第25話:正射必中
——フッ。
爆音も、大気を揺らす衝撃波も起きなかった。
弦音が小さく鳴り響いた瞬間、放たれた一矢は、静かに大気を滑るように飛翔した。
粘獣が誇る「絶対真空の結界」——それに触れた瞬間。
矢は勢いを失うことも、消滅することもなく、あたかも最初からそこに空間など存在しなかったかのように、スッと結界を滑り抜けた。
「キ……ッ!?」
粘獣が驚愕に身をよじる。
衝撃を吸収するはずの不気味な流体表皮すら意味をなさず、矢は粘獣の表面を完全に「透過」し、体内の中心に存在する『核』へと深々と突き刺さった。
そして——
(全・開・放!!)
矢の先端に封じ込められていた『無の種火』が、粘獣の核の内部で一気に全方向へと解放された。
―――――ガアアンッ!!!!
「ギシャアアアアアアッ……!?」
外側からの攻撃を一切受け付けなかった無敵の巨体。
それが内側から風船のように一気に膨れ上がり、絶叫とともに弾け飛んだ。
内側から破壊された黒い泥は、熱を発することなく一瞬で乾燥し、ただの乾いた砂となって風に舞い散っていく。
残心。
一射の締め括り。呼吸を整え、放った矢の行く末を見届ける。
あまりにも静かで、あまりにも圧倒的な決着に、誰一人として言葉を発することができない。
「とお……った……」
シルフがポロポロと涙をこぼしながら呟き、まっすぐに走り寄って僕の胸へと飛び込んできた。
「蓮さん! 蓮さん……っ!!」
「ありがとうシルフ。君が僕を信じてくれたから、僕は自分の『射』を取り戻せた」
シルフの髪を優しく撫でながら、僕は己の手の中にある和弓を見つめた。
挫折を知り、物理の仕掛けを超えて『無の境地』へと至った一射。
弱点を克服し、真の無敵となった僕の前に、もはや破れない壁など存在しないのだった。




