第33話:鉄甲の障壁と受け流しの理
峡谷の入り口に足を踏み入れると、凄まじい風切り音が鼓膜を震わせた。
見上げれば、体長十メートルを超える巨大な巨鳥が切り立った岩壁の上に鎮座していた。全身を覆う黒銀色の羽毛が、鈍い金属光沢を放っている。
『ギィィィアアアアアッ!!!!』
僕たちの姿を認めた鉄甲巨鳥が雄叫びを上げ、巨大な翼を力強く羽ばたかせた。
それだけで局地的な暴風が発生し、周囲の巨大な岩石がガタガタと激しく揺れ動く。
「くっ……!? 蓮さん、風圧が……っ!」
シルフが胸を押さえ、吹き飛ばされそうになりながら足を踏ん張る。
「シルフ、下がるな! ウィネット、風圧を逃がせ!」
「任せてっ! 『流体・整圧』!」
ウィネットが短剣を振ると、僕たちの前方に流線型の風の流路が展開され、襲い来る猛烈なダウンバーストが左右へと綺麗に受け流された。
「助かったよ、ウィネット」
「へへん、あたしを誰だと思ってんの! でも蓮くん、あいつマジで硬いよ……見て!」
ウィネットが指さした先で、谷を逃げ遅れた領地の騎士たちが放った弩弓の大矢や、爆炎魔法が巨鳥を直撃していた。
しかし——金属羽毛に当たった大矢は火花を散らして弾け飛び、爆炎も羽毛の積層構造によって綺麗に表面を滑り、傷一つ与えられていなかった。
「バ、バカな……!? 竜の鱗をも穿つ弩弓すら通用しないというのか!?」
「ひいっ! 魔法の炎が滑って弾かれたぞ……っ!」
騎士たちは激しい衝撃波に巻き込まれ、次々と吹き飛ばされていく。
「蓮さん、どうして攻撃が通らないのですか……!? 氷魔法で表面を凍らせようとしても、あの硬い羽毛に滑って魔力が伝わりません……!」
シルフが悔しそうに歯噛みする。
「理由は二つある」
僕は和弓を構えず、じっと敵の翼の構造と羽ばたきの運動を観察しながら解説を始めた。
「一つは、あの羽毛の表面が極めて硬い『積層鉱物構造』になっていることだ。硬度が高い上に、ウロコのように重なり合っているから、点の攻撃(刺突)も面の攻撃(爆発)も滑って威力が分散する」
「す、滑らせて威力を殺してるってこと……!?」
ウィネットが驚愕の声をあげる。
「そうだ。そしてもう一つ——あの分厚い羽毛と皮膚の間に存在する『空気の層』だ。外からの衝撃を受けると、羽毛がサスペンションのように沈み込み、内部への運動エネルギー伝達をカットしている。だから普通に矢を叩き込んでも、表面でエネルギーを全て吸収されて終わる」
「そんな……じゃあ、どんな攻撃も意味がないじゃないですか……!」
シルフの顔に焦りが広がる。だが、僕は和弓から一筋の矢を抜き取り、その先端を指で撫でた。
「表面で威力を殺されるなら——外側を傷つけず、衝撃波(波形)だけを体内に直接透過させればいい」
「あ……!」
シルフが何かを思い出したように目を見開く。
「外側を壊すのではなく……『内部』へ直接エネルギーを届ける……ということですか……?」
「その通りだ、シルフ。水中で爆薬を爆発させると、外傷がなくても内臓が一瞬で破壊される(水圧弾効果)。それと同じ理屈を作る」
僕は一歩前へ踏み出し、和弓を引き絞った。
「ウィネット、シルフ。僕の指示通りに魔力を合わせてくれ。奴の『絶対防御』を、僕たちの物理で上書きする」




