第29話:風を操る「落ちこぼれ」
氷塊の領土での大戦功から数日後。ガルガノスのギルドで、僕とシルフは依頼の受付を済ませていた。
「ねえねえ! 君が噂の『音速の射手』、橘蓮くんでしょ!?」
突如、後ろから肩をドンッと力強く叩かれた。
振り返ると、ショートボブの金髪を元気に揺らし、好奇心に満ちた緑色の瞳を輝かせている少女が立っていた。
「……誰だ?」
「あたしはウィネット! 風魔法使いの冒険者だよ! ずっと君の噂を聞いて探してたんだ!」
ウィネットと名乗った少女は、人見知りを一切しない様子で僕の顔を覗き込んでくる。距離が近い。
「あ、あの……ちょっと蓮さんに近すぎです!」
慌てて割り込んできたのはシルフだった。僕の腕を抱えるように引き寄せ、ウィネットを警戒するように見つめる。
「ふーん? 君が相棒の氷魔法使いちゃん? かわいいねぇ。でもね、あたし……蓮くんの戦い方を聞いてビビッときちゃったの!」
ウィネットは腰に手を当て、自信満々に胸を張った。
「あたしの風魔法、学院じゃ『威力が低くて刃も薄い』って落ちこぼれ扱いされて追放されたんだけど……空気の流れをコントロールさせたら誰にも負けないんだ! 蓮くんの『音速の矢』、あたしの風があればもっと遠く、もっと速く飛ばせるよ!」
「空気の流れのコントロール……?」
僕は興味を惹かれた。
僕の『音速の火矢』は、旋風回転と熱推進で無理やり空気抵抗を押し破っている。
もし、矢の進行方向にある空気そのものを風魔法で押し広げ、『瞬間的な無抵抗空間』を作れるとしたら……。
「面白そうだな。シルフ、一度ウィネットの実力を試してみないか?」
「え……蓮さんがそう仰るなら……」
シルフは少し不満そうに唇を尖らせつつも、僕の言葉に小さく頷いた。




