第45話:試行錯誤の鍛錬
「おい小僧! 矢軸の太さと長さを測るぞ! 和弓ってのは、弓の引き尺によって矢の長さが完璧に決まるんだろうが!」
「ああ。僕の矢尺は三尺三分(約100センチ)。矢の重量バランスは、やや前寄りに重みを残した『前重心』にしてくれ。回転した時の直進性が増す」
バログの工房は、一瞬にして熱気あふれる『開発現場』へと変貌していた。
バログはドワーフ特有の頑丈な手つきで、木材や竹材の選別に入った。工房の奥から出してきたのは、乾燥させ、煙で燻した最高品質の『魔導竹』だった。
「しなりと硬度、軽量さを兼ね備えた竹材だ。お前の弓の威力を受け止めるには、これ以上の軸はねぇ」
バログは専用の小刀で竹の節を削り、火に煽ってまっすぐに曲がりを修正していく。
その手つきには、先ほどまでの荒々しさは一切なく、ミクロン単位の誤差も許さない熟練の職人技が光っていた。
「蓮さん……バログさん、すごいです。迷いが一切ありません」
シルフが感心したように息を呑む。
「うん! 最初は頑固なオジサンだと思ったけど、根はすっごく良い職人さんなんだね!」
ウィネットも目を輝かせて二人の作業を見守っていた。
作業は羽根の削り出しへと移った。
風切鳥の羽根は硬度が高く、通常のハサミや刃物では綺麗に切り揃えることが難しい。
「くっ……この風切り羽根、表面の鉱物層が邪魔して、羽軸を均等に削ぎ落とせねぇ……! これじゃ三枚の重量バランスが崩れちまう!」
バログが額に汗を浮かべて歯噛みする。
三羽矢において、三枚の羽根の重量と空気抵抗がわずかでも不揃いになれば、回転軸がぶれて逆に精度が落ちてしまうのだ。
「バログさん、そこは私に手伝わせてください」
前に出たのはシルフだった。
「あん? お嬢ちゃんに何ができるってんだ?」
「私の『極冷』で、羽根の軸だけを一瞬で極低温に冷却します。分子間結合が収縮して脆くなった瞬間なら、綺麗に削ぎ落とせるはずです」
シルフは短杖を構え、繊細な魔力を羽軸の一点だけに集中させた。
『ピキッ……』
微かな凍結音とともに、羽軸の余分な部分が冷却される。バログが即座に刀を入れると、まるでバターを切るかのように、スッと完璧な直線で羽根が切り揃えられた。
「な……!? なんという鮮やかな冷却精度だ……! 魔法を破壊じゃなく、素材の加工(削り)に使うだと……!?」
バログが驚愕の声をあげる。
「蓮さんに教えていただいたんです。魔法は力を誇示するものではなく、理を助けるためのものだって」
シルフが誇らしげに胸を張り、僕に向かって柔らかく微笑んだ。
僕は深く頷き、シルフの頭をそっと撫でた。シルフは照れくさそうに頬を染める。
「へへっ、あたしも負けてられないよ! バログさん、羽根を接着した後の角度調整、あたしの風でチェックしてあげる! 微妙な風の引っかかり、あたしなら一発で分かるから!」
「おうよ! 助かるぜお嬢ちゃんたち! こんなに面白い矢作りは生まれて初めてだ!!」
ドワーフの頑固職人、物理を極める射手、そして氷と風のヒロインたち。
工房の中で、全員の技術と魔力が一つに噛み合っていく。
バログは風切鳥の羽根を120度の等間隔で竹軸に配し、接着剤と絹糸で強固に巻き留めていく。その角度は、僕が計算した通りの「わずか2度の傾き」。
夜が明ける頃——作業台の上には、息を呑むほど美しい一本の『三羽矢』が横たわっていた。
青銀色に輝く風切鳥の三枚羽が、竹軸の末端で螺旋を描くように凛と佇んでいる。
「できた……。俺の鍛冶屋人生で、最も美しく、最も理に叶った『三羽矢』だ……!」
バログが疲労も忘れ、満足感に満ちた表情で呟いた。
羽根の模様も鳥の種類によって様々です。
乳白色に波打つように模様が入っている「白鷹」。
全体的に黒いが裏側を少し傾けると微かに白っぽく変化する「黒鷲」
斑模様が目を引く「孔雀」
全体が白一色の「白鳥」
白から濃いめの灰色へとグラデーションする「花白鳥」
この他にもまだいくつかあります。
個人的には「花白鳥」が好きでした。
実際には「花白鳥」という名の鳥はいません。
これは「白雁」という鳥の羽根の通称となります。




