第36話:貫く信念と、相容れぬ『理』
ギルドの地下にある訓練場。
レオンの挑発に煽られた訳ではないが、お互いの射撃を見せ合う形で、僕たちは的に向かって立つことになった。周囲には二人の対決を聞きつけた大勢の冒険者や騎士たちが集まっている。
「いいか、見様見真似の異端者よ。これが王都最高峰の弓術だ」
レオンが豪奢な西洋弓を構える。
彼が魔力を練り上げると、弓身の刻印が青白く発光し、弦の上に光の矢が形成された。
『足踏み』も『胴造り』もない。ただ滑らかな動作で引き絞り、放つ。
——シュパンッ!!
放たれた光の矢は、空気抵抗を完全に無視するかのように綺麗な直線を描き、五十メートル先の的の中心を正確に射抜いた。さらに、矢は的を貫通した後に爆発し、木製のターゲットを一瞬で木屑に変えた。
「おおおっ! さすがレオン様! 完璧な魔導誘導と威力の両立だ!」
「やっぱり魔導弓術こそが最強だな!」
ギャラリーから歓声があがる。レオンは誇らしげに顎を上げ、僕を振り返った。
「見たか。魔力によって弾道を補正し、威力を増幅させる。これこそが合理的な弓術の姿だ。お前の持っているような、無駄に長くて扱いにくい竹の棒など、歴史の遺物でしかない」
周囲の視線が僕へと集まる。
レオンの言葉には、彼なりに積み重ねてきた努力と誇り(プライド)があるのが分かった。
彼は単なる嫌な奴ではない。弓術という技術に人一倍の情熱とプライドを持っているからこそ、僕の異質なスタイルが許せないのだ。
僕は何も言わず、和弓を静かに構えた。
足を開き、正しく立つ——『足踏み』。
体幹を垂直に整え、重心を丹田へと落とす——『胴造り』。
弓と矢を構え、視線を的に据える——『弓構え』。
「……なんだ、その悠長な動作は? 構えに何段階も手順を踏むなど、実戦で隙を晒すだけだろう」
レオンが不機嫌そうに鼻で笑う。
だが、僕の隣に立つシルフとウィネットの表情には、一切の迷いがなかった。
「蓮さんの構えは……無駄な動作ではありません。全身の骨格と筋肉を、一つの『器』にするための完璧な準備なんです」
シルフが静かに、しかし力強く呟く。
「そうだよ。蓮くんの射撃は魔法に頼るんじゃない。この世界の『物理』そのものを味方につけるんだから!」
ウィネットが誇らしげに胸を張る。
僕は『引き分け』から『会』へと至る。
竹弓がギチギチと音を立てて限界までしなり、僕の身体と和弓が完璧な一体となる。
僕が目指すのは、魔法で弾道を強引に曲げることではない。
弓の構造、矢身の軸回転、空気の粘性、重力加速度——この世界の理と調和し、究極の一射を放つことだ。
矢先に灯すのは、僕の唯一の初級魔法『種火』。
「——離れ」
音すら置き去りにする一閃。
弦音が響いた時には、すでに的は影すら残さず、後方の石壁ごと穿たれていた。
衝撃波が訓練場全体を揺らし、ギャラリーの歓声が一瞬で静まり返った。




