氷の魔導具店と、受け取った言葉
大通りを折れた一角に、重厚な装飾が施された高級魔導具店があった。
店内に立ち寄ると、店主が並べた数々の高級な杖や宝珠が、怪しい光を放っていた。
「いらっしゃい。おや、そちらのお嬢さんは氷魔法使いかな? 良いものがあるよ」
店主が奥から取り出してきたのは、巨大な氷結晶が埋め込まれた豪奢な魔導杖だった。
「王立魔導学院御用達の『極氷の霊杖』だ。これ一本で魔導士三人分の魔力を増幅させ、広範囲の吹雪を一瞬で引き起こすことができる。お嬢さんのような若い魔法使いには垂涎の逸品だよ」
「吹雪を……一瞬で……」
シルフはその杖をじっと見つめた。
もし、自分がもっと巨大で強大な氷魔法を使えたなら。蓮の射撃をもっと派手に、もっと強くサポートできるのではないか。そんな思いが頭をよぎる。
「店主、この杖の特性は『拡散』と『出力の増大』だな?」
静かに声をかけたのは、僕だった。僕は飾られた高級な杖を一瞥し、冷静に分析を口にする。
「確かに魔力の絶対量は増えるかもしれないが、魔法の『粒子サイズ』が大雑把になり、密度の均一性が失われる。これでは精密な温度制御や、局所的な急冷却は不可能だ」
「な……何を言っているんだ兄ちゃん! 魔法は威力が全てだろうが!」
反論する店主に、僕は首を横に振った。
「違うな。威力しか見ないのは、物理の本質を理解していない証拠だ。シルフの氷魔法の価値は、そんな大雑把な派手さにはない」
僕は振り返り、驚いた顔で見つめてくるシルフの瞳をまっすぐに見つめた。
「シルフ。僕が弓を使う時、最も重要視しているのはなんだと思う?」
「え……? 精密さ、…でしょうか?」
「そうだ。そして、僕の『音速の火矢』を成立させている最大の要素は、君が放つ『極めて繊細で密度の高い極冷』なんだよ」
「私の……極冷……?」
「ああ。急激な熱収縮を起こして爆発推進力を一点に絞るのも、矢の衝撃を敵の体内に無駄なく透過させる媒介を作るのも、君の『狂いのない完璧な冷却精度』があって初めて成り立つ。もし君の魔法が、大雑把な吹雪のような威力一配の魔法だったら、僕の矢は空気抵抗に負けて空中分解している」
僕はシルフの華奢な肩に手を置き、言葉を重ねた。
「高価な杖も、派手な大魔法も必要ない。僕は……シルフのあの繊細で美しい氷魔法だからこそ、信頼して矢を放てるんだ。君の氷は、僕の弓にとって代わりの効かない、絶対のパートナーなんだよ」
「蓮……さん……っ」
シルフの瞳に、ポロポロと大きな涙が溢れ出した。
落ちこぼれだと自信を失っていた自分。
ウィネットの登場に焦り、自分の存在価値を探していた自分。
そんな自分の全てを、蓮は『和弓の理』を通して、これ以上ないほど完璧に全肯定してくれたのだ。
胸の奥が、熱くて、痛いくらいに締め付けられる。
これは単なる感謝や尊敬ではない。自分の全てを認めてくれたこの人に、一生ついていきたいという、溢れんばかりの愛しさだった。
「……すみません、私……嬉しくて……っ」
シルフは泣き笑いのような表情で目元を拭い、僕の手を両手でしっかりと握り返してきた。
「ありがとうございます、蓮さん。私……私、もっともっと自分の氷を磨きます。蓮さんの最高の矢のために……私だけの極冷を、磨いてみせますっ!」
その力強い言葉と輝くような笑顔に、店主はぐうの音も出ず黙り込み、僕は満足そうに深く頷いたのだった。




