部跡形もなく吹き飛ばしてやる!!」
暗闇の中、佐藤の瞳は濁った赤色に染まり、首元の寄生核は不気味な脈動を繰り返していた。
闇の力を得た同級生との、避けられぬ破滅の衝突へ向けて、物語は大きく動き始めていた。




