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異世界転移したけど、低スキルでもやっていけますか?(弓道経験は有ります)  作者: sooomen


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第41話:Bランクの初仕事と、難所の峡谷

ギルド本部で新しい『Bランク』の冒険者証を受け取った翌日、僕たちは掲示板の前で新しい依頼の羊皮紙を眺めていた。


銅で縁取られていた以前のプレートとは異なり、手元にある銀色の冒険者証は重厚感と冷たい光沢を放っている。

ランクが上がるということは、それだけ背負う責任と、受ける依頼の難易度が跳ね上がることを意味していた。


「へへっ、銀色のプレート、カッコいいなぁ! 蓮くん、どの依頼にする? Bランクになったんだし、もっとガツンと稼げるやつがいいな!」

ウィネットが身を乗り出し、興奮気味に掲示板の羊皮紙を指差す。


隣に立つシルフは、自分の銀色のプレートをそっと胸元に抱きしめ、静かに僕の顔を見つめていた。その瞳には、街歩きを経て芽生えた確固たる意志と、僕への強い信頼が宿っている。


「稼ぎも大事だが、まずは今の僕たちの連携で確実にこなせる依頼を選びたい。……これなんてどうだ?」

僕が指指したのは、王都の北西に位置する『風鳴り峡谷』からの調査・討伐依頼だった。



【依頼内容:風鳴り峡谷における『風切鳥(ウィンドスカイザー)』の定着調査および間引き】

【概要:峡谷特有の上昇気流に乗り、行商人の馬車を上空から襲撃する個体群の発生。物理攻撃・通常魔法の双方が乱気流により阻害されるため、精密な遠距離攻撃が可能な対策を推奨。】



「風切鳥……。個体としての脅威度はCランク程度ですが、あの峡谷の風と合わさると非常に厄介だと聞いたことがあります」

シルフが記憶を辿るように人差し指を口元に当てて言った。


「そうだな。魔獣自体の攻撃力や耐久力が極端に高いわけじゃない。問題は『環境』だ。強烈な突風と旋風が渦巻く峡谷では、矢も魔法も途中で軌道を大きく削られる」


「ふふん、風ならあたしの専門分野だよ! 任せてよ蓮くん、あたしの風魔法で突風なんて全部吹き散らしてあげるんだから!」

ウィネットが誇らしげに胸を張るが、僕は首を横に振った。


「いや、ウィネット。ただ風を力任せにぶつけるだけじゃダメだ。峡谷の風と君の風が衝突して、余計に乱気流が悪化する。……今回は『威力を上げる』ためではなく、『環境の邪魔を殺す』ための計算が必要になる」


「環境の邪魔を……殺す?」

首をかしげるウィネットと、何かを察したように目を見開くシルフ。


僕は二人に視線を送り、静かに言葉を続けた。

「物理において、最も扱いが難しいのは『不確定な流体抵抗』だ。それを二人の魔法で完全に制御する。……いくぞ、風鳴り峡谷へ」



王都から乗合馬車と徒歩で数時間。

僕たちが到着したのは、切り立った断崖絶壁が幾重にも重なる巨大な裂け目——『風鳴り峡谷』だった。


「ひやあぁっ……! すごい風……っ!」

峡谷の淵に立つと、下から吹き上げてくる突風が服や髪を激しく叩いた。ゴーゴーと耳を刺すような風切り音が響き渡り、立っているだけでも体幹を奪われそうになる。


「これが峡谷の上昇気流か。不規則で、熱気と冷気が入り混じっているな」


僕は弓を構えず、まずは道端の小さな石ころを拾って谷に向かって投げ投げてみた。

石は描くはずの放物線を大きく無視し、途中で不自然に上方へ跳ね上がると、そのまま崖の壁面に叩きつけられて粉砕した。


(なるほど……大気の密度が一定じゃない。局所的な高気圧と低気圧が数メートル単位で入れ替わっている。これでは通常の弓使いなら、十メートル先の標的にすら当てられないはずだ)


「蓮さん、上空です……!」

シルフが短杖を掲げ、上空を指差した。


見上げると、切り立った岩肌の合間を、体長1メートルほどの青銀色の鳥たちが悠々と滑空していた。

4枚の羽を持ち、翼の先端から薄い風の刃を纏っている。

あれが討伐対象の『風切鳥(ウィンドスカイザー)』だ。

彼らは峡谷の複雑な乱気流を完璧に把握しており、風の流れに乗ることで羽ばたくことすらなく超高精度で滑空している。まさに「風の庭」に棲む支配者だ。


「キーーッ!」

僕たちの存在に気づいたのか、一羽の風切鳥が鋭い鳴き声を上げた。それを合図に、上空の五羽が一斉に急降下を開始する。

その動きは直線的ではなく、渦巻く突風に身を任せながら、左右に不規則にブレる蛇行軌道だった。


「来たよ蓮くん! あたしの風で叩き落とす!?」

「待て、ウィネット! 焦るな!」


僕は弓を構え、まずは単射で矢を放った。

シュッ、と静かな弦音とともに放たれた矢は、完璧な狙いで風切鳥の頭部へと向かう。だが——


『ガガッ!』


鳥の10メートル手前で、下方からの激しい上昇気流に煽られた矢は、まるで目に見えない壁にぶつかったかのように上空へ跳ね上げられ、大きく狙いを外れた。


「くっ……矢の自重と断面積に対して、横から加わる風圧の係数が大きすぎるか」


「キーキキッ!」

矢を易々と回避した風切鳥たちは、僕たちを嘲笑うかのように上空で旋風を描き、再び岩影へと身を隠した。


「そんな……蓮さんの狙いが外れるなんて……」

シルフが息を呑む。


僕は外れた矢の軌道を頭の中でスロー再生し、即座に数式を組み上げた。


「大丈夫だ、想定内だ。……二人とも、聞け。相手の体力を削るための大技は要らない。必要なのは、僕の矢を『あの風の壁を突き破らせるための環境補正』だ」

僕は弓を握り直し、二人を見つめた。

強力な攻撃で風を吹き飛ばすのではない。自然の理を解き明かし、最小限の力で最小限の解を導き出す——僕たちの本当の戦いが始まった。

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