第37話:認め合い、交錯する道
訓練場に訪れた静寂の中、レオンは目を見開いたまま、穿たれた石壁の穴を見つめていた。
「バ……カな……? 弾道補正の魔導陣も使わず……初級の種火魔法だけで、なぜこれほどの推進力と直進性が生まれる……!?」
レオンの声が震えている。
彼は優れた弓術士だからこそ、僕の射撃が「タダのハッタリ」ではないことを、その破壊力と完璧な軌道から瞬時に理解してしまったのだ。
「理由は単純だ、レオン」
僕は和弓を下ろし、レオンに向き合った。
「和弓は、握りの位置が中央ではなく下から三分の一の位置にある。これによって、長大な弓身でありながら馬の上や狭い場所でも取り回せ、上部のしなりを大きく使って矢に強烈な復元力を与えることができるんだ」
「に……握りの位置だと……!?」
「さらに、和弓の矢は放たれた瞬間に己の構造によって『軸回転』を始める。魔法で強引に軌道を補正しなくても、自ら空気を切り裂いて直進する力が備わっているんだよ」
僕の説明に、レオンは言葉を失った。
彼は自分が「ガラクタ」と切り捨てた和弓の構造に、計算し尽くされた高度な物理と歴史の結晶が存在していたことを知ったのだ。
「くっ……! だが、そんなものは異端だ! 魔法の支援なしに、毎回そんな精度の高い射撃ができるはずが——」
「一人で射っているわけじゃない」
僕はそう言って、僕の左右に立つシルフとウィネットを見つめた。
「僕の和弓の理に、シルフの極冷による空気圧縮と、ウィネットの完璧な気流制御が加わる。僕たちは互いの『理』を理解し、信頼しているからこそ、この威力を出せるんだ」
「蓮さん……」 「蓮くん……」
二人が愛おしそうに僕を見つめ、シルフは僕の手にそっと自分の手を重ね、ウィネットは僕の肘に嬉しそうに寄り添った。
その三人の完璧な信頼関係と絆を目の当たりにして、レオンはぐっと唇を噛み締めた。
彼には、知識や技術で自分を引き立てる仲間はいても、心から『理』を共有し合える本当のパートナーがいなかったのだ。
「……ハッ、くだらん。仲間ごっこか」
レオンは吐き捨てるように言ったが、その目から先ほどまでの見下すような色は消えていた。そこにあるのは、純粋な敗北感と、ライバルに対する激しい対抗意識だった。
「橘蓮……と言ったな。お前のその妙な弓術と理……今日のところは認めてやる。だが、魔導弓術の可能性はそんなものではない。次に会う時は、僕の弓がお前たちの『理』を完全に超えてみせる」
レオンは背を向け、銀髪を揺らしながら歩き出した。
「ああ。楽しみにしているよ、レオン」
僕が静かに答えると、彼の一瞬だけ肩がピクリと動き、そのまま去っていった。
「ふんっ! なによアイツ、最後まで素直じゃないんだから!」
ウィネットが不満そうに鼻を鳴らす。
「ふふ、でも……少しだけ蓮さんの凄さを理解できたみたいですね」
シルフが柔らかく微笑みながら、僕の顔を覗き込んできた。
「蓮さん。これからも、私を……私たちを蓮さんの隣にいさせてくださいね。どんな強いライバルが現れても、蓮さんの1番のパートナーは……私ですから」
シルフの少し照れた、けれど真っ直ぐな瞳。
「あたしもあたしも! 蓮くんの隣は誰にも譲らないんだからね〜!」
ウィネットが割り込んできて、二人で僕を挟んで腕を抱え込んでくる。
新たなライバルとの出会い、そして深まる仲間の絆。
王都での新しい物語が、ここから静かに動き出そうとしていた。




