第30話:無抵抗空間
訓練場へ移動した僕たちは、的に向かって立つ。
「あたしのレベルは、シルフちゃんよりちょっと上くらいだけどさ。派手な爆発魔法が評価される学院じゃ、地味な気流操作なんて評価されなかったんだよねぇ。……でも、蓮くんならあたしの真価、分かってくれるでしょ?」
ウィネットはニシッといたずらっぽく笑い、僕の隣に並んだ。
「ああ。魔法の派手さなんて関係ない。理に適っているかどうかだ」
僕は和弓を引き絞り、会に入る。
矢先に初級魔法『ボム・プチ(種火)』を灯すと同時に、指示を出した。
「ウィネット、矢の進行ルート上の空気を、外側へ押し広げてくれ」
「任せて! 『整気・流圧』!」
ウィネットが短剣を振ると、矢の直前にある大気が目に見えない筒状に押し広げられた。
——離れ!
放たれた一矢は、ウィネットの作った無抵抗空間へと飛び込む。
空気抵抗が極限まで削ぎ落とされた空間で、矢の熱推進とドリル回転が爆発的に跳ね上がった。
―――ズガアアアアアンッ!!!!
従来の『音速の火矢』を遥かに凌駕する、マッハ3を超える超超音速衝撃波。
的として設置されていた厚さ数十センチの鉄鋼板が、一瞬で跡形もなく粉砕され、後方の岩山まで爆砕した。
「な……なんですか今の速度……っ!?」
シルフが目を丸くして呆然とする。
ウィネット自身も、自分の風が引き起こした破格の威力を前に、呆然と自分の手を見つめていた。
「う、嘘……あたしの地味な風が……こんな……!?」
「素晴らしいな、ウィネット」
僕は和弓を下ろし、ウィネットに向かって頷いた。
「君の気流操作は地味どころか、僕の矢の可能性を数倍に跳ね上げる最高の技術だ。落ちこぼれなんて言った奴らは、物理の基礎すら知らない愚者だよ」
「蓮くん……っ!」
ウィネットの瞳が熱く潤み、次の瞬間、彼女は跳びつくように僕の首に抱きついてきた。
「あたしを認めてくれたのは、君が初めてだよ! 決めた! あたし、今日から君のパーティに入る! ずっと隣で風を吹かせてあげるね!」
「お、おい、ウィネット……っ! 離れろって!」
「えへへ、減るもんじゃないし良いじゃん〜!」
グイグイと積極的に身を寄せてくるウィネット。
その光景を見ていたシルフの周囲で、パキパキと不穏な凍結音が鳴り響いた。
「れ、蓮さんっ! そんなにベタベタ触らせちゃダメですっ! 離れてくださいウィネットさんっ!!」
「え〜? シルフちゃん嫉妬? かわいい〜!」




