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異世界転移したけど、低スキルでもやっていけますか?(弓道経験は有ります)  作者: sooomen


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第44話:頑固職人と、未知なる矢

『風鳴り峡谷』での『風切鳥(ウィンドスカイザー)』の討伐から数日。


僕の手元には、討伐の際にきれいに回収した風切鳥の翼——特に風を直接切り裂く部位である『風切り羽根』が厳重に保管されていた。

金属のような鈍い青銀色の光沢を放ち、指で撫でると微小な羽毛が空気の抵抗を綺麗に逃がしていくのが手触りでわかる。極めて高品質な素材だ。


「蓮くん、ここだよ! 王都で一番腕が良いって噂の武具工房!」


ウィネットが元気よく指差したのは、王都の裏通りに佇む、煙突から黒煙を吐き出す一軒の古い工房だった。看板には槌と矢が交差した文様が刻まれている。


「評判は良いですが……店主の鍛冶師さんは、かなり頑固で気難しい方だとギルドの受付で聞きました。大丈夫でしょうか、蓮さん」

シルフが少し心配そうに僕の顔を覗き込む。


「大丈夫だ。職人というのは、理屈と熱意が伝われば必ず応えてくれる」

僕が木製の重厚な扉を押して中へ入ると、熱気と金属の匂い、そして研磨剤の煙が鼻腔をくくった。工房の奥で、カチン、カチンと金属を叩く重々しい音が響いている。


「なんの用だ。冷やかしなら帰れ。今、鉄と話してんだ」

奥から現れたのは、頑丈なレザーエプロンを身にまとった、背の低いガッシリとした体躯の男だった。

太い腕、地面に届きそうなほど見事に蓄えられた立派な髭。間違いない、この世界における最高峰の鍛冶師種族——ドワーフだ。


「おいおいおい、ドワーフのオジサン! お客さんに対して冷たいんじゃないの〜? あたしたち、良い素材を持ってきたんだよ!」

ウィネットが腰に手を当てて抗議するが、ドワーフの店主は鼻で嗤った。


「ハッ、駆け出しの冒険者が持ち込む素材なんざ知れたモノだ。牙か角か知らんが、大半はなまくら剣の飾り程度にしかならん。……特に、そこの兄ちゃんが背負ってる奇妙な棒きれはなんだ? 照準器も無ければ魔導陣の刻印もねぇ。そんな竹の棒じゃ、俺の打った矢の張りに耐えられねぇぞ」


「この弓は和弓という。そして、耐えられるかどうかは矢の作り次第だ」

僕が静かに答えると、ドワーフの眉がぴくりと動いた。


「言ったな、小僧。……まあいい、名前はバログだ。で、何を作れってんだ? 剣か? 槍の穂先か?」

僕が革袋から取り出したのは、風切鳥の青銀色の風切り羽根。そして、あらかじめ羊皮紙に書き込んでおいた一本の矢の『設計図』だった。


「この風切鳥の羽根を使って、僕の和弓専用の『三羽矢(さんばや)』を作ってほしい」


「……三羽矢……だと?」

バログは不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、僕の手から羊皮紙を引ったくるように奪い取った。


「なんだこの不恰好な図面は……。おい小僧、洋弓の矢ってのはな、矢軸の末端に『二枚の羽根』を平行に貼るか、魔導で強制旋回させる『四枚の十字羽』が相場だ。三枚の羽根を、わざわざ『軸に対してわずかに角度を傾けて均等配置』するだと……? これじゃ空気抵抗が増えて失速するだろうが!」

バログは素人扱いするように吐き捨てた。


しかし、僕は崩さず、静かに語り始めた。

「失速はしない。むしろ、直進性が跳ね上がるんだ」


「あぁ?」


「二枚羽は上下の揺れに弱く、四枚羽は構造上重量が増して空気抵抗が大きすぎる。だが、120度間隔で配置された『三羽矢』は、構造力学において最も安定した三脚構造(トライポッド)を大気中で形成する」

僕は設計図の羽根の角度を指で示した。


「さらに、羽根をわずかに斜めに傾けて接着することで、放たれた矢は空気抵抗を『殺す』のではなく、『回転エネルギー』に変換する。矢身が軸回転を起こすことでジャイロ効果が生まれ、風にあおられても軌道がブレなくなるんだ」

バログの手が、ピタリと止まった。


ドワーフの鋭い目が、羊皮紙に描かれた詳細な数値——矢尺、シャフトの重心位置、そして三羽矢の角度計算——に釘付けになる。


「……小僧。お前、魔導陣で無理やり回転させるんじゃなく……羽根の『枚数』と『角度』だけで、空気の力そのものを利用して回転させようってのか……!?」


「そうだ。そして、この風切鳥の羽根は、微小な気流を整える羽毛を持っている。三羽矢の構造とこの素材が組み合わされば、魔法に頼らずとも完璧な直進を生む『絶対の矢』ができる」


工房の中に、重苦しい静寂が流れた。


バログは羊皮紙と、僕が持参した風切り羽根を何度も見比べ、やがて——その立派な髭の奥で、ニィッと口角を釣り上げた。


「ハ……ハハッ! 面白い……面白いじゃねぇか!! 魔導の刻印に頼り切った王都の気取り屋どもとは大違いだ! 物理の『理』だけで矢を回すだと!?」

バログはガシガシと頭を掻きむしり、その瞳に猛烈な職人魂の炎を宿らせた。


「おい小僧、いや……お客さんよ! このバログの腕と意地、全部叩き込んでやる! 最高の『三羽矢』を作ってやるから、そこで見てやがれ!!」

職人の魂に、完全に火がついた瞬間だった。

実際、矢の羽には様々な「鳥の羽根」が使用されています。中には絶滅危惧種となってしまい、以前は使用できていた羽根が現在では使うことができなくなってしまったものもあります。


また、鳥の種類によってもそれぞれの羽根に特徴があります。

例えば、飛行速度が速い猛禽類系の羽根は、強い弓を使用することで矢飛び(矢の速度)が早い場合に用いる事があります。元々速い飛行速度に耐えれるような羽根の繊維となっているため使用回数による羽根の傷みに強い特徴があります。

水鳥(白鳥)の羽根は水に対する耐性が他の羽根と比較すると優れているため、雨の影響を受け難く、泥などの汚れにも比較的強い特性があります。


羽根それぞれが持つ「模様」「色味」「手触り」など様々なので矢を新調する時はワクワクしながら自分の好みの一本を選んだり、オーダーしたりします。

(「一本」といっても、実際には4本や6本を1セットとして購入します。一試合で使用する矢が4本だからです。)

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