第40話:時計塔の夕空と、秘めた決意
魔導具店を出た僕たちは、王都全体を一望できる高台の古い時計塔へと向かった。
階段を登りきると、そこには空を朱色に染め上げる見事な夕焼けが広がっていた。
「綺麗ですね……蓮さん」
「ああ、いい眺めだ」
風が吹き抜け、シルフの銀髪を優しく揺らす。
僕は露店で買ってきた温かい果実茶をシルフへと差し出した。
「ほら、手が冷えてるだろ。飲めよ」
「あ……ありがとうございます」
カップを受け取ったシルフの指先が、ほんの少し僕の手に触れる。
氷塊都市で、彼が自分のマフラーを巻いてくれた時の温もりが脳裏に蘇り、シルフの心臓がトクトクと優しく鼓動を打った。
ふたりで並んで夕日を眺めながら、果実茶を一口すする。甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。
「……蓮さん」
「ん?」
「私……ずっと焦っていたんです。ウィネットさんが来て、蓮さんがどんどん遠くへ行ってしまうような気がして……私なんかが隣にいて良いのかなって、ずっと不安だったんです」
シルフは夕日に照らされた横顔で、素直な胸の内を明かしてくれた。
「でも、さっき蓮さんが言ってくれた言葉で……分かりました。私には私の、私にしかできない『役割』があるんだって。ウィネットさんには負けたくありませんし、これからもっとすごいライバルが現れるかもしれません。でも……」
シルフはカップを固く握り締め、僕の方へと身体を向けた。
その青い瞳には、一切の迷いのない、真っ直ぐな強い意志が宿っていた。
「蓮さんの『和弓の理』を一番近くで理解して、一番近くで支えるのは……私でありたいです。ううん……私になりますっ!」
それは、控えめだった彼女が初めて口にした、強い『独占欲』と『決意』だった。
「……ああ。期待しているよ、シルフ」
僕は静かに微笑み、彼女の頭にそっと手を置いた。柔らかい髪の感触。
シルフは嬉しそうに目を細め、僕の手に自分の頭を擦り寄せるようにして身を預けてきた。
「あーっ! ずるいずるいっ! ふたりだけでそんな良い雰囲気になってる〜!」
突如、階下から賑やかな声が響き渡った。
両手に大量の肉串を持ったウィネットが、息を切らしながら階段を登ってきたのだ。
「ちょっと目を離した隙に、シルフちゃんたら蓮くんに甘えちゃってさぁ〜! あたしも混ぜてよ〜!」
「う、ウィネットさんっ!? い、いつからそこに……っ!?」
シルフは跳び起きるように顔を真っ赤にして僕から離れた。
「えへへ〜、最初から見ちゃってたもんね! 『一番近くで支える』なんて、シルフちゃんも言うようになったじゃん! でもあたしも負けないからね!」
ウィネットはニシッと笑い、僕の腕に抱きつきながら肉串を差し出してきた。
「ほら蓮くん、これすっごく美味しいよ! アーンしてあげる!」
「自分で食べるからいい……」
「もうっ! ウィネットさん、蓮さんを困らせないでくださいっ!」
夕闇が迫る王都の空の下、ふたりの賑やかなやり取りが響き渡る。
だが、今のシルフの表情には、先ほどまでの焦りや不安は一切なかった。彼女の胸の中には、温かい熱と、揺るぎない恋心が確固たる光となって灯っていた。
『ボーン……ボーン……』
時計塔の鐘が夕方五時を告げる。
「よし……そろそろギルドへ戻るか。僕たちの新しいランク証を受け取りに」
「はいっ! 行きましょう、蓮さん!」
「Bランクかぁ〜! 楽しみだねっ!」
三人は並んで時計塔を後にした。
異世界の常識を打ち破る和弓の理と、深まる仲間たちの絆を胸に、僕たちの冒険は次なるステージへと向かっていくのだった。




