第28話:神の槌
山体の陰、絶対の安全圏に陣取っていた敵の巨重装甲兵団。
「ハハハ! 城塞の奴らめ、手も足も出まい!」
「この山を越えて攻撃できる手段など、この世に存在せ——」
その瞬間。
空が割れた。
『——ギィィィィィンッ!!!!』
空気の壁をぶち破る、猛烈な大衝撃波。
雲を突き破って降り注いだのは、単なる矢ではない。
天高くで位置エネルギーを最大まで蓄え、落下とともに重力加速度で極限まで加速。
さらに軸回転による旋風と種火の熱推進を限界まで乗せた——音速の隕石はまさに『神の槌』だった。
『ドガァァァァァァァン!!!!』
爆風と衝撃波が、山裏の本陣を一瞬で呑み込んだ。
絶対の防御を誇る重装甲が一瞬で微塵に打ち砕かれ、巨大なすり鉢状のクレーターが地面に刻まれる。
「な、なんだ!? 天から雷が降ってきたぞ!?」
「山を越えてきた……!? 馬鹿な、敵の攻撃だというのか!?」
パニックに陥り、雲散霧消していく敵の大軍勢。
城壁の上でその光景を目撃した精鋭兵たちは、開いた口が塞がらなかった。
「あ……あり得ん……」
「山を……越えた……? 視界の外から、一撃で本陣を潰したというのか……!?」
呆然と立ち尽くす兵士たちの中で、シルフだけが誇らしげに胸を張っていた。
(ご覧なさい! これが私の大好きな……ううん、私の信じた蓮さんの『理』なんです!)
思わず口から出かかった言葉にハッとなり、シルフは顔を真っ赤にして両手で口を覆う。
「……シルフ? どうした、顔が赤いぞ。やっぱり寒かったか?」
振り返った蓮が、心底心配そうにシルフの顔を覗き込んできた。
距離が近い。吐息が触れそうなほどに。
「〜〜〜っ! なんでもありません! なんでもありませんから、早く街に戻りましょうっ!」
シルフは照れ隠しに蓮の手を引っ張り、歩き出した。
マフラーに埋めた顔の奥で、心臓がうるさいくらいに高鳴っていた。
(……もう ……カッコよすぎます、蓮さん)
和弓の理が異世界の常識を打ち破るたび、少女の胸に芽生えた小さな種火もまた、確実に大きく暖かくなっていくのだった。




