第34話:インパルス(衝撃波透過)と内部崩壊
「ウィネット、まずは巨鳥の胸元にある羽毛の隙間に向かって、風で一点に超高圧の気流を集中させろ。羽毛の沈み込み(サスペンション)を完全に押し潰して固定するんだ」
「了解! 任せて蓮くん! 『風圧・固定』!」
ウィネットの短剣から放たれた目に見えない風の杭が、巨鳥の胸元をピンポイントで圧迫する。サスペンションの役割を果たしていた羽毛の隙間が密着し、逃げ場を失った。
「シルフ! その圧縮された部位の表面に、氷魔法で氷の媒介を一瞬で形成しろ! 矢の衝撃を一切滑らせずに、ダイレクトに肉体へ伝える『伝達媒体』を作るんだ!」
「はいっ……! 『極冷・密着結氷』!」
シルフが放った極冷の氷が、ウィネットの風で固定された胸元に寸分の狂いもなく張り付く。硬い金属羽毛と矢の先端を物理的に隙間なく繋ぐ、完全な衝撃伝達ブリッジが完成した。
『ギ……ガ……!?』
巨鳥が異変を察知し、翼を羽ばたかせようとする。
「逃がさない」
僕は和弓を限界まで引き絞り、会に入った。
矢先に灯すのは、僕の唯一の魔法——最低ランクの初級魔法『ボム・プチ(種火)』。
「和弓の矢が放つ超超音速の運動エネルギー……それを一点に集約し、媒質を通して内部へ叩き込んだ時どうなるか……お前は知らない」
『足踏み』
『胴造り』
『弓構え』
『引き分け』——『会』。
「——離れ!」
放たれた一矢は、旋風回転と熱推進を伴いながら、完璧に計算された胸元の『氷の媒介』へと直撃した。
『——衝撃波透過!!』
矢は金属羽毛の表面を一切破壊しない。
だが、矢が持っていた超超音速の莫大な運動エネルギーと『ボム・プチ』の爆風圧力は、シルフの氷とウィネットの風によって固定された媒質を『波』として一瞬で透過。
巨鳥の分厚い装甲を通り抜け、そのまま内部の心臓と内臓器官へと全エネルギーがダイレクトに叩き込まれた。
『ガ……ッ!? ギ、ギガガガガガガガガッ!!??』
巨鳥が目を見開き、血の気の引いた絶叫をあげる。
外見は何の傷もついていない。しかし、内部の組織は衝撃波の相乗効果によって激しく破砕されていた。
「外側を破る必要なんてない。物理のエネルギーは、正しく導けば『透過』するんだ。……崩れろ」
僕が静かに呟いた瞬間。
―――――ドッ!!!!
重く鈍い打撃音が巨鳥の体内から響き渡った。
金属羽毛の防壁に守られていたはずの巨鳥が、内側からの衝撃に耐え切れず、白目を剥いてその巨体から崩れ落ちた。ドシン、と激しい音を立てて絶命し、動かなくなる。
周囲の風が止み、静寂が谷間へと戻ってくる。
「……す、すごい……」
物陰に隠れていた騎士たちが、目の前の光景に開いた口が塞がらない様子で呆然と呟いた。
「弩弓も魔法も通じなかった鉄甲巨鳥が……一傷も負わずに倒れた……!?」
「な、なんだあの少年は……!? あの弓使いは何者なんだ……!?」
手のひら返しのような驚愕と称賛の声が周囲から上がる。だが、僕はそれらに視線すら向けず、静かに和弓を弓袋へと収めた。
「蓮くんっ! すごい、凄すぎるよ!! 表面を壊さないで倒しちゃうなんて、あたし思いつきもしなかったよ!!」
ウィネットが目を輝かせて僕の背中に飛びついてくる。
「お、おいウィネット、危ない——」
「蓮さん……っ! 私たちの魔法が、完璧に噛み合いましたね……!」
シルフもまた、興奮で頬を上気させながら、僕の手を両手でしっかりと握りしめてきた。その瞳には、隠しきれない熱い敬愛と恋心が宿っていた。
「ああ。シルフの氷の媒介と、ウィネットの気流固定……ふたりの協力がなければ、この衝撃波ハックは成功しなかった。ありがとう」
僕がふたりに向かって静かに微笑むと、シルフは顔を真っ赤にして「れ、蓮さんの力になれて……嬉しいですっ」と俯き、ウィネットは「へへっ、もっと褒めてくれてもいいんだよ〜!」と抱きつく力を強めた。
どんな理不尽な装甲も、物理の理と信頼する仲間がいれば打ち破れる。
僕たちは確かな手応えを感じながら、再び王都への道を歩み始めたのだった。




