間章Ⅲ:家政学部三年 奥条紗蘭の場合
あの馬鹿はどこかで無茶なことをしようとしてはいないだろうか。私は一つ年上の幼馴染である灰崎琉貴のことを考えて溜息をついた。
「さらちゃんどしたー?」と配信画面にコメントが流れてきて、ああごめんごめん、と私はスマートウォッチのインカメラに向かって苦笑を浮かべてみせる。
「ちょーっと気掛かりがねー。私の幼馴染もこのゲームに参加してるんだけど、それが何か瞬間湯沸かし器みたいな奴でねー。何かしでかすんじゃないかってちょっと心配なんだよねー」
琉貴はきっと、突然こんなゲームを開催した大雅に対してひどく憤っていただろう。大雅と親しくしていた以上、あいつのことだから裏切られたように感じているかもしれない。
「瞬間湯沸かし器って超昭和w」私を茶化すようなコメントが流れてきて、はははと私は笑った。本来なら、笑っていられる精神状態なんかじゃなかったけれど、そうでもしていないと気分が鬱々として塞ぎ込んでしまいそうだった。どうしてあいつや私がこんな目に、って。
あいつのことだ。動画の視聴者を通じて警察にこの事態を通報しようとするか、隣の管理棟にいる大雅の元へ殴り込みに行こうとする可能性が高い。前者も後者も、先ほどの通話での大雅の口ぶりからして何かしらのルールに抵触してしまう可能性が考えられる。
馬鹿なことをしないといいけれど、と思いながら私は通路を曲がる。倉庫のような部屋が並んでおり、ゾンビがいないのであれば、身を潜めているにはよさそうな場所だった。
しかし、大雅が言っていたことを一旦すべて鵜呑みにするとすれば、このゲームはどこかに隠れてゾンビをやり過ごしていれば勝ち残れる類のものではない。このゲームの中でどれだけ視聴者の興味を惹き、視聴者数といいね数を稼ぐかと、稼いだポイントをいかに上手く運用していくかが肝要だ。
琉貴のことも気掛かりではあるけれど、まずは自分の心配をしないと。そう思いながら、私は左右を倉庫で挟まれた通路を足早に抜けて行った。




